マンションの中、麗司は小さなリュックを抱えてスーパーの空間で動いていた。食料品の棚に自分の手を伸ばしていると、ふと心の片隅で葛藤が生まれる。
「自分は一体、何をしているのだろう。こんな状況で生き延びるために、なぜ私は食料を集めなければならないのか」
人類がゾンビとして変わり果てた世界で、彼はただ生き延びることに執着していた。
幻のように遠くから聞こえる静寂の中、自分の存在がこの荒廃した世界でどれほどの意味をもっているのか、考えてしまった。しかし、考えていても何も変わらないことも知っていた。麗司は深呼吸をし、再び食材の選別に取り掛かることにした。
彼は缶詰を手に取ると、その重量感を感じてリュックに放り込む。ここで無駄に時間をかける余裕はない。
「生き延びるためには、努力を惜しむわけにはいかない」
と呟き、自らを奮い立たせた。心の中で冷静さを保ち続けようとする一方で、感情が渦巻くのを感じずにはいられなかった。
ドアの方から微かな音が聞こえる。心臓が早鐘のように高鳴る。彼はすぐに周囲を見渡し、再度隠れ場所を探す。物影が近づいては消えていく。ゾンビの可能性もあるが、もしかしたら他の生存者かもしれない。静かに音を立てず、彼は身体を低くし、視線を周囲に駆け巡らせた。いつ何が起こるかわからない緊張感がよりいっそう彼を襲う。
しばらくの静寂の後、麗司は自分に言い聞かせた。
「ここから出なければ、次の手を考えることすらできない」
物資を抱える準備が整ったことを確認し、再び棚に向かう。乾燥食品や缶詰をもう一度見回し、できる限り多く取ることにした。
彼が再び目を移すと、ふと目に留まったのは、缶詰の隣の棚にあったスパイス類だった。
「これがあれば、食事が少しでも楽しめるかも。食料だけじゃなく、精神的な安定も重要だ」
と、自分に言い聞かせるように思った。
スパイスを選ぶことで、日々の食生活に ضرورな要素を注入できる気がした。彼は手を伸ばしていくつかの瓶を選び、慎重にリュックの中に入れた。どんな状況においても、食に対する関心を持つことが彼の生存意欲を高めていた。
その時、またもや後ろから足音のような音が聞こえる。もうすぐにでも自分の目の前にその正体が姿を現すかもしれない。麗司は動きを止め、耳を澄ませた。音は近づいてくるが、何か他のものが動いている気配も感じた。急に心に恐怖感が満ちてきた。
再び隠れ場所を探し、彼はむしろ奥の方へと移動することにした。食料棚の隙間に身を潜め、音の正体が何かを見極めようとした。その瞬間、目の前のトイレ用品の棚が揺れているのが見えた。
「まさか、ゾンビがいるのか?」
心臓が再び高鳴り、状況に対する不安が渦巻く。その影が動く一瞬、彼は体が硬直した。
思わず囁く。
「もちろん、静かにしなければ」
背筋に凍りつくような恐怖を感じる中、復活した人間ではないことを確認するため、彼は影に息を潜める。音は次第に近づき、背後から冷たい感触が迫るような不安に包まれた。
すぐに目の前に現れたのは、やはり野良犬だった。さまざまな傷を負っているようで、やつれた様子だ。一瞬、麗司は驚いたが、すぐに安心感が心を満たしていった。非常に恵まれた状況に感謝したい気持ちを覚えたが、これに気を奪われている暇はない。
「この犬も生き延びるために必死なんだろうな。私たちは同じ運命を背負っている」
と思った。
ハッとした時、彼は自らの行動を取り戻し、犬が彼の姿に気づかないことを祈る。むしろ、野良犬がいると言うことは、同じように苦しむ別の生物がここにいることを意味するのだ。あまり気を立てないよう、静かに目を向け、再び食料の整理を続けることにした。
リュックを少しでも軽くしなければならないと思い、最小限の量を残し、さらに周囲を警戒することを忘れないようにした。食料の選定を続けながら、リュックのなかを無駄にすることは許されないと心に決めていた。
野良犬は彼から少しずつ離れ、他の方向に向かっていく。麗司はホッとし、選別作業を再開する。しかし、音が完全に消えたわけではなく、周囲の隙間から何かが近づいてくる気配が感じられた。彼は満足のいくほど食料を集めたとは言えない。少しでも多くが必要だ、ましてやこの状況では更に冷静さが求められる。
視界の隅に、根本にひび割れた白菜の姿が目に留まった。
「ああ、これを取っていこう」
と判断を下し、脳内で計算した食材のバランスを確認する。
「それだけあれば、しばらくはしのぐことができるだろう」
すぐさま取りに行き、リュックを再び調整した。
その瞬間、冷蔵庫がない世界を想像する。食料が保たれることなく消えていく環境は、確実に追い詰めるだろう。彼は自らが今、どんな選択をしていても無駄にはならないと信じ、立ち上がった。周囲には雰囲気が残っているが、自身の気持ちを最優先にすることには変わりない。
無駄にすることは許されない。どんな時でも最良の準備をしなければ、次の局面で成功が得られるかもわからない。自分の選んだ食材が未来を左右することを忘れず、慎重に決断を続ける。
ようやく、彼が必要な物資を全て収集し終えた瞬間、スーパーの外から突然の大音量が響いてきた。何かが崩れたような音を背に受け、麗司は一瞬身体が硬直した。
「何が起こった?」
音は再び周囲の静けさを打破し、明らかに近くから響いてくる。
「まずは、どの方向に逃げるべきかを考えなければ」
と彼は思った。急いでスーパーの出口を確認し、後ろを振り向く。不安定な扉の先には、何かが待っているような気配が漂っていた。体が動かなかった。彼は内心で決意した。
「この瞬間を無駄にしてはいけない。逃げなければ」
焦ってリュックを背負い直し、出口へと駆け出す。心の中で
「行け、行け」
と繰り返し、何事もないかのように出口へ向かった。注意を怠らず、次のアクションに備えた。辛い時間を経て、麗司は次の生存のための工夫を模索していた。
スーパーの外へ避けながら、暗闇から生じる影に気を配ることが重要だと考えた。全てが絶望的だと思う中で、彼は生き延びるために必要な準備が揃ったことを感じ取っていた。辛く厳しい日常の一瞬であったが、希望の光がほんの少し顔を出しているように思えた。
「次は、どんな困難が待っているのか、どんな新たな日常が生まれるのか、興味深い」
とつぶやいた。彼は今の状況では何もかも変わり得ると信じ、次なる一歩を尋ね続けることに全力を尽くす準備を整えた。生存するための第一歩はいつだって背後に迫っているのだ。
彼は再び都心の暗闇の中に身を潜め、明るい未来を夢見ながら次の行動に出る準備をするのであった。生き抜くための冷静さを保ちながら、麗司は究極のサバイバルを目指し続けていた。