第47話 「幽霊騒ぎと図書館の秘密」

ある秋の午後、久遠乃愛とその幼馴染の雪村彩音は、学校の帰りに地元のクラフトビールバー『ホップの森』に立ち寄ることにした。乃愛は文献を調査するつもりで、雅やかな黒髪をくくり、書籍の束を肩にかけていた。彩音はその間、周囲の店先を華やかに眺める、いつも通りの元気な笑顔を浮かべていた。

「乃愛ちゃん、ここ、すごく雰囲気が良さそうだよ!」

彩音が魅惑に目を輝かせながら言う。
「早くお店に入ろうよ!」

乃愛は微笑みを浮かべつつも、頭の中では既に次の事件のことを考えていた。この町で最近、不可解な幽霊騒ぎが発生しているという噂が立ち、その煽りを受けて地元の学生たちが騒動を巻き起こしているのだった。彼女もその噂を耳にし、気になる情報を収集したいと思い立った。

「入ってみましょうか、彩音さん」

そう言って乃愛は店の扉を開け、中に足を踏み入れた。クラフトビールの香ばしい香りが鼻をくすぐり、各テーブルの賑やかさが心を和ませる。

「お待ちしてましたよ、乃愛さん、彩音さん」

バーテンダーの男性が軽やかな声で二人を迎えた。彼はお洒落なメガネをかけた、落ち着いた雰囲気の人だった。乃愛と彩音は従業員に促され、カウンターに着席する。

「それで、どうしたのですか、あの噂のことが気になるんですか?」

男性が尋ねると、乃愛は少し間を置いてから頷いた。
「ええ、最近この周辺で、どこかから幽霊が出てくるという話を聞きましたわ。特に図書館の周辺で、学生たちが不安を感じているらしいのです」

滲む興味にバーテンダーが顔を輝かせ、
「実は…それ、僕も耳にしました。先日、図書館で妙に質問をしてくる女性がいたんですが、彼女がいつも同じ時刻に現れるとか…」
と情報を提供してくれた。

「それは奇妙ですわね。どのような質問をしていたのかしら?」
乃愛の目が輝いた。

「図書館に関することや昔の出版物についてばかり。彼女は少し…浮世離れして見えました」

その言葉から、乃愛は何かを感じ取った。図書館の幽霊騒ぎの背後に、彼女の存在が関係しているのかもしれない。心の中で推理を組み立てながら、彼女は彩音を振り返った。

「彩音さん、図書館に行ってみましょうか?」

「うん、行こう!」
彩音は即座に賛同した。

二人は『ホップの森』を出た後、図書館へと向かった。市立図書館の古びた建物は、薄曇りの空に溶け込み、神秘的な雰囲気を醸し出していた。乃愛はここで、古典文学や歴史書の狭間から何か手がかりを見つけ出せると信じていた。

図書館に到着すると、内部の静けさに囲まれたが、相変わらず不安な空気が漂っていた。他の学生たちは静かに興味深そうに本をめくりながら、時折笑い声が聞こえる。乃愛と彩音は真っ先にカウンターに向かい、館員に尋ねた。

「最近、見かけた女性について何か情報はありませんか?」
乃愛が微笑みながら質問すると、館員は小首を傾げて返答した。

「確かに、最近図書館の利用者が増えて、その中に少し変わった人物がいますね。彼女、ずっと同じ本を持ち歩いているようです」

「その本のタイトルや、その人物の特徴も教えていただけますか?」
乃愛は興味を抑えつつ訊ねた。

「ええ、彼女は中年の女性で、髪型は薄い茶色のショートボブ。いつも目を引くような派手なコートを着ているんですよ。それと、その本は…」

その瞬間、彩音が何かに気がついたように目を見開いた。
「乃愛ちゃん、見て!」

カウンターのそばに立っていた女性は、まさにその説明通りの姿だった。乃愛は静かに観察し、彩音はその女性の後を追うように影を見つめた。

注意深くする乃愛の耳に、その女性が他の学生に向かって何やら話している声が届く。感情に流されずに吟味するが、その言葉に次第に引き込まれる。

「あなたは何を知っているの?本当に彼が幽霊だと信じているの?」
と、不気味に囁く女性の声。

乃愛は瞳を細め、その様子を観察する。
「彩音さん、彼女はただ好奇心に駆られているわけではない。何かを隠しているに違いない」

言葉を交わすその瞬間、女性は何かを目撃したようで、慌てて立ち去ろうとした。それに気づいた乃愛と彩音は、彼女の行動を追うことに決めた。二人は館内の本棚の陰から彼女の動きを探る。

女性は急いで図書館を後にし、乃愛たちも後を追った。彼女は駅に向かっている途中、何かを取り出した。それは黒い鞄だったが、その中をノアの目は鋭く察知した。近くのベンチに座り込んで、何かを書き始める女性の姿が見えた。

「彼女、あの鞄の中に手がかりがあるかもしれないわ」
乃愛は彩音に静かに囁いた。

少し賭けに出るように、乃愛は近づき、アイスブレークを試みた。
「その鞄の中身は?」

「なんであなたがそれを知りたいの?」

女性は目を細めたが、乃愛は微笑みを浮かべて続けた。
「わたくしはただの学生ですわ。興味があるだけかしら」

すると女性が鞄の中に手を差し入れ、手元を隠し始めた。乃愛はその瞬間に強い興味を抱く。
「それは何のメモですの?」

一瞬の硬直の後、女性は笑いながら、しかし目に恐怖を宿してその場を去った。その表情は彼女が持つ何かを隠す決意を感じさせた。

「彩音さん、急ぎましょう!」
乃愛はその場を離れると、追跡を開始した。

二人は急いで女性を追った。途中、彼女が持ち去った鞄を見つけ、急いで中のメモを確認することに。彩音は自らの体力を駆使し、乃愛を引っ張りながら、同時にメモに視線を送り続けた。

「これ、何が書いてあるの?」
彩音はメモに目を凝らし、乃愛もそれに同調して言った。
「周囲を洞察する姿勢が必要ですわ。まず、みんなに質問を送り、この女性を探りましょう」

メモの内容はその女性の過去と関係していることが判明し、嫉妬や衝動に駆られた思惑が記されていた。乃愛は考えを巡らせながら、彩音と共に情報を整理する。

「このメモには、図書館での彼女の幼い頃の思い出や、何かのライバル意識が根付いていますわ。もしかしたら、彼女が語る幽霊の正体とは、旧友の名に関係する何かかもしれない」

結局、いかにしてこの問題を解決するかが乃愛と彩音に託されることとなった。両者の個性が交錯しながら、真実を探るための最終局面を迎えようとしていた。

乃愛はその日、幽霊の話を突き詰める決意を固めた。疑惑の目をもって女性の行動に迫り、物語の陰に潜む嫉妬心と過去を掘り起こしていく。
「彩音さん、本格的に調査を進めましょう。きっと、この女性には何か秘密が隠されているはず」

「もちろん、乃愛ちゃん!私たち、必ず真相にたどり着こうね」

彼女たちは強い決意を持ちながら、次なるステップに進み出した。