第49話 「異世界の謎を追う探偵女子の冒険」

久遠乃愛は、大学の講義棟に足を踏み入れた瞬間、まるで異世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えた。静かな廊下に響くのは耳をつんざくような静寂のみ。しかし、この静けさを破るように、どこからともなく響いてくる不可解な足音に心を捕らえられてしまう。

「乃愛ちゃん、これ絶対怖いよ」

隣にいる幼馴染の雪村彩音は、少し不安げに目を丸くしながら呟いた。彼女の茶髪のボブが、緊張感を一層高めている。彩音さんは明るく社交的な性格だが、こういう状況になると少々頼りなく見える。

「何かあったのかもしれないですわね。様子を見に行きましょう」

乃愛は冷静に、しかし心の奥では好奇心が疼くのを感じていた。探偵としての心が彼女を駆り立てているのだ。二人は講義が行われていない教室へ向かう。廊下の壁には、薄暗さとクシャクシャになったポスターが貼られ、まるで人の影が潜んでいるかのように思わせる。

教室のドアを静かに開けると、中は白い光に包まれていた。机が整然と並べられ、黒板は生徒たちの思い出を刻んでいた。しかし、そこここに埃が積もり、誰も訪れなくなった教室のようだった。

「違う、ここではないみたい」

乃愛は小さく呟き、来た道を引き返す。再び廊下へ出ると、さっきの足音が再び響いてきた。まるで何かが押し寄せているかのような錯覚を覚え、乃愛は思わず身を引いた。

「ねえ、乃愛ちゃん、あれ見て!」

彩音が指差す先には、長い廊下の奥にある非常口の扉が少し開いているのが見えた。異音はその先から聞こえてくるようだった。乃愛は意を決し、固く握りしめた手で扉を押し開いた。

暗い階段が伸びており、どこかの部屋へと続いている。乃愛は先に進み、彩音もその後についてきた。数段降りたところで、目の前に現れたのは小さな窓だった。

「ここから見える何か、あるのかもしれない」

乃愛は窓の外を覗き込む。視界に飛び込んできたのは、学校の裏手にあるコンビニの明かりだった。最初は特に何の変哲もない風景に見えたが、何かおかしな気配を感じた。

「早くその足音を確認したいですわね」

乃愛は心の中で静かに自分を奮い立たせながら、もう一度音のする方へ向かって降りていく。すると、唐突に何かが視界を横切った。乃愛は瞬時に反応し、身を縮めた。

「乃愛ちゃん、誰かいるの?」

彩音が小声で尋ねる。乃愛は noddedしながら、音の正体を確認しようとした。しばらく沈黙が続いたが、再度、足音が聞こえてきた。どうやら近づいてきているようだ。その瞬間、乃愛の心は緊張感で引き締まった。

「ちょっと待って、動かないで!」

乃愛は声を潜め、足音の正体を探らなければならない。ところが、その音は突然消えた。しかし、今度は何かが転がる音も聞こえてきた。

「何かが落ちた?」

彩音が不安げに呟いた。乃愛はさらに注意を払い、静かにその音のする方へと近づいていく。しかし、目の前には誰もおらず、ただ静寂が迷路のように広がるだけだった。

その時、ゴミ箱の影から一枚の封筒が見えた。白い封筒には何も書かれていない。しかし妙に色褪せていて、古ぼけた印象を与えている。

「ありました、手がかりですわ」

乃愛は封筒を拾い上げ、悠然とした表情を浮かべた。彩音は驚きと興味が入り混じった顔で見つめる。

「でも、これだけじゃ何もわからないよね?」

乃愛は微笑みながら言った。
「そうですわね。ですが、私たちの調査に役立つかもしれませんわ」

二人は再び廊下に戻り、教室に戻ることにした。封筒の中身は確認せず、少し落ち着いてから開けるつもりだった。廊下は依然として静まり返り、時折耳をつんざくような音が不気味に響く。

教室に戻ると、乃愛はその封筒を机の上に置き、じっと考え込んだ。恐らく、どこかの段階で何かをつかむ手がかりになるはずだと信じていた。彩音はその様子を見つめながら、少し不安そうに口を開く。

「ねえ、次は何をするの?」

乃愛は薄く笑いながら考える。人の足音に隠された真実を解き明かすためには、少し時間がかかるかもしれないと感じていた。しかし、彼女は彩音の明るさを信じかけていた。彩音がいる限り、必ずこの謎を解決できると。

「まずはこの封筒の内容を確認しましょう」

乃愛は、封筒を慎重に開ける。封筒の中には一枚の紙が入っていた。その紙には、妙に古びた字で
「夜の講義棟に現れる影」
と書かれていた。

「これが、この事件の全てかしら」

乃愛は思わず呟いた。それに対し、彩音は目を輝かせた。

「ついに本筋に入ってきたね!」

「そうですわ、彩音さん。今日は特に重要な日になるかもしれません」

乃愛は胸が高鳴るのを感じながらも、冷静さを保った。人間の心理、そして論理の力を信じている自分がいる。

「では、少し情報を集めに行きましょう。何か手掛かりが掴めるかもしれませんから」

乃愛は立ち上がり、彩音も後に続いた。二人は会話をしながら、学校の中を歩き回る。息を呑むような静けさがまだ続いている。しかし、心の奥底にはこの不思議な現象の裏に潜む真実を求める期待感が膨らんでいた。

その後、二人は数人の学生に出会い、それぞれの意見を聞くことができた。足音については多くの噂が広まっており、誰もが何かしらの恐怖感を抱いていた。ただし、その正体が一体何であるかを知る者はいなかった。

一通り情報を集め終え、乃愛と彩音は再び講義棟の中へと戻る。今度はあの封筒が持つ意味や、夜の講義棟に現れる影の正体について考え込んでいた。

「さっきの封筒、あの内容はどういうことかしら」

乃愛は思考をめぐらせた。
「推理を重ねていくうち、きっと何かが繋がるはずですわ」

「それなら、乃愛ちゃんの大好きな、推理小説の展開みたいだね」

彩音の顔には笑みが浮かび、乃愛もその笑顔に心が弾むのを感じた。時折、彼女の無邪気さや純粋さに救われる瞬間があることを思い知らされた。

講義棟の最上階へ到達し、さらに静まり返った廊下を歩く。そこには教室があり、中には今も生徒たちの思い出が一つ一つ刻まれている。

「もしかして、あの講義棟にいるのは警備員、もしくは管理者かもしれない」

乃愛はつぶやいた。確かに、足音の正体が近づいてくるとき、一瞬何か影が見えた気がした。

「でも、どうして足音だけを聞くのかっていうのが気になるよね」

「それも謎ですわね。夜の講義棟には、あんまり人がいないはずですし」

二人はその瞬間を待つように静かに見守った。数分後、教室の入り口付近から足音が聞こえてきた。また一段と緊張感が高まった。

「またやってきたわ、警備員の影かしら?」

乃愛は彩音を振り返り、ゆっくりとその影を追った。まるで探偵小説の一ページに描かれているような展開だった。

その時、不意に背後から声がした。

「おい、君たち、ここには何の用だ?」

振り返ると、茶色の制服を着た中年の男性、警備員が立っていた。思わず心臓が鳴り響いた。

「私たちは、足音の真相を探っているのですわ」

乃愛が毅然として答えた。しかし、内部の緊張感がどうにかして伝わったのか、警備員は目を細めた。

「なぜその足音を追っているのか。でも、あんまり深入りしない方がいいぞ」

不審者のように振舞う彼に、乃愛は策略を練りつつ、どうしてもその真相を掴みたい。その時、彩音が割って入った。

「どうか、何かを教えてください!私たちは本当にこの学校のために行動しているんです!」

彩音の無邪気な笑顔が、警備員の硬さを和らげるかのように見えた。一瞬の沈黙が流れた後、彼は少し考え込むように見えた。

「君たちがここで何をしているか、話し合う時間はないかもしれんが、実は足音の原因は・・・」

彼が話し始めた時、乃愛と彩音は興味津々で耳を傾けた。

「最近、誰かが何かを探しているようでな。夜になると、いろんな音が聞こえるんだ。昨日も、コンビニの裏に通じる通路で、怪しい人影を見た。確実に何かがあると見ている」

乃愛はその情報に非常に興奮し、好奇心が燃え上がるのを感じた。

「コンビニの裏に通じる通路ですって。もしかしたら、私たちの求めている手がかりがそこにあるかもしれない」

彼女の瞳は輝き、こんな日が来ることを夢見ていたかのように思えた。彩音もそれに続く。

「行ってみるしかないよね!乃愛ちゃん、急ごう!」

二人は直感に従い、講義棟を離れ、コンビニへと向かうことにした。だんだんと興奮が高まる中、夜の静けさに二人の心臓の音が響く。

まるで冒険小説の中に入り込んだかのような感覚を持ちながら、コンビニの裏にたどり着いた。そこで二人は、怪しい人影の痕跡を探し始める。

舗装された道の隅には、いくつかの足跡が彼女たちの興味を引いた。彼女たちはその足跡をたどり、何か落ちているものはないかと探し続ける。

やがて、コンビニの裏手に広がる小さな倉庫を見つけた。ドアが少し開いており、奥に何かが隠れているようにも感じる。

「ここ、調査してみたいですわ!」

乃愛の心は期待と興奮でいっぱいになり、彩音も同様だった。ドアを開け、二人は暗闇の中へと入っていく。

倉庫の内部には様々な工具や箱が散らばっていたが、注目すべきものは彼女たちの周囲には見あたらない。ただし、何かを感じる景色がそこに広がっていた。

「何かあるかしら……?」

乃愛は周囲を視線で探り、リアルタイムで思考を巡らせながら進んでいく。彩音は何かを見つけるために必死で目を凝らし、共に新たな手掛かりを求めていた。

その時、ふと裏手の隅で小さな光が目に入った。それは何かの金属が反射した光そのもので、好奇心をかきたてる。

「見て!あれ!」

思わず指を差す彩音の声に、乃愛も見つめた。小さな金属的なものは、かなりの数が散在していた。しかし、その光が放つ影はどこか冷たく、どこか異質な雰囲気を漂わせていた。

「何か微妙な雰囲気がありますわね。しかし、全体として確実に何かがありそうです」

彼女の瞳がさらに輝く。二人は動作を共にし、その金属製品を拾い上げることにした。

見たところ、その金属の一部に封筒がついていた。封筒の色はすっかり退色しており、細かい文字はほとんど読めなかったが、書かれているのは少し興味をそそる内容だった。

「これは、警備員からのメモかしら」

乃愛は微妙な感情を持ちながらも、その封筒を持ち込むことにした。その内容は次第に彼女の思考を掻き消す。

あの警備員が言った内容、足音の本当の正体、そして夜の講義棟の影。この残された手掛かりを一つ一つ紐解き、自分が描くミステリーの結末に繋がる道へ進むのだ。

一つ一つのパズルのピースが結びついていく中で、乃愛の心に新たな疑念と期待感が膨らんでいた。このまま真相に迫ってしまうのか、それとも新たな謎が待ち受けているのか。

「さあ、乃愛ちゃん。またあの講義棟へ戻ろう!もう少しでこの謎が解けそうな気がするよ」

彩音の声に、乃愛は強い決意をもってもやもやした感情を吹き飛ばした。二人は再び講義棟へと戻り、新たな展開を迎えようとしていた。

戻った講義棟で、乃愛は再び封筒を広げ、その内容を確認した。そこには警備員からもっと充実した情報が書かれていることを期待していたが、ただのメモであることにがっかりするのも束の間、意外な真実が待っていた。

「実は、背後にいるのは美術館の警備員なんですって。その足音は、彼によるものだったの」

しかし、彼はこの足音を操る理由を知らないかのようだった。この謎を掴むカギは、結局彼の過去にあるのかもしれないと思い始めたとき、乃愛は思考を深める。

「美術館の警備員、つまり自分を守るために背後にいるのかしら。その動機がどこに繋がるかを考えなければなりませんわ」

「確かに、それなら私たちも急いで美術館へと向かうべきね!」

まるで運命に導かれるかのように、彼女たちは再び新たな謎と対峙するために足を進めていった。全ての論理と感情を備えた彼女たちの心の中で真実が徐々に浮かび上がる。

やがて、美術館の入口に到達し、二人は薄暗い廊下を進んでいく。そこには独特な空気がただよい、異次元に迷い込んだような感覚が広がっていた。

「美術館の中には、何か隠れたものがあるの?」

乃愛の瞳は期待でちりちりしていたが、いったい何が待ち受けているのか、彩音も同様に感じていた。

そこで、二人は警備室に入り、警備員に対して直接尋ねることにした。
「さあ、真相を探りに行きましょう」

警備員がその背後に忍び寄っていた手がかり、さっき確認した足音の真相がすぐに明らかになることを期待しつつ、二人は恐る恐るその扉を開け、真実に迫っていくのだ。