麗司は雑貨屋の中に入ると、まずは周囲の様子をじっくりと観察した。空気は薄暗く、埃っぽい香りが漂っている。棚の上には商品の残骸や古びた玩具が散乱しており、まるでかつての賑わいを物語っているかのようだ。彼は薄暗い店内を一歩一歩慎重に進みながら、自分に必要なものを探し始めた。生存を続けるための貴重な戦利品を見つけるためには、冷静さを失ってはならない。
最初に目に飛び込んできたのは、少しだけ光を吸収したような色褪せた缶詰だった。以前の彼なら、缶詰がいいのか悪いのか判断する前に、長い間放置されていたものに対して警戒心を抱いたかもしれない。しかし今は、食料確保が最優先であった。麗司は思い切ってその缶詰を手に取る。どれだけの人間がこの店で物資を残していったのかはわからないが、彼にはこの生活が続く限り、食べられるものはどんなものでも必要であった。
彼は缶詰をリュックに詰め込んでいく。同じ棚に並んでいる他の缶詰の様子も気になったが、時間を無駄にするわけにはいかない。音を立てないように気を使い、そっと横の小さな棚へと移動した。そこで彼は、さび付いてはいるがカップラーメンとみられる商品の箱を見つけた。手に取って無事であることを確かめると、やはり彼の表情にはわずかな喜びが浮かんだ。
生存のためには、エネルギー源を持たなければならない。コンビニやスーパーでは、これまでぱっと見でも簡単に手に入った食料が、今ではどんなにしても見つからないことをどこか感じていた。生活が厳しくなる中で、自分一人では思った以上に難しいと理解していた。しかし、確保したいという意志は強まるばかりだ。
雑貨屋の奥には、古びた衣料品が無造作にほうり込まれたカゴがあった。運を試すつもりで近づくと、意外にもそこには暖かそうなセーターやジャケットが目に入った。彼は一瞬、立ちすくんだ。生き延びるためには、防寒具も必要になることを思い出したのだ。蒸発寸前のこの冬の寒さの中、体を守るために何かを得なければならない。彼は慎重に選び、必要なものである自分のサイズと思しきセーターを手に取り、リュックに加えた。
次は、何か生活に役立ちそうな道具を探すことにした。雑貨屋の奥には、色とりどりの道具がそろっている棚があった。彼は目を凝らし、あらゆる商品を一つ一つ確認する。すると、ふと目に入ってきたのは、バッテリー式の懐中電灯だった。劣化しているかもしれないが、試してみる価値はある。彼は懐中電灯を手に取り、スイッチを入れてみた。幸いにも、光が灯った。心の中で小さくガッツポーズをする。暗闇に光を持つことは、危険が迫っているかもしれない世界では必須だ。
リュックには、次々に物資が詰め込まれていく。安堵感とともに、彼は思わず短く息を吐いた。しかし、この瞬間に安心しすぎてはならない。麗司は常に周囲の音に耳を傾けながら行動していた。死の影が忍び寄ってきているのではないかと、恐れの念が心の奥に渦巻いていた。
店内にさらに奥へ進むにつれて、彼は古びた本棚を見つけた。そこで、かつての活気を思い出させるような本が何冊か揃っている。何の本があるのか、タイトルをじっくりと読んでみると、住居に関するハウツー本や、サバイバル技術に関する本がいくつか見受けられた。偏見は捨て、そうした知識を今こそ生かす時かもしれないと、自分の内心が突き動かされる。麗司は一冊の本を手に取り、リュックに放り込んだ。
その瞬間、少し音がしたかもしれない。彼はその響きの原因を探るため、注意を集める。焦る必要はない。彼の体がすでに反応していた。内心の不安が増していく。彼は尖った耳を一瞬休ませ、今できる限りの知識と経験を引き出すために、周囲を静かに観察することに専念した。
その音が何であったのか、知る由もなかった。周囲の静けさを何度も確認すれば、その中に何かしらの生き物が存在するのかどうか彼の判断に影響を与えた。その時、麗司が雑貨屋の奥に戻るにつれて、彼は感じた。生存のためには未熟な自分がつくった思考の影に飲まれてはいけない。生き延びるためには現実を受け入れ、できることを最大限にしなければならなかった。
彼は奥の方でも、それまで見落としていた物資をさらに見つけることができた。何かの道具らしきものを数点手に入れたが、それはこれからの生活の中で重要になるかもしれない。思いつく限りのものを収集してリュックに詰め込み、さらに進む。生き残りは一瞬で決まることや、一つの選択が未来を大きく変えることを理解し、彼は警戒心を一層強めて動く。
だが、なぜか心がざわざわする。運を試す時間が長くなるにつれて、周囲の静けさが彼を無情に包む。麗司は二の足を踏んでいたが、それでも生存という選択に自分が賭けるのを決意し続けた。これまでの沈黙が破られる瞬間が、彼にとってどれほど怖いかそんなことでは止まらない。ダメージを受けないためには、先を読んで行動し続けなければならないのだと、心がそれを求めた。
雑貨屋から出る準備をしつつ、彼は最後の一周をと考えた。どんな物も無駄にしないよう力を込め、注意深く移動する。暮らしの中でも必要だと感じていたアイテムが見つかるはずだ。身を乗り出して、商品棚をひとつひとつ確認していると、薄暗いところにポツリと光るものを見つけた。思わず、懐中電灯の光を当てて眺めると、古びたナイフのようなものが転がっていた。
それは相手に対抗するための最もシンプルな武器だった。麗司はそのナイフを手に取り、もっとも重要なアイテムを得たという感覚に包まれる。心の中にその道具を得たことへの安堵感が沸き上がった。今、彼に必要なものはこれだ。何かがあった時のために、自分を守る道具を持つことは、心をより強くし勇気を与える要因となった。
彼はナイフを慎重にリュックに収納し、次に出口へ向かう準備をした。ほんの一瞬、先ほど感じた音が再び響く。今度は明確に何かが近づいていると感じた。麗司は焦りをもって確認する。焦る気持ちを抑え、冷静さを取り戻そうとした。
「行動しなければならない」
と心の声が導く。リュックには多くの物資が詰め込まれたが、次の行動を選ぶ必要があった。雑貨屋から出て、次にどこへ向かうかを考えつつ、彼は静かに出口へ進む。そして、意を決して外に一歩踏み出した。
冷たい風が麗司の肌に触れ、その瞬間に彼の心に冷静さが訪れる。混沌とした都市の中で、かつての自分とは異なる世界が広がっている。
「生き延びるためには何を選ぼうか」
と常に考え続ける必要があると感じていた。彼の思考は、未来を切り開くためのもう一歩の準備をするために続いていた。今後の道は予測不可能だが、彼の運命は自らの手で引き寄せることができるはずだと。
静けさの中、麗司は次なる計画を考える。
「動きが遅いなんて言われるが、今の自分には、その方がむしろ良いのかもしれない」
と感じつつ、彼はさらに先へ進んでいく。都市の崩壊した現実の中で、多くの試練が待ち受けていることを理解しながら、次のサバイバルに備えるのだ。彼は前へ向かって歩み続ける準備をしていた。