麗司は、午前中の路上で目撃した衝撃の光景を思い返しながら、部屋の中を徐々に整理していた。彼は目覚めた瞬間から、異常な音や臭いに囲まれていた。辺りは静まり返り、時折聞こえる微かな物音が不気味さを増した。この静寂は、まるで何か恐ろしい出来事の前触れのように感じられた。いつもなら、仕事に向かうために身支度を整える時間だが、今日はその準備は生活を維持するための作業に変わってしまった。
麗司は、冷蔵庫の中身を確認する。一週間も持たないだろうが、せめてこの数日間は生き延びるための準備をしなければならない。カップ麺やレトルト食品を一つ一つ確認し、確保できる現状を把握する。インスタント食品は非常食としての役割を果たすが、どれだけあっても生鮮食品とは違って、味気なさが募る。食べることは生きること、その感覚が今の彼には深く刺さった。
窓際に近づき、外の様子を覗き見た。視界に広がるのは、荒廃した街並みだった。ここに昔あった賑わいはなく、今はただ街を徘徊する亡者たちがいる。麗司は思わず息を飲み、あのゾンビたちがどれほどの力を秘めているのか想像する。彼らは視覚を失い、音だけに反応している。つまり、音を立てなければ、彼の存在には気づかれないだろう。しかし、それがいつまで続くのかは誰にもわからない。
「次は何をしよう」
何を優先順位にして行動するかが大切だ。麗司は冷静に考える。飲料水、食料、そして日用品、特に衛生管理は重要だ。彼はどちらかと言うと内向的で、他人と過ごすことが苦手な性格だったが、今はそうはいられない。生き残るために、知識と冷静さを駆使せざるを得ない。過去のゲームやアニメで培ったサバイバル知識は、今や文字通りの命綱となっている。
彼が考えたのは、最寄りのスーパーへ行くことだった。しかし、あの街に生存者がいるかどうかもわからないし、もしもゾンビが待ち構えているなら、自分はどうやって帰ってこられるのだろうか。麗司はスマートフォンを開いて地図を確認する。コンパクトな地図に目を通し、ルートを考えた。声を出さない、音を立てない。避けるべき場所を視覚化し、無駄と危険を最小限に抑えなければならない。
準備のために必要な道具を集め始めた。手近にあったリュックサックを引っ張り出し、必要なものを詰め込む。飲料水は一リットルのペットボトルを数本、おにぎりやカップ麺などの食料、加えて懐中電灯や予備の電池、ナイフ、そして自己防衛のためのアイテムも入れた。できる限り軽量化し、素早く移動できるように工夫を凝らす。
そして、彼は考える。もしスーパーがすでにゾンビで満ちていたら? そうなれば戻る道をしっかりと決めておかなければならない。道筋を確認しながら、帰るための目印を頭に描く。自宅への道のりを把握することが生死を分けるのだ。このような状況下では、特に正確な判断力と迅速な行動力が求められる。
「行けるか?」
麗司は自身に問い掛ける。恐怖心が彼を支配しそうになるが、それを振り払う。彼には逃げ場がない。サバイバルの世界で、自分のバランスを崩してはいけない。過去の自分に戻ることはできないのだから。
準備を整えた麗司は、次第に覚悟を決めていく。外の不気味な静けさが彼の心に影を落としているが、その影は彼の思考を鈍らせるものではなかった。何が待ち受けているのか分からない状況だが、先へ進むしか道はない。彼の心に小さな一歩を踏み出す勇気が芽生え始めていた。
リュックを背負い、ゆっくりと玄関に向かう。しかし、ドアを開ける直前、彼はふと立ち止まり、耳を澄ませた。街の肌触りを感じるかのように。彼の心拍数は徐々に上がり、彼が生きるための決意が高まる。腕に力を込めてドアを開けた瞬間、あの異常な空気が一瞬彼を包み込んだ。
ゆっくりと外の景色を見渡す。遠くに、かすかに動く影が見えた。麗司は恐る恐る、視線を引き戻し、Noiseの発生を防ぐように注意した。一歩、また一歩とゆっくり進む。
周囲を見渡し、安心だと思える部分を探し出す。自宅を出た分、這いつくばるように街の様子を観察する。荒れ果てた路地には、踏みつけられた廃品やゴミが転がり、風が吹き抜けるたびに、その隙間から何かが音を立てているのを感じる。
目指すスーパーは視界の先に見えていた。しかし、その道のりはさまざまな障害で大量の危険が散乱している。麗司の心に、恐怖しか残っていない。一体、これから何が待ち受けているのか? 明確にはわからないが、あのロゴを見つけた瞬間には、心の中で何かが弾けるのを感じる。
彼はその瞬間、自分が生き残るためにどれほどの覚悟が必要かを、再び思い知らされたのだった。動けるうちに動こう。その思考が彼を突き動かす。生き残るための一歩、次の一歩を踏み出すために、麗司は今、動いている。