第3話 「告白の重圧と真実の先に」

久遠乃愛は、大学のキャンパスを歩きながら、陽射しが優しく降り注ぐ午後に眩い波間を思い浮かべていた。彼女は文学部に在籍し、推理小説や心理学を愛してやまない。冷静な観察力と論理的思考力を駆使して、これまでいくつかの事件を解決してきた。今日も、いつものように幼馴染みの雪村彩音と共に新たな依頼を受けるために、海辺のカフェテラスへと向かっていた。

「乃愛ちゃん、今日の事件ってどんな内容なのかな?」

彩音は明るい表情で尋ねた。彼女の茶髪のボブカットが陽射しに照らされ、キラキラと輝いて見える。

「どうやら、サークル内での告白に関する騒動のようですわ」

乃愛は優雅な口調で答える。

「相手が振られてしまったのか、それとも別の事情が隠れているか、詳細はまだわからないのだけれど」

「なるほどね。告白って、いつも波乱を呼ぶものだもんね」

彩音は、その純粋な好奇心を隠さずに笑った。

海辺のカフェテラスは、青い海と波音に囲まれた理想的な場所で、サークルのメンバーたちが集まっている。乃愛と彩音は、聴き慣れた会話の中に潜む不穏な空気を感じ取る。女性の悲鳴が耳を刺すように響き、二人はその声が発せられた方向へと急いだ。テラスの中心には、落ち込んだ表情の女子学生と、彼女を取り巻く数人の友人たちがいた。

「何があったのですか?」

乃愛は毅然とした口調で尋ねた。

「私、彼に告白したのに…彼にすごく冷たくされたの…」

女子学生は、涙で潤んだ目を乃愛に向けた。

その瞬間、乃愛は周囲の様子を冷静に観察した。女子学生の周りには、足元に泥がついているのが見えた。どうしてカフェのテラスに泥があるのだろうか?ふと、乃愛の頭に疑問が浮かんだ。

「彩音さん、この泥の足跡について調査してみる必要があるかもしれませんわ」

乃愛は、彩音に軽くそう告げた。

「了解!私が周りの人たちに話を聞いてみるね!」

彩音は、明るい笑顔を浮かべて言った。二人はそれぞれの役割を持って行動に移す。

乃愛は、落ち込みながらも他のサークルのメンバーに何が起きたのかを冷静に尋ねる。一方、彩音は、好奇心に溢れた様子で他のメンバーたちに声をかけて、情報を集めていた。

「聞いたところによれば、彼に告白したのはあの子だけじゃなく、他の子もいたらしいよ」

一人の学生が言った。

「それに、告白された彼はオープンキャンパスの案内係をしていて、プレッシャーでいっぱいだったみたい」

「オープンキャンパス…それは気になりますね。どうやら彼には多くの期待や重圧があったようですわ」

乃愛は考え込む。

一方、彩音もまた、学生たちの話を聞いて新たな手がかりを集めていた。

「もしかして、告白された彼もプレッシャーで押し潰されそうになっていたのかもね。それにしても泥はどうしてできたのか、気になるなぁ」

「彩音さん、先ほどの泥が何かの手掛かりかもしれないと思いませんか?」

乃愛は足元を指さしながら言った。

「確かに!あの泥、どこから来たのかな?」

彩音は興味を持ち、その足跡を探り始めた。

「もし彼がここを通ったなら、誰かが後を追った可能性も…」

二人の推理は次第に現実味を帯び、周囲のエネルギーも高まる。乃愛は、泥の形状や如何わしい場所を確認し、過去の経験と蓄積された知識を活用して、様々な仮説を立てていく。

「これ、きっとサークル内で気持ちがぶつかり合うことで、誰かが衝動的に行動に出た結果だと思うのですわ」

乃愛は、緊張した面持ちで言った。

「それに泥が付いていた人、それはまさに彼なのかな…?」

彩音は疑問を持ちながら、泥の足跡を追いかけていく。彼女たちがテラスを抜け、海辺の波打ち際を歩いていると、彼方から一人の学生が近づいてきた。

「あの…みんな、何かあったの?」

彼は心配しながら尋ねる。

「あなた、オープンキャンパスの案内係をしている学生さんですか?」

乃愛が迫ると、彼は少し驚いた様子を見せた。

「そうだけど、どうしてそれを…?」

彼は詰まりながら言い、目を合わせられなかった。

「あなたがこの泥の足跡を知っているのではないのですか?」

乃愛はついに持ち込んだ。

彼は一瞬顔を青ざめさせたが、やがて涙を溜めて言った。

「俺、彼女に言ったんだ…振った理由があるって…でもそれが、彼女を傷つけることになっちゃった」

「やっぱり、告白された彼はプレッシャーによって衝動的に振ったんですね…でもどうして泥が…?」

乃愛は訝りながら繰り返した。

「俺、カフェの裏の道を通ったんだ。そこで、真剣に考えてたら、偶然会ったあの子が暴れて…泥がかかっちゃった。だから、俺は逃げたんだ…」

彼の声は小さくなった。

「つまり、あなたが彼女の気持ちを無視して、告白後に逃げた結果、彼女はさらに深く傷ついてしまったのですね。そして泥は、その名残だったと…」

乃愛の頭の中に真実が浮かんできた。

そこに彩音が戻ってきて、乃愛に目を向けた。

「乃愛ちゃん、さっきの話を聞いてみたけど、彼の肩にかかるプレッシャーは相当みたいだよ。彼も気持ちはあったみたいだけど、お互いのためにそうせざるを得なかったのかも」

乃愛は、しばらく黙考した後、結論に達した。

「つまり、事件の真相は…告白がきっかけとなり、彼はその重圧に耐えられず逃げ出したのですね。本当に心の奥底で悩んでいたが故に、結果を究極的に苦しくしたのだと思いますわ」

二人は彼を見つめ返し、彼もまた心の内の葛藤を抱えている様子がうかがえた。彼女たちは事件の解決に至って、心の痛みを理解する時が訪れた。

こうして、乃愛の推理と彩音の行動力が見事に交差し、真実の糸を解き明かした。

「結局は、お互いが思いやりを持てなかった結果、こうなってしまったのですわ。私たちができる支援をし、解決を導いてゆくことが重要です」

その後、サークルのメンバーたちと一緒に和解が進められ、彼女たちのおかげで事態は大きな改善を迎えることができた。彼女たちは海を背景に、仲間たちと共に新たな一歩を踏み出すのだった。助け合いと理解が何よりも大切なことに改めて気づいた瞬間だった。