第43話 「探偵乃愛と彩音の美術品偽造事件」

「最近、何か面白い依頼は来ない?」
と、久遠乃愛が雪村彩音に尋ねた。彼女は文学部のキャンパス内の喫煙所で、紫外線に照らされた髪を揺らしながら、優雅に煙草をくゆらせていた。クールな彼女の姿が、不思議なほど周囲の喧騒から隔絶された空間を生み出していた。

「今はまだ何も。でも、乃愛ちゃんが探偵をやっているんだから、何か起きないかなぁ」
と、彩音は無邪気に笑った。彼女のその笑顔には、希望や期待が詰まっている。乃愛はそんな彩音を見ながら、心の片隅で事件の匂いを嗅ぎ取っていた。

その時、音もなく近づいてきた大島教授が、彼女たちに微笑みかけた。
「久遠さん、ちょっと困っていることがあって…」
と言いかけた瞬間、乃愛は直感的に気づいた。これはただの頼み事ではない。きっと何か真剣な事態が押し寄せてきたのだ。

「何があったのですか?教授」
と乃愛が冷静に尋ねると、大島教授の表情が曇った。
「実は…キャンパス内で美術品の偽造が見つかりまして、依頼者が急いでいるのです。今すぐ、乃愛さんたちに責任を持って解決してほしいと…」

乃愛と彩音は、教授の言葉にじっと耳を傾けた。商店街の活気あふれる場所から、嘘の美術品が生まれるなど、考えもしなかった。しかし、乃愛の心の中に探偵魂が燃え上がる。
「わかりました、教授。私たちが解決しますわ」
陰謀とサスペンスに対する期待感が胸を高鳴らせる。

現場である喫煙所へ向かう途中、乃愛は冷静に考える。それはただの喫煙所として知られている場所。しかし、何かを隠すように人々の視線を避ける者が多く、そこには秘密が埋まっている気配を感じ取った。

到着すると、少し緊張した面持ちの学生たちが集まっていた。
「この美術品が偽造だなんて信じられない!」
と誰かが声を上げる。
「こんな素晴らしい作品が…」
と別の学生が続いた。乃愛は、その様子を観察しながら、何が真実で何が嘘なのかを心で研究していた。

「あの机の下を見てみて」
と、乃愛の声が響いた。そこで彼女は何かを見つけた。机の下に転がっていたボールペンが、事件の重要な手がかりを示す可能性があると直感した。

「となると、このボールペンは誰のものかしら」
と彼女は言った。
「この手がかりから始めましょう、彩音さん。あなたの行動力を頼りにしますわ」
乃愛が悠然と相棒に促すと、彩音は頷いて立ち上がった。

「大島教授に聞いてみよう!」
彩音は自分の興味を全うし、善後策を模索する姿勢を見せた。

教授の強い勧めで、乃愛と彩音はボールペンの持ち主を探ることになった。あちこち、クラスメートに尋ねながらボールペンの作りや特徴を探り続けた。
「これは地元商店街の〇〇店のものだと思う」
と、ある学生が指摘した。

その情報を元に、二人は商店街へと向かうことにした。通りを歴訪する中で、彩音は街の雰囲気を楽しみながら
「この辺りのお店、色々あって面白いね!」
と明るく声を弾ませた。

乃愛は
「でも、私たちの目的を忘れないでください」
と穏やかに返した。彩音もそう思ったのか、真剣な顔に戻り、次第に落ち着きを取り戻した。

商店街に近づくと、そこには色々な店が立ち並んでいる。美術品を取り扱う店の前には、セールのポスターが掲げられ、大勢の人々が行き交う様子が見られた。その中に、一際目を引く、若い店主がいた。彼の表情には自信と劣等感が交錯していた。

乃愛は彼に近づき、自己紹介をした。
「美術品の件でお話があるのですが、よろしいですか?」
彼は一瞬動揺する表情を見せた。
「え、もちろん、何でしょうか…」

乃愛の質問に応じて、店主の答えが意外とスムーズであることに、少し驚いた彩音が目を見開く。
「この店の偽造品に関与しているのではないかと思っているのですが」
心中で乃愛が相手の心理を探るような目を向けた。

少しだけ戸惑った様子の店主は、やがて目を伏せながら言った。
「私には農業での先祖代々の負の遺産があり、潰れたくない一心で偽装を行いました」
その言葉には、込められた苦悩が感じられるが、それが全ての真実だとは限らない。

次第に、乃愛は直感的に店主の言葉が本当のものではないと感じ、改めて彼を観察し直した。
「動機があるのは分かりますが、本心を伺うためには、他に何か証拠を見つけましょう」
彼女は売場を見回し、周囲に潜む真実を探ろうとした。

その時、彩音が目を輝かせながら、何かを発見した。
「乃愛ちゃん、こっちに来て!この棚の奥に何か隠れている!」
彼女は急ぎ足で、しっかりとした視線を向けた。

乃愛がその場に駆け寄ると、そこには古い絵画の裏に隠された、小さな機械部品が転がっていた。
「もしかして、彼の偽造品の一部かもしれませんわ」
と乃愛が呟くと、彩音は不安と興奮を抑えつつ言った。
「この証拠を元に、再度尋ねてみよう!」

商店主に再度訪ねられ、両者は緊張感を持って対峙した。
「この機械部品のことを知っていますか?」
乃愛が放つ質問に、冷や汗をかきながら
「私はそのことを知らない、ただの売り物だ」
と答えた。

だが、乃愛は見逃さなかった。店主の瞬時の表情の変化が、彼の二重人格的な一面を暴露している。これが彼の内心の焦燥感を映し出しているのだ。やがて、彼は責任を負うことを選んだ。
「許してくれ、操り人形だった…自分の道のためにこれをしたのだ」

その強い告白の中で、乃愛は冷静に彼の真実を捉えた。
「偽造品の制作が、あなたの劣等感を克服するための手段だったということですね」
それを聞いた彼は、再び情熱をもって答えた。

「そうだ、私はここの商店街において、名を馳せたい一心で。だが、これが最後のチャンスになってしまった」
その言葉は、彼の苦しみに共感する何かを呼び起こした。乃愛は心の中で理解した。人間の持つ感情と欲望が交差するその瞬間を見逃さなかった。

「では、あなたは自らその道を選びました。私たちはあなたが再起できる道をご提案しますわ」
と言った乃愛に、彩音は感謝の意を込めて彼を見つめた。

その後、事件は無事解決へと向かい、乃愛と彩音の仲間としての固い絆を再認識することができた。

「乃愛ちゃん、やっぱりすごいね!」
彩音は目を輝かせた。
「あなたの推理力には驚かされたよ。今度は私ももっと頑張るね!」

「もちろんですわ。私たちの探偵チームはこれからも素晴らしい案件を解決するために、一緒に力を合わせていきますわね」
と乃愛は笑顔で応えた。

こうして、二人の絆は更に深まり、果てしない探偵の世界へと踏み出していくこととなった。彼女たちの冒険は、終わることなく続いていくのだった。