麗司はスーパーマーケットを後にした。胸には持ち帰った食品の重みがのしかかっていたが、心のどこかに安堵が広がっていた。彼はそのまま走り続け、勢いを緩めることなく公園へと戻った。公園の静けさは、彼に不気味な緊張感をもたらしていたが、少なくとも今は周囲に目を光らせる必要があった。彼は何度も振り返り、後ろから来るものがないことを再確認した。
公園に近づくと、陽の光が完全に暗れ、周囲はすっかり闇に包まれていた。身体が冷えていくのを感じ、麗司は早足で家へ戻ることを決めた。彼の心臓は高鳴り、今後の課題に頭を巡らせた。生き延びるためには何を優先すべきか、どれほどの計画を立てておくべきか。
ようやくマンションのエントランスにたどり着くと、麗司は一息ついた。ドアを開ける際、静かにリュックを脱いで地面へと下ろす。その小さな動作がどれだけ安堵をもたらしたか、今は一瞬ではあったが、その感覚を噛みしめた。ドアを閉める音が響くことに敏感になりながら、彼は周囲に注意を払い、静かに部屋に戻る。
部屋はいつもの静けさで包まれ、そこには何も変わっていなかった。しかし、麗司の心の中は、ゾンビの存在が変えた世界だった。何がどんな影響をもたらすか分からない。彼は無防備にはいられなかった。早速、リュックの中身をテーブルへ広げ、収穫した物資を確認する。食品はカサカサとした音を立て、彼はそれを丁寧に並べた。
「これが今後の生活を支えるために必要なものであるのに」
と彼は思った。冷蔵庫に入れたくても、どれほどの期間が持つかは懸念が残る。
「今のうちに計画を立てておかなければ」
と、彼は冷静に考える。まずはどうやって、翌日の食事を安定させ、そして持って帰った食材がいつまで持つのかを見極めなければならない。
冷蔵庫を開けると、中には飲料水と一緒に貴重な食材が置かれた状態だった。麗司はその食材が腐らないよう、早めに使い道を考えることにした。それには、肉と乳製品を選ぶ必要があった。
「どれを優先的に使うべきだろうか」
と、彼は悩む。
麗司はまず肉に目を止める。それは、食材の中でも最も早く傷みやすいものだ。彼はめげずにその調理法を考える。いろいろな料理本やWebサイトで得た知識が少しずつ呼び覚まされていく。
「肉を焼くのがいいか、それともスープにして保存した方が長持ちするのか」
と、彼は自問自答した。約一週間で腐りそうな肉を、昼食として使えるようにする計画を立てることにした。
次に彼の目に飛び込んできたのは、乳製品だった。まだパッケージに記載された賞味期限がついているものも含め、数日から最大で一週間までは持つことがわかっていた。こちらは焼きチーズやヨーグルトになるかもと考える。一方、彼は料理をするために最小限の準備を整えなければならないことに気づく。
冷蔵庫の中から肉を取り出し、ソーセージとチーズを選んで棚に向かう。次第に、調理器具を出そうと心に決めた。彼が持っている調理器具は、鍋とフライパン、包丁、一つのまな板だけだった。しかし、サバイバル用品としてそれも十分であった。彼は料理を進めるために、意識して冷静さを保つことが必要だった。
火を使うために、彼はガスコンロに向かう。火を立て、その音と熱が彼の心を落ち着ける。コンロが点いた瞬間、彼は正気を取り戻したような感覚に陥る。
「肉を焼くのだ」
と意気込んだ。フライパンが温まる音を聞くことで、彼の視界が油で輝いた。この体験は、一時の生命力の象徴であった。
調理を始めると、温かい空気が漂い、焼かれる肉の香ばしさが彼の心を和ませた。手を動かしながら、ジリジリという音に耳を傾け、
「これが私が生き延びるための力になる」
と自分に言い聞かせる。周囲の静けさがあまりにも際立っていたが、彼はその音に集中し、心を無にすることで静寂を忘れようとした。
やがて、肉が焼き上がると、彼は香りを嗅ぎながら満足感が広がっていく。それをひとかじりし、味わった瞬間、彼はそれが生き延びるために多くの意味を持つことに気付いた。人間としての役割を果たしている感覚が、彼にもう一度生命を感じさせる。その瞬間、彼は生存の実感に浸りながら、少しの間、この活動を続ける意義を見出した。
食事を終えると、次なる計画に目を向ける必要があった。出発前のリーダンシーと今の状況をできる限り客観視し、次の行動を模索する。彼は窓から外を伺い、状況を知ろうとする。
「今の街は成り行きでどう変わってしまうのか。明日のこと、そしてその先のことも考えなければ」
と、思いを巡らせた。
ダイニングテーブルの上には、少し散らばった食材の残骸が残り、それが彼の生き延びる戦いの一部を表していた。彼は今後の行動を考え、自らに問いかける。
「明日は何をしなければならないのか?他に後がない。食料がなくなれば、その先に待つのは死だ」
と。
ゾンビが街を荒らし、生き延びるための確保が急務となっているその状況において、彼は平穏無事に過ごせる日々が戻ることはないと悟った。
「人と交わることなく、孤独に戦わなければ。仲間を求める安易な選択肢は、私の生存戦略には合わない」
と、口に出さず心に留める。
次の日、彼は計画的な行動を計画する必要があった。スーパーで見つけた物資の一部を持ち帰りながら、より効率的に物を確保し、復活できるチャンスをつかむのだ。もう一度スーパーに戻らなければならないが、その場所の危険性は高い。
「その時間を見極めながら団結を持って行動しない限り、次の決断ができない」
との思いを巡らせ、瞼を閉じた。
体が疲れ果てていく中、彼は自分を再度鼓舞し続けた。
「今の生活こそが本当の意味で生き延びる体験だ。しかし、未来の不安を抱えたまま過ごしても高望みはできない」
何かを決断したい。そう思いを巡らせながら、夢の中で彼は鮮明な未来を描く。
麗司が目覚めると、日は新たに輝いていた。夜はいつものように過ぎ去ったが、彼はその日進む道を決めるための信念を再確認した。今日もまた生き延びるための挑戦の日々が始まる。心の底で希望を抱きしめながら、
「次に何をするべきか、絶対に成功させる」
と彼は心を決めた。
彼は食事を済ませ、再び外の世界に出る準備をした。この世界で生き延びるためには、情に流されず、理性を持って決断を下すことが必要だ。麗司の身体に許された条件は少ないが、彼はそれを乗り越えることを意識している。
「自分の運命は自分で手に入れるものだ」
と決意を新たにした。
彼は玄関を開け、心に恐怖を抱えつつも、一歩を踏み出した。公園の方へと進み、その中からスーパーへと歩を進める。音を立てないよう、慎重に進む動きを意識した。周囲の静寂に耳を澄ませながら、万が一の事態に備える。彼がサバイバルを続ける限り、この道を選ばないわけにはいかなかった。
次の町へと足を進めながら、麗司は心の中で独り言を言った。
「明日も生き延びるため、進み続けなければな」
。希望の光を求めながら、彼は普段の冷静さを保ちつつ進むことを誓い、次の一歩を踏み出した。