麗司はスーパーへの道を歩きながら、これから起こるかもしれないことに想いをはせていた。何度も現実に直面し、何度も困難を乗り越えてきたが、今までのサバイバルとは全く異なる緊張感が彼を包み込んでいた。全ての行動にリスクが伴うため、心臓はまるでドラムのように高鳴っていた。
周囲の静けさは、まさに異常な日常を物語っている。街の風景は人の気配を失い、建物は荒れ果て、車は放置されたままの状態だ。かつての賑わいを思い起こすと、胸の奥にひどく重い気持ちが渦巻く。だが、麗司はその感情を封じ込め、目の前の現実に集中することにした。
「生きるためには、感情を捨てて冷静でいることが必要だ」
と自分に言い聞かせた。
歩みを進める中で、足元の地面がただの舗装ではなく、雑草や瓦礫の混じり合った不安定な場所になっていることに気付いた。彼は足を慎重に運び、音を立てないようにすることを心掛けた。今は、わずかな音も命取りになる可能性があるからだ。
「静かに、静かに」
と心の中で繰り返しながら、周囲に神経を尖らせる。
やがて、麗司はスーパーの前に到達した。目の前の店舗のガラス扉は割れ、入り口はほとんど崩れかけていた。中からは薄暗い光が漏れ出し、加えて、空気の中に混じる不快な匂いが彼の鼻を刺激する。
「これが、食料を手に入れるために入らなければならない場所なのか」
とため息交じりに呟く。
心の中で葛藤する。中にはゾンビや腐敗した食品が溢れているかもしれない。もし自分が捕まってしまったら、これまでの努力が全て水の泡になる。それでも、身体が反応する。
「いや、ここで立ち止まってはいけない」
と思い、彼は一歩を踏み出すことにした。内心では不安が渦巻くが、彼にはここで生き延びるための材料が必要だった。
勇気を振り絞って店の中へ入ると、薄暗い店内には無秩序に散らばった商品やガラスの破片が目に入った。棚は倒れ、床には様々な物が散乱していて、ここでも静寂が支配している。
「誰もいない」
と確認しながら、麗司は心の臓が高鳴るのを感じていた。彼は逆境の中でしっかりとした決意を持ち続けることが重要だと信じていた。
意識をクリアに保ち、彼は周囲を見渡す。電灯は点灯していたけれど、いつまでその明かりが持つのか分からない。視界の隅には、冷凍食品が入った冷蔵庫があり、その中の温度がどうなっているか確認しなければならない。
恐る恐る近づいていくと、冷蔵庫のドアはまだ閉まっている。冷たい風が開いたドアから溢れ出てくるのを感じ、ホッとする。しかし、そこには既に腐食した食材が溢れている可能性もある。慎重にドアを開けると、腐臭が漂う。どうやら冷凍食品は全滅しているようだ。
「これも無駄な確認か」
と自嘲気味に思うが、やはり確認しなければ図り知れない。
そこに立つ彼の目に、店の奥にある食料棚が映る。確実に食材が残っているかもしれない。悩んだ末に彼は、まずはミネラルウォーターの棚に向かうことにした。水は生存に不可欠であることを彼は理解していた。そっと移動しながら、物音を立てないように注意を払った。
望んでいる以上の危険を伴っている行為であったが、少なくとも水を取ることで、今後の食事の準備に絡む問題を解決できる。目は周囲の動きに注ぎ、耳はわずかな音を拾う準備をしていた。
水の棚に到達すると、彼はいくつかのペットボトルを手に取り、重量を考慮しながら選ぶことにした。数量を決めた後、彼は大きなリュックに詰め込む。だが、ちょうどその時、彼の耳にかすかな音が届いた。
「まさか、もう誰かが近づいているのか?」
心臓が一瞬、跳ねる。すぐさま彼は動きを止め、背筋を伸ばして音の方向を探った。周囲は依然として静寂に包まれているが、その音は明らかに何かが動く音だった。動物か、もしくは目の前の恐ろしい現実が彼の価値観を崩す瞬間が迫っているのか。
麗司は恐る恐る立ち行く方向を確認する。視界の片隅で、棚の向こう側に物影がちらりと見えた。
「まずい、ゾンビかも」
と思い、彼は瞬時に隠れ場所を探す。そうして、近くに倒れた棚の影に隠れることに決めた。
息を潜めると、次第に音が近づいてくる。
「これが、運命の瞬間だ。このまま見つかってしまったらどうする」
と不安が心を掻き乱す。麗司は冷静さを取り戻しながらも、明らかに身体が硬直しているのを感じた。
不意に、影が近づいてくる。ゆっくりと足音が聞こえ、その影が明るい部分に足を踏み入れた。麗司の心拍数はさらに上がり、その光景に目を細める。やがて、その姿が明らかになると、彼は驚愕した。影は圧倒的な大きさの野良犬だった。
その犬が自分と向かい合っていることが分かると、麗司はホッとする。
「何でこんな所に犬が?」
と驚きと安堵が交錯する。犬は周囲の空気を嗅いでいるが、明らかに次第に彼から離れ、別の方へと歩いて行った。
「この野良犬も生き延びるために必死なんだな」
と考えると、彼は妙に共感を覚えた。
しかし、安心してはいけない。スーパーの中にはまだ他に生き残った者たちがいる可能性もあり、何が来てもおかしくはない。
「すぐに動かなければ」
と思いなおし、彼は野良犬が姿を消すのを待つことにした。
ようやく犬が去ったのを確認した瞬間、彼は速やかに食料棚に戻り、必要な物資を収集する作業に取り掛かった。郊外への道を阻む中、何が役に立つ物なのか真剣に考え、乾燥食品や缶詰類、スパイスを優先して選び取った。
自分の生活を支えるために必要な分量や種類を脳内で整理していると、見慣れた缶詰を視界に捉えた。彼はその缶詰を手に取り、包装を確認し、さらに多くの缶詰を収集する決意を固めることになった。
「これでしばらくは安泰だ。食事にバリエーションも持てる」
と前向きに考えた。
急いで手を動かし、缶詰や乾燥食品を詰め込むと、全体をカバーするようにリュックを再調整すべく行動。足元の痕跡を意識しながら、再び音に耳を傾けるが、外では何の影も感じない。平穏がひたひたと戻ってくる感覚だった。
次に、彼は空になった水のボトルを見つめ、リュックの中にさらに水を詰め入れる必要があると判断する。スムーズに作業を進めようと心掛け、特に音を立てないよう丁寧に動作を行った。その時、ふいに後ろから何かが動く気配を感じ、体が硬直する。
猛烈な恐怖が体を駆け抜け、最初に行ったように動こうともした。周囲を見渡すも、目の前にいるのはあの野良犬ではなく、なぜか薄れゆく光と共に俯瞰していたのだ。彼の鼓動が高まり、思わず小声で呟く。
「早く、出なければ」
しかし、運命の気配がもう一度彼を背後から突き刺すように伝えてきた。
「生き延びるためには、気を引き締め、この瞬間を無駄にするわけにはいかない」
と思い直し、木の影に身を潜めながら、再度物資の確認を続けた。リュックの中にある食材をできるだけ多く選び取り、それが全て生存に寄与する事を望んだ。
次第に、外に出る気配が薄まる中で、全力で行動を続ける必要がある。麗司は希望を胸に、この辛い環境で更なる一歩を踏み出す準備をしていた。
「これだけの作業に無駄はない」
と自分を鼓舞し、次の瞬間、彼が求める味が口に広がることを想像しながら、必死に手を動かしていた。
次回の展開では、彼が無事に店を後にするための新たな試練に直面することが予想される。孤独な生活の中、彼が実際にどのようにそれを乗り越えていくのか、未来の生き残りに向けての新たな工夫が必要な時が迫っていた。生存をかけ、彼は今まで以上に冷静さを保ち、希望を探し続けることになるだろう。