第6話 「失踪した友を救え!」

雪がちらつく寒い冬の日、久遠乃愛(くおん のあ)は自宅の書斎で推理小説を読みふけっていた。ふわりと揺れるロングストレートの黒髪が、彼女の美しさを引き立てる。ちょうどそのとき、幼馴染の雪村彩音(ゆきむら あやね)が元気よくドアをノックした。

「乃愛ちゃん!大変よ!急いで来て!」

彼女の声はいつもより興奮している。乃愛は冷静に本を閉じ、立ち上がった。

「一体、何があったのですか?」

彩音は慌てて部屋に飛び込んできた。彼女の茶髪のボブカットが揺れ、いつもの明るい笑顔が険しい表情に変わっているのを乃愛は見逃さなかった。

「学内の医務室で、学生が行方不明になったの!どうやら、昨晩から姿を消しているみたい…」

乃愛はいったん考え込み、心の中で推理を巡らせた。彼女はこれまでにもいくつかの事件を解決してきた経験がある。失踪事件は複雑で危険な匂いがするが、彩音がいるならば心強い。しかし、何か嫌な予感がした。

「失踪の理由は分かるのですか?」

彩音は首を横に振る。

「今のところ何も。でも、早く行かないと…他の人が調査する前に私たちが手がかりを掴まないと」

彼女の切実な一言に乃愛は頷いた。

「分かりました。今すぐ行きましょう」

彼女たちは医務室へと急いだ。廊下には数人の学生が行き交っていたが、その中には失踪した学生の姿はなかった。医務室へ着くと、医務室の先生が心配そうに待ち受けていた。

「久遠さん、雪村さん。来てくれて助かります。被害者は田島健太君という学生です。昨日の夜には医務室にいたらしいのですが、それ以降姿を見せていないんです」

「最後にあった方にお話を伺えますか?」

乃愛は冷静に尋ねた。医務室の先生は頷き、田島君の友人に連絡を入れた。しばらくすると、肌寒い廊下を挟んで談話室から一人の学生が現れた。

「こんにちは。田島の友人の野村です」

彼は緊張した面持ちで、自分の手が震えているのを隠そうとした。でも、その目は怯えと不安に満ちていた。乃愛は、その反応を見逃さなかった。

「田島君が最後にいた時の様子を詳しく教えていただけますか?」

少し緊張した声で野村が話し始める。

「昨日、田島は医務室で具合が悪いと言っていたんです。医者に診てもらうために待っていたんですが、途中で急に外に出て行ってしまった。どうやら、外に友達を呼びに行くと…それからずっと連絡がとれなくなった」

乃愛はその話をよく聞きながら、心の中でいくつもの推理を巡らせた。彼女は医務室の机の上に目をやると、何かが光っていた。それは机に残った爪痕だった。

「申し訳ありませんが、触れてもいいですか?」

乃愛は野村に尋ねる。彼は驚きつつも黙って頷いた。乃愛は爪痕をじっくり観察し、それが何かを掴むための重要な手掛かりとなることを願っていた。

「爪痕は何かに引っかかれたような形になっていますね。動揺していたのかしら…」

妙な感覚が乃愛の中に芽生えた。失踪の理由について考えを巡らせつつ、彩音に目をやると、彼女はまっすぐにその痕跡を見ていた。

「乃愛ちゃん、田島君がこの部屋を出たのはどうしてかしら?」

「外に誰かを呼びに行ったと言っていましたが、今になって思うと、それは本当に友達だったのでしょうか?」

その疑問が彼女たちの頭の中で鳴り響いた。乃愛はその後、医務室の外に広がる学内を観察しながら、美しい雪景色の中で重要な手がかりを探し続けた。その時、ふと目を引くようなビラ配りをしている若者の姿があった。それは駅前で流行している新しいサービスの宣伝だったが、何か違和感を覚えた乃愛はその姿を注視した。

「彩音さん、あの若者に話を聞いてみましょう」

乃愛は足早にその若者に向かう。若者は不安そうな表情をしながら、客引きを続けていた。

「すみません、ちょっとお伺いしてもいいですか?」

乃愛が話しかけると、若者はびくっとした。彼はやや慌てた様子で目を逸らしながら、無口で応じた。

「田島君を見かけなかったですか?」

若者はしばらく沈黙して考え込んでいたが、やがて低い声で言った。

「見かけましたけど…あんまりいい思い出じゃないです」

「なぜですか?」

「昨日、彼は医務室から出てきた時、ずっと不安そうな顔をしてた。俺も色々あったから、その気持ちはわかる…」

「何か特別な事情があったのですか?」

若者は一瞬ためらったが、やがて口を開いた。

「俺、家族のためにちょっと……色々やってて。そんなことで、田島も行き詰まってたんじゃないだろうか」

彼の言葉には重い苦悩が込められていた。医務室の不安な空気と共鳴し、乃愛はその胸の内を察した。

「もう少し詳しく話してくれませんか?」

その時、彩音が前に出て行き、彼の肩に手を添えた。

「私たちは田島君を助けたいの。何があったのか教えてくれない?」

若者はその言葉を汲み取り、少し安心したようだった。彼はついに口を開き、心の重荷を話し始めた。

「田島が行方不明になる前、彼は駅前でビラを配り始めた。最初は普通だったけど、いつの間にか深刻になってきたんだ…そして、家族のために仕方なく危険なことに手を染めて…」

「危険なこと?どういうことですか?」

乃愛は心が高まり、急かすように話を続けた。しかし、若者は一瞬言葉を詰まらせた。

「彼は生活のために、何か違法なビジネスに加担していたらしいんだ。あるグループと関わっていたみたいだ。そのせいで、彼は自分が何をしているのか分からなくなっていた…」

それを聞いた乃愛の頭の中でピースがはまった。どうやら田島君は何らかの理由で辛かったのだろう。そして、彼の失踪はそんな状況から逃れようとしたのかもしれない。それも、決して一人で閉じ込められたわけではなく、他に誰かが関与している可能性が高い。

「どこでそのグループと関わったのですか?」

「駅前のシャッター街で、怪しい場所がある。彼はそこで何度か見かけた…」

それ以上の情報を得た彼らは、若者にお礼を述べて急ぎ足でその場所に向かった。シャッター街は薄暗く、雪の影響でひっそりとした静寂に包まれていた。どこか不穏な気配が漂い、乃愛の心にもその気が差し込んできた。

「やっぱりここかしら…でも一体どこに行けば…」

彩音が胸に手を当て、緊張感を持ちながら周辺を見渡した。

「ここはたくさんの隠れた場所があるから、きっと何か見つかるはず」

乃愛は自信を持って答えると、少しづつ足を進めた。

急に左手の方から物音がした。乃愛はすぐにその方向を振り向くと、目の前に倒れている若者の姿が目に入った。

「田島君…!」

その声に反応したのか、彼は上半身を起こし(が)、目を白黒させた。

「なんでここに…?」

「私たちが助けに来たの!」

彩音の声が力強く響く。

じっと彼の様子をみる乃愛は、もう一度その空間へ踏み込んだ。

「田島君、あなたはどこにいたのですか?この場所で何があったのですか?」

彼は疲れきった顔をしながら話し始めた。

「実は、違法な仕事に手を出していたんだ。仲間がトラブルを起こして、俺も巻き込まれてしまった。逃げる途中で、ここに来て…保護を求めれば良かったのに、どうしても無理だった」

乃愛は彼の話をじっと聞き、彼の中の恐れや後悔を感じ取った。今なら、彼に必要なものが分かる。そう、彼はこの状況から自分を大切に逃れなければならない。

「ごめん、でも助けてほしい…助けてくれないと、俺はどうなってしまうか…」

乃愛は真剣な目を向けると、ふとした瞬間、彼を守るよう抱きしめた。

「安心してください。私たちがあなたを助けます。信じてください」

その言葉に、田島の目には感謝の涙が浮かんだ。

「でも、あの連中が…」

「私たちなら大丈夫ですわ」

乃愛は自信を持って言った。

そう言いながら、彼女の心には覚悟と決意が生まれ、その場を脱出するためのプランを立てるべく、次々と頭の中で思考を巡らせていた。

一方、彩音は田島を抱え、シャッター街の薄暗さにひるまず、強い目で周囲を見定めていた。

その時、どこからか聞こえた声が彼らの耳に入った。

「逃げろ、逃げろ!どうせ無駄だ、外に出ても追いつかれるんだから!」

彼らは瞬時に振り返ると、ビラ配りをしていた若者たちがその場に現れた。目が光り、その先には非情な鋭い問いかけが待ち構えている。

「お前たち、田島を隠れるところに連れて行ったな?」

不気味な雰囲気が周囲を包み、乃愛は少しの怯えを感じたが冷静さを保とうとした。

「嘘だ、彼を逃がすことなんてない——」

すると、乃愛は彼らの隙を突いて行動に出た。彼女は胸の内に潜み続けた強さを呼び起こし、田島を守るために立ち上がる。

「あなたたち、彼に手を出さないで!」

その瞬間、彼女は周囲を見渡し、直感で周囲にある物を手に取り、巧みに道を切り開こうとした。

「行きましょう!逃げるのです!」

彩音が田島を引き連れ、その後を従い、彼女たちは静かな静寂を乗り越えて切り抜けて行く。

道の奥には明るい光が差し込んでおり、それに向かって真っすぐ進んで行く。追手が彼の後ろから近づいてくることも恐れず、乃愛は必死に周囲を観察しながら走り続けた。

「まだだ、もう一回振り返ってきてしまうかも!」

彩音が声を上げ、田島は必死に進もうとしていたが、乃愛は一瞬立ち止まり、後ろを振り返った。

「彼らに焦っちゃダメですわ。まず、冷静に…」

田島が気を取り直そうとしている言葉の中で、突然どこかから追いかけてくる者たちの気配が近づいてくるのを感じた。

逃げる彼らは行き止まりに遭遇しつつも、乃愛は一点の光明を見出し、その場所に移動することを決意した。

シャッターが閉まり、外の光が遮られた。その瞬間、乃愛は次々と考えた作戦があった。

「ここは隠れ場所かも。行きましょう!」

乃愛は周囲を気にしながら、無事にその隠れ場所へと潜り込んで行く。田島と彩音は彼女の背中を見守っていた。

急に暗く静まり返った空間に、彼らはほっと安堵しつつも、次の行動を考え直した。

「これで逃げられるかな…」

田島は息を潜めたまま、無事な移動を期待していた。

「準備が整ったら、私たちの力で乗り越えましょう」

乃愛は心の中に小さな希望を灯していた。

無理なプレッシャーは絶対にかけず、彼が平和に戻ってくるためにしたいと思った。

「大丈夫、今は私たちが逃げる道を切り開きますわ」

その一言が、周囲の暗さを吹き飛ばす精力となり、希望の光をもたらした。

彼女は静かな決意を持って立ち上がる。彼女の視線の先には、目指すべき道が待っている。

それを聞いた瞬間、彼の目に少しの安堵が戻った。

「踏み出す準備はできたものですか?」

田島の目には、彼女たちの強さを頼りにしつつ期待感が滲んでいた。

それこそ、乃愛にとっては彼を守るためにするべきこと。そして「望み」を持ち続けるため、全力を尽くさなければならないという心の力が育まれていた。

「大丈夫。私たちはあなたを守りますから」

彼女の言葉は、彼の背中を押す力になった。

その時、遮るように強い音が外から響いてきた。若者たちの声がした。

「見逃すか!逃げないぞ!」

乃愛は気を引き締め、その通路を目指す。彼女は駆け抜け、自らの非情な決意を固める。

彼女の勇気が田島を救うのか、そして彩音とのコンビネーションが必要な瞬間だった。

「さあ、ここから出よう!」

田島は安堵した目をし、力を振り絞り、三人は静まりかえった暗闇の中で懸命に進んで行く。

「私たちが一緒なら乗り越えられる…!」

彼女の言葉が果敢な響きを持ち、明るい光が彼の心の中で希望となった。

あらゆる困難を乗り越えられる力を信じ、新たな展望を開くために、彼らは恐れずに進めた。

数分後、彼らは無事に外へ出ることに成功した。周囲を見回すと、どこか静かな雰囲気が漂っていた。

「さあ、行きましょう!田島君を守るために、最後の力を振り絞って!」

乃愛は彼に向き直り、共に走り出すと、彼女の緊張した顔を少し和らげた。

その光景を見た田島も、彼女の信頼に応えるように、強い決意で前進した。

「私たち、絶対に守りますから!」

彼女はその言葉を心に刻み、共に道を切り開くために走り出したのだった。