麗司は、次なる目的地である給水施設に向かう道中で手に入れた物資を整理しながら、周囲への警戒を怠らないよう努めていた。耳を澄ませば、どこかからか聞こえるかすかな音が、彼の心臓をさらに早鳴りさせる。かすかに響くざわめきがゾンビの仕業かもしれないという恐れが、彼を再度注意深くさせた。彼は早く給水施設に辿り着き、この異常な状況に備えて生存のために必要な水分を補給したいと切に願っていた。
彼が公園の奥にさしかかると、そこにはかつて賑わっていた面影を残したままの空間が広がっていた。ただし、今は無人の公園で、すっかり荒れ果てた環境が彼の視界に広がっている。草は伸び放題で、木々は随所に枯れている。あちこちには奇妙な形で人々の生活が消えてしまった名残があった。彼はその景色を前にして、かつての自分の普通の生活が失われてしまった現実を実感し、胸の奥が締め付けられるような苦しさを感じた。
「ここまできたんだ。後戻りはできない」
と自問自答しながら、麗司は気持ちを切り替えた。彼には目標がある。この状況から生き延びるための精神的な支えが必要だった。彼は生存することが彼の使命だと信じて、少しずつ周囲を見回しながら行動を起こすことにした。
近づくほどに、淡い期待が胸に広がった。彼は給水施設がある場所に着き、周囲に危険がないか入念に確認する。近くに何か物音がしていたので、手を伸ばしておく器を探し、何が手に入るかを考える。もしかしたら、この場所には貴重な水が確保できるかもしれない。
「生き延びるためには少しの水が必要だ」
と麗司は心に決意を固め、施設の内部に一歩足を踏み入れた。
中に入ると、ひっそりとした静けさが支配していた。彼の心も次第に和らいでいく。何かの拍子に近くの壁に密着しながら、立ち止まる。目を光らせて周囲を注意深く観察し、動くものがいないか、気を緩めることは許さなかった。しばらく静けさを保っていると、軽く水音が聞こえ、彼の心は一気に躍る。
すぐ近くには給水タンクがあった。麗司はリュックを背中から下ろし、ナイフを取り出すと、缶を開けるべく手を動かし始める。手際よくタンクの元へ駆け寄ると、流れてくる清水が彼の目に入り、安堵感が彼を包み込んだ。麗司はしっかりと容器を確保し、給水タンクのパイプから水を流し込み始めた。
「これで生き延びられる…しばらくは」
と、麗司は思わず呟いた。しかし、その安堵もつかの間、心の片隅に漂う違和感が、彼を再び警戒心で緊張させる。
「水を汲んでいる間に、どこかからゾンビが現れるかもしれない」
と不安に駆られ、周囲の音に耳を澄ませる。水を汲みつつも、次の行動を考える必要があった。
水を汲み終え、リュックを整理しながら次の目的地を探る。近くにある物資がある場所や、人の気配がないかどうかを考え、かつての自分がよく知っていた地域を思い出す。周囲の情報を元に、彼の知識をフルに活用することが生死を分ける鍵となるはずだ。一瞬の隙を突かれ、生きる道を見失うことがないようにと願った。
そう考えながらも、給水施設の中を細かく観察していると、不意に何かが動く音がした。反射的に身体を引き締め、振り向くと、ひと気もないはずの暗がりから何かが近づいてくる気配を感じた。彼の心拍数は再び上がり、恐怖感が体を支配する。
冷静に判断することが重要だ。
「まだ見えないのだから、様子を見なければならない」
と自分に言い聞かせ、物音の発生源に注意を向ける。可能な限り音を立てず、じっと待機する。
「あれはゾンビか、あるいは他の何かか」
と心の中で問いかけても、答えは見つからない。
その時、影が一瞬光を受けて揺らいだ。目を凝らすと、明らかに不気味な姿をしたゾンビの姿が浮かび上がった。今までの恐怖感が何倍も増して、麗司は身を固くし、逃げるべきか否か迷っていた。
「このまま見つかってしまったら、終わりだ」
と心が叫ぶ。
しかし、彼は冷静さを失わずに動くべきだと気付く。周囲にある物資を使って逃げられる方法を考える。
「音を立てずに、どのようにして背後に回り込み、出入り口を目指すか…」
時間が迫っていた。彼の頭の中には様々な考えが渦巻いていたが、実行に移さなければ何もならない。
麗司はじっと後ろを見て、ゾンビの動きに注意深く観察する。近寄ることはできない状態だが、数日分の水を確保したい気持ちに揺らぎはなかった。水タンクの近くに立ち尽くすそのゾンビに気づかれることなく、彼はタンクの影に身を隠しながら、次の動きを考え続ける。
やがて、ゾンビの動きが鈍くなり、麗司はこのチャンスを逃すわけにはいかないと思った。彼はその瞬間、タンクの影から少しずつ身を引き、りゅうを背負ったまま静かに後退する。足音を立てず、ハラハラとした心に従いながらも、必死で冷静さを保つことを心掛けた。
背後からの視線を感じながら進む。その焦る気持ちを抑えているうちに、薄暗い場所へと逃げ込む。だが静寂に包まれた施設の中で、また何か音が聞こえてきた。その恐怖が彼の勇気を削ぎ去り、焦りが心に渦巻く。
「逃げなければ」
と心の叫びで彼は動き出す瞬間、足元が何かに触れた。急に衝撃が彼を包み込み、ばたんという音を立てた。彼は一瞬にしてそれが自分のリュックだったことに気付き、いや、そんな隙が生まれてしまったことに愕然とした。
「こんなところで物音を立てていたら、一巻の終わりだ」
と彼は思い、急ぎリュックを拾い上げて音を立てないよう慎重に動く。しかし、明らかにこちらに視線を向けるゾンビがいる。焦る心の中で、彼は生存のために、ゾンビをかわすための策を考えねばならなかった。
やがて丽司は不安な気持ちを振り切りつつ、逃げる準備を進める。タンクの位置を頭の中に留め、後ろの出口を確認する。
「間に合うか?」
心のどこかで不安がよぎる。恐れを抱いた彼は、再度動き出す。その果敢な一歩が、彼の運命を分けるかもしれない。
「絶対生き延びて、この場所から去る」
彼の中でそう決意し、振り向いて進んでいく。彼の道はまだ険しかったが、冷静さを失わず、次なる生存のための準備を続けさせているのだ。まるで恐怖との駆け引きのような闘いの中、麗司は生き延びるための道を探り続けた。
予測できない未来が待っている。しかし、彼の心にはその未来を受け入れようとする強い決意が生まれていた。どんなものが彼を待ち受け、何が彼の前途を阻むとしても、麗司は挑戦と恐怖と共に前進していく運命に向かっていた。彼は一歩また一歩と、希望を信じて、生き延びるための闘いを続けるのだった。