第38話 「ウサギと心の距離」

放課後の校庭は、穏やかな日差しに包まれ、私たちのクラスではウサギのお世話が行われていた。ペットとして飼われているウサギたちは、毎日の癒しの存在でもあり、動物好きの村上和真くんも嬉しそうにしている。私は彼の隣に立ちながら、胸が高鳴るのを感じていた。

「黒川、ウサギたちにはこの◯◯をあげるのがいいよ」
と和真くんが言うと、ウサギたちが彼の声に反応してそわそわと動き始める。

「あ、和真くんの言う通りですわね。さすがですわ」

心の中では私の気持ちが溢れ出ていた。どうしてこんなにも彼に惹かれてしまったのか、自分でもよく分からない。ただ、彼が笑っていると、自分も幸せな気持ちになれるのだ。和真くんの優しい笑顔を見ているだけで、心が安心していくのを感じる。

ウサギたちにエサをやりながら、私は彼の行動を観察していた。いつもと同じように、のんびりしている彼。しかし、彼の周りにはいつも笑い声が絶えない。周囲の友達が彼を慕って、彼を中心に輪ができている。私はその中に入ることはできても、心のどこかで距離を感じていた。近くにいるのに、彼に対する想いは伝わらない。この距離感がたまらなくて、私の胸が苦しくなる。

「黒川、君も一緒にあげてみるか?」
和真くんが無邪気に微笑む。

「ええ!もちろんですわ!」
私はすかさず答える。

彼がウサギの世話をしている姿は、まるで天使のように思えた。優しい手つきでウサギを優しく撫でる。その表情は本当に豊かで、周りを惹きつけてやまない。ああ、どうしてこんなに魅力的なの?彼にもっと近づきたい。彼の笑顔を、一番近くで見たい。私の心の中で、彼への独占欲が叫んでいた。

次の瞬間、和真くんが私に向かってウサギを差し出してくる。
「黒川、これをあげてみて」

私は彼の手からウサギを受け取ると、その柔らかい毛並みを感じるために思わず頬を寄せた。和真くんが優しくウサギを撫でる様子を見て、自分もこうして彼に触れたくなってしまう。

「可愛いですね、和真くん。ウサギも和真くんも」
私の心の声が漏れ出てしまい、思わず言ってしまう。

「え?何て?」
彼が疑問の表情を浮かべる。天然な彼は、私の言葉を真剣に受け取ってくれないようだった。

「いえ、なんでもありませんわ…」
私は少し頬を赤らめながら、意図しない自分の言葉に焦った。彼に気持ちを伝えるなんて、到底無理なことだと知っているから。心の中で愚かさを呪う。

しばらくウサギのお世話を続けていると、クラスメイトたちが近づいてきた。
「村上、ウサギに餌あげるの上手だよな!」
と彼に声をかける。

「そうですね、和真くんは動物が好きだから上手ですわ」
と、私も彼を持ち上げる。

そうすると、和真くんが少し照れたように笑った。
「あはは、みんなに褒められるなんて嬉しいな」

その笑顔に、私の心はさらに乱れ込んでしまう。どうしてこんなに可愛いの、和真くん。あなたのそんな無邪気な一面に、一段と心を奪われていく。

お世話を終えると、私たちは外のベンチに座って、ウサギたちの可愛い仕草を見ながらほっと一息ついた。少しの静寂の中で、和真くんが
「黒川は動物が好き?」
と聞いてくれた。

「はい、特にウサギが好きですわ。和真くんは?」
私は耳をすませ、彼の反応を待った。

「僕も好きだよ。動物を笑顔で見ると、心が温かくなるから」
彼が言うと、私は彼の思考の優しさにますます魅了された。こんなに素敵な言葉を彼は自然に言える。普段の言動からも、そんな彼の気持ちは伝わってくるのだ。

「本当に素敵ですわ」
私は心の中で彼へ熱い想いをこめて、目を輝かせた。

「ありがとう」
と返す彼の優しさが、さらに私の心を鷲掴みにする。彼といると、心が安心する。なんてかけがえのない時間なんだろう。

が、次の瞬間、和真くんの隣に座っていた女子が突然
「ねぇ、和真くん。今度遊びに行かない?」
と声をかけた。

私はその言葉を聞いて、心がざわめいた。彼と私の距離が狭まったと思っていたのに、他の子が近づいてくるなんて。少しの嫉妬が、心の中で膨れ上がる。

和真くんは困った様子で
「うーん、どうしようかな。でも皆と遊びたいから、決めるのは難しいね」
と答える。

その言葉が私をさらなる不安にさせた。どうして他の子が和真くんに声をかけてくるの?何でそうなるの?私がもっと近づけないのは何故?私の中の
「和真くんは私だけのもの」
という独占欲が、どんどん濃くなっていく。

「和真くん、行かないで、私がいるから」
心の中で叫んでいたが、言葉にはできなかった。そんなことを口にしたら、彼に引かれてしまう。私は相変わらず内面の情緒がぐちゃぐちゃで、恥ずかしさに我慢する。

「黒川も一緒に来る?」
和真くんが私を気にかけている様子に、少しホッとする。彼に向けるその優しい目が、私を少し救ってくれている。

「ええ、私も行きますわ。でもお願い、和真くんが好きとは言っちゃダメですわよ」
その思いが私の言葉に乗ってしまった。もう頭がぐちゃぐちゃだ。平常心を保たなければ。

「うん、わかった。みんなには言わないよ」
と彼は素直に答える。その反応に少し胸が躍る。

時間がたつにつれ、私は和真くんを独占しようと必死に思いを巡らせる。ウサギたちの目もすっかり癒しの存在で、ウサギのお世話を通じて私と彼との距離を縮めようと奮闘する。

その日の帰り道、私の胸は高鳴ったままだった。和真くんは私の傍らで自然体で笑っている。その姿に執拗な思いが高まる。彼を手に入れるためにはどうしたらいいのか。心が煮えたぎるような感情でいっぱいだった。

「ねぇ、和真くん」
私は言葉を選びつつ彼に振り向く。
「今日、一緒に帰らなければならないんです?」

「そうだね、一緒に帰ろう」
と彼の柔らかい返事が、優しい光景を醸し出す。

もちろん、彼を独り占めしたい。その軍勢の中で目が合ったりする瞬間が、何より特別に思えて仕方ない。
「一緒に帰れるのは嬉しいですわ。私、和真くんには特別な思いがあるから」

「特別なって、なんだろう?」
が、彼は本当に私の気持ちには気づいていない様子だ。

その時、私の中で考える。こんなに近いのに、どうして彼には私の気持ちが全然伝わらないの?早くこの想いを言葉にして伝えたい。でも、その重さに引かれもする。

「和真くん、私のこと、どう思ってますの?友達みたいな感覚なの?」
私は不安にかられながら聞いてみた。

「もちろん友達だよ。黒川は面白いし、色々なことを教えてくれるし」
と彼が言う。まさか、他の女子と同じと思っているのでは?

私の心が痛む。どうしたら彼の心に私の存在を残せるのだろう。私が抱いているこの強い想いを、どうにかして彼に分かってもらいたいのに。彼の本気での反応がない限り、私はこのままはっきりとした関係を築けない。

「だから、もっと一緒に過ごしたいな、黒川」
と彼の言葉。その瞬間、思わず心の中で喜びが満ちる。彼にとって私は
「友達」
であり続けていたい。でもその関係を超えて、彼の特別になりたいと願う気持ちが強くなる。

そんな私の心は、和真くんの笑顔に向かって止まることを知らない。彼と一緒にいることが、何よりも幸せだ。彼の無邪気な笑顔が、私の日常を輝かせている。心の奥底で、彼への思いがますます深まっていく。

大好きな和真くんと過ごす時間が、私の日常をかけがえのないものにしている。でも、そろそろ彼に何かを伝えなければいけない。少しずつ、その時期が近づくのを感じながら、ウサギのお世話を通じて進む私たちの日常を 彩っていく。

逃れられないこの想いを確かに、彼に届けるための一歩を踏み出すため、心を決めるのがいつになるのか。すべての思いを抱えたまま、私は和真くんとの日常を楽しむのだった。