第22話 「特別な想いと独占欲のはざまで」

昼休みのチャイムが学校中に響き渡る。ちょうどそれまで勉強していた私、黒川梨乃はペンを置き、教室の中を見回した。友達がざわざわと弁当を広げ始め、愉快な笑い声が教室に満ちていく。しかし、私の視線はそちらではなく、同じクラスの村上和真に向けられていた。

和真くんは、見かけだけなら優等生に見えるが、その実、のんびりとした表情でまだ自分の弁当を用意している。彼の髪はふんわりとしたミディアムヘアで、なんとも言えない柔らかい印象を与えている。思わず彼を見つめていると、心の中でどきどきと鼓動が速くなる。彼に対する想いが溢れ出す私の感情をどう表現したらいいのか、いつも考えているのだ。

「あの、梨乃ちゃん、今日の弁当は何が入ってるの?」
クラスメイトの佐藤さんが、私の弁当を見つめる。

「今日は特製の鶏の唐揚げですわ。和真くんに喜んでもらいたくて…」
心の中では思わず興奮してしまう。どうしても彼に振り向いて欲しい、素直な気持ちを彼に届けたくて、私は必死だった。

「梨乃ちゃんの弁当、いつも美味しそうだよね。羨ましいなあ」

私の心の奥に強い独占欲が広がる。彼に他の女子が興味を持つのが、少しだけ許せない。だけど、私の想いが強すぎて、周りの友達にはすっかりバレバレという状況に、自分の心情を隠すことはできない。

「……いえ、和真くんには私の弁当を食べてもらわないと…」
言葉が思わず口をついて出る。そう、和真くんには特別に美味しいものを食べてもらわねばならない。

その時、和真くんがやっと弁当の準備を終え、テーブルに座る。彼は私の方を見て優しく微笑む。その瞬間、私の心臓はバクバクと音を立てる。彼のその笑顔が、私の心の中で常に渦巻いている。

「黒川、いつもお弁当作るのすごいな。自分でどんな味なのか気になる」
彼の唐突な言葉に、周りの友達も笑いながら話に参加する。

「私が作ったお弁当、食べてみる?和真くんの感想、すごく聞きたいですわ」
私は思わず声が上ずってしまう。

「え、でも、梨乃ちゃんの特製…なんて気を使わせちゃうかも」
和真くんは、私の弁当を食べることにちょっと緊張している様子だった。

「大丈夫ですわ。私の作ったもの、ちゃんと美味しいですから!」
私が強調すると、クラスメイトたちも一緒に笑いながら応援する。
「そうだよ、梨乃ちゃんのは絶対美味しいよ!」

彼は疑いの目を向けつつも、まんざらでもない顔をしている。
「そう言ってもらえると、楽しみだな」

私は彼の一言に心が弾む。彼に喜んでもらえると思うだけで、気持ちは高揚していく。

昼食を食べながら、私は和真くんとの距離を少しでも縮めたいと思っていた。お弁当のことや、学校の行事について話し、次第に私たちの会話が弾んでいく。しかし、和真くんの、そののんびりとした表情に、皆踊らされるように和やかな雰囲気に包まれていく。

「ねえ、梨乃ちゃん。次のイベント、どうする?」
黒川さんが話題を振る。

私の心は、すでに和真くんに関することでいっぱいだ。
「そうですね、クラス全員でワイワイ楽しみたいですわ」
と答える。

「梨乃ちゃんと一緒なら、楽しくなりそう!」
和真くんがすっと言う。
「クラスみんなで仲良くしたいし」

彼のその純真な言葉には、意図しない深い意味が含まれている。私はその瞬間、彼をもっと理解し、近づきたいと強く感じた。和真くんが私に一瞬でも特別な気持ちを持ってくれることを願う一方で、私の愛情が他の人に向かうのが許せない。

私はそう思いつつ、和真くんが他の女子に気を使う姿を見つめては心がもやもやする。私が彼の気持ちを独占したいと思っているからこそ、同じクラスであるのに、時折遠く感じるのがもどかしかった。彼が誰かに笑いかけているだけで、私の心は波紋を描いて揺れ動く。強い独占欲は、私の中で日々育ち続けていた。

「和真くん、本当に優しいですわ」
と心の声が漏れる。彼に感じる好感が、愛情として過剰に膨れ上がる。

それでも私の気持ちはどこか上向きだった。

お弁当が美味しいと褒めてもらえ、多くの友達に囲まれ、私から見たら和真くんも幸せそうに見える。その様子に、少しほっとする。その瞬間、他の人たちに気を使う彼を見つめる自分から、特別な想いはあふれ続ける。

「でもね、和真くん、私だけには特別に優しくしてほしいな」
と心の中で密かに呟く。恋心が抑えきれない思いが、私の日常に忍び寄る。

昼休みの残り時間、私と和真くんの会話は進む。和真くんのまっすぐな視線が私の心を掻き立て、ますます彼のことを思わずにはいられなくなる。何度も彼と目が合うと、自分の心の動きが如実に伝わってしまう。彼と共にいることで、私の日常が楽しく、胸が高鳴るのは間違いなかった。

同時に、周囲の友達の視線も心に痛みを与えることがある。彼の優しさに触れすぎている私の姿が周りに見えているのではないかと思うと、何だか居心地が悪くなる。自分の気持ちを秘密にしておきたい、他の人に見えないようにしたいとの思いが交じり合う。和真くんだけに独占したいのだ。

「梨乃、本当にお弁当美味しかったよ。ありがとう」
と言ってくれるのが、何よりも心を温かくする。ただ、その事実にどこか嫉妬のような感情が混在する。それはまるで、独占欲と純粋な想いとの葛藤だった。彼の笑顔に、私の心も蕩けそうになる。

弁当を食べ終わった後、クラスメイトと一緒に談笑しながら、和真くんとの距離をさらに縮めたいと、心から願う。彼の目を見て、少しでも私の想いを感じて欲しい、そう願う瞬間が続いていく。

「ねえ、和真くんと二人で遊びたいな…」
心の奥から思いが込み上げてくる。彼との行動を想像すると、嬉しさが込み上げる。

その後の昼休み、クラスメイトたちが次々と和真くんに言葉を投げかける。
「和真くん、運動会のこと考えた?」
と問いかけた時、彼は迷うような表情を見せた。

「うーん、まだ考えてないけど…梨乃と一緒にやったら楽しそうだな」
と彼が言った瞬間、私の心は得意満面に膨れ上がっていく。私と一緒に考えてくれる!そう思うと嬉しすぎて飛び跳ねたくなる。

「それなら、私も手伝いますわ」
と自然に言葉が口をついて出た。和真くんに関わることができるチャンスだ。

「ありがとう、梨乃ちゃん!」
彼の爽やかな笑顔が私の心から独り占めしたい感情をあふれさせる。周囲の友達も微笑んで彼の反応を見ている。

私の心中で浮かぶ気持ちと、彼に対する独占欲が交錯する。クラスのみんなは和真くんに、どんな感情を向けているのだろう。私の想いが一体どれだけの重さを持っているのかを、彼は理解してくれているのだろうか。その疑問が私を一層心配させた。彼の純粋さは、私の期待をすり抜けていくようだったからだ。

昼休みの最後に、和真くんの言葉が心に響く。
「梨乃ちゃんと一緒だと、学校の生活が楽しい」
と彼が言った。それは私にとっての最高の褒め言葉だった。彼との時間がどれだけ幸せな時間だったかを、再確認する瞬間でもあった。

授業が始まり、私の心は彼の笑顔と共に日常を過ごす。彼との思い出が私の心を包み込むが、それでも心の中には思いが込められ続けていた。どうにか彼にその想いを届けたくて、少しずつ近づいて行けるよう頑張ろうと、固く決意を固めた。

私の恋が、彼の心へ届く日はくるのだろうか。ーー私の想いが、潤いに満ちた心に響くように、自然に溢れる日が来ることを願いながら、そう思い続けた。