第2話 「サバイバルの葛藤」

麗司は自宅を出たばかりだったが、すでに心の中には様々な葛藤が渦巻いていた。目の前に広がる荒廃した世界は、彼を冷静にさせてくれるどころか、恐怖心をさらに増幅させていた。周囲には音もなく徘徊するゾンビたちがいるかもしれない。そのことが頭を巡るたびに、心拍数は徐々に上がり、鼓動が耳に響いて感じられた。

前へ進む一歩は、彼にとって一つの挑戦だった。何もかもが未知で、動き出すための覚悟が必要だった。目指すスーパーは視界の先に見えているが、その道のりは決して平坦ではない。繁華街の中を慎重に歩きながら、彼は自分の目の前にある現実と向き合っていた。

「何から始めればいいのか?」

彼は心の中でつぶやく。無意識に言葉を口にしたことが、彼の気持ちを少しだけ和らげた気がした。彼の頭の中には、サバイバルのための知識や過去のゲーム、アニメで得た経験が流れ込む。目の前に迫る危険を回避しながら物資を確保し、生き延びるための策を練らなければならない。

麗司はまず、一歩一歩注意深く、周囲を見渡しながら進んだ。影のような存在が周囲をさまよっているかもしれないことを想像したとき、彼は自分がどれほど無防備であるかを実感する。音を立てないように慎重に周囲を確認すると、建物の間から聞こえる冷たい風が彼の体を撫でていく。思わず、寒気を感じた。

道沿いには、ひっくり返った車や、放置された荷物が見える。彼はこれらが何を意味するのか、過去の出来事を想像しなくてはならなかった。人々がどのようにしてこの状況に陥ったのか、彼は考えた。もしかしたら、これも過去の作品の一部であるかのように思えた。しかし、今はそれを振り払う必要がある。現実は彼に残酷だからだ。

少しずつ進みながら、スーパーへ到達するためのルートを選んでいく。瞬時に
「ここは危険だ」
と感じる場所には近寄らない。そこには、彼が望む物資があったとしてもだ。成功する確率が低い場所には近づかないというリスクマネジメントは、このサバイバルにおいて非常に重要な要素だった。

やがて、目指していたスーパーが視界に入ってきた。大きな看板が、周囲の静けさの中で不気味に浮かび上がっている。それでも、麗司はその場所が安全であることを急いで確かめる必要がある。一瞬、彼は停まって周囲を観察し、異常がないかどうかを確認した。

スーパーの入り口には、無残に倒れた人々や廃棄されたカートが散乱していた。思わず彼の胸が締めつけられる。人間だけが道の種を循環させる存在であることを、彼は痛感した。再び、彼の心の中には怖れと危機感が広がった。

「今の状況で、間違った行動をしたら、どうなるのか」

彼の身体が凍りつき、冷たい汗が頬をつたっていくのを感じる。そんな感情と向き合うさなか、
「冷静になれ、麗司」
と自分に言い聞かせる。成功率を上げるためには、何か策を立てる必要があることは彼もわかっていた。

ゆっくりとスクリーンを向け、まずは不安を感じる人々の反応を見極める。不気味に静まり返ったスーパーの前では、彼の感覚が研ぎ澄まされていく。さらに、音に注意深く耳を傾けなければならない。ゾンビがいる場合、彼は一瞬で彼らに見つかり、猟犬のように追いかけ回される可能性を抱えていた。そうなれば、彼が生き延びるために築いた過去のサバイバル知識が無駄になってしまう。

麗司は、自分の心を落ち着かせるために、深呼吸を繰り返した。そして、動ける状況が整った瞬間、彼は一歩踏み出した。迷いを残さず、彼はスーパーの入り口へと近づいていく。

ドアを慎重に開けると、内部は薄暗く、腐ったような異臭が充満していた。そんな光景が待っているとは思わなかった。さまざまな食材や日用品が散乱し、劣化が進んでいる。この状況では、数日前にはまだ居ただろう他の人々と出会うことはなかったが、代わりに店内は無人だった。

彼は懐中電灯を取り出し、周囲を照らしながら進む。光の中には、壊れた棚や落ちた食品が見えた。麗司は、彼が狙っている物資に気をつけながら、避けられるものを避けて道を進んでいった。棚が崩れていたり、食材が倒れていたりする光景は、本当にこのスーパーが何日も前から放置された結果であることを物語っていた。

「これも、何らかの人々の生活の一部だったはずだ」

彼は大きくため息をついた。さらに、物色の手を伸ばしながら進む。冷蔵庫の前に立つと、そこには残された食材の残骸が混乱を乗り越えた形で横たわっていた。生鮮食品が劣化する間隔は、彼にとっての最大の懸念材料だった。ただ、彼がこの場にいる限りはいずれ新鮮さを求めることは難しいとわかっていた。

彼は冷蔵庫の中を慎重に覗き込み、数日前の残された日付のプリントがある缶詰や冷凍食品を見つける。食材を少しずつ選び、リュックの中に詰め込む。食料確保が最も重要な課題だと彼は自覚していた。

とはいえ、彼は心の中に急に湧き上がる質問を抱えつつ、これ以上の時間を無駄にはできない。いつ、このスーパーにゾンビが現れるかわからないのだから。他の生存者が来ている可能性だって考慮する必要があった。彼にとって、視界の中に誰か異変を示す存在が現れることも考えなければならなかった。

長く感じる時間の中で、彼は何度も心の中で
「冷静になれ」
と自分に言い聞かせ続けた。リュックがだんだん重たくなることに注意しつつ、彼はできるだけ軽快に物を集め続ける。その意識が、彼の心に焦りをもたらした。

やがて、様々な食品をリュックに詰め込む作業が終わり、彼は冷蔵庫周辺を離れようとしたその瞬間、かすかに音が響いた。

「何の音だ?」

彼は驚いて背後に振り向く。そして、恐怖心が彼の心を支配する。その音は、ゾンビが徘徊している音なのかもしれない。もし彼が気配に気づかなかった場合、目の前には危険が迫っている。それを予感した彼は、一瞬自分のいる位置を忘れ、脱出道路を探ろうと動き出す。

スーパーの暗がりの中で、麗司は息をひそめた。何かが動いているのを感じ取りながら、彼は一瞬立ち止まった。あなたが生きるためには、サバイバル。本来の自分を取り戻そうと思ったとき、再び心臓が高鳴りはじめる。

彼はリュックを抱え、緊張したまま、足元の音を消して視線を周囲に向けた。視界を狭めておくことで、彼はその音の正体をつかまなくてはならなかった。制御の効かない恐怖感を必死に抑え、周囲の音に耳を傾けたまま、動くことをためらう。

動いている
「音」
は間違いなく物の音だ。しかし、死体や生き残った元人間が存在するかも知れない。一瞬の判断力が命を左右する。彼は背後から聞こえた物音の正体を確認するため、時には立ち、時には膝をついて音の出所を特定するための猶予を探った。

動く音の正体がわからないまま、彼は必死に静かに身を隠さなければならなかった。彼の心の鼓動は高く、揺らいでいたが、それでも彼は動くことを止められなかった。生き残るためには、冷静さが求められる。

ゆっくりと物音の方向に進み、その先に待ち受けているであろう驚愕の場面を想像しながらも、麗司はそれでも身をおさえ、冷静さを取り戻すことを選ぶ。果たして彼は、この不気味な店舗で生き残ることができるのか? 彼の心の中には、生き残るために捨てておかなければならない決断と、冷静さの重要性が交錯していた。

そして、その瞬間、彼の前に現れたのは信じられない光景だった。近くの生存者、もしくはゾンビなのか。麗司は一瞬たじろぎながらも、彼の内に秘めた思考が彼の目に燃えるような意志を呼び起こす。

何が待っているのかはわからない。しかし、彼は、まだこの瞬間に生きている限り、手を伸ばし続けなければならないのだ。生きるために、彼は次の選択肢を選ぼうとしていた。