春の陽射しが心地よく感じられるある日、久遠乃愛と雪村彩音は大学のキャンパス内で、仲間たちと共にランチを楽しんでいた。乃愛は黒髪のロングストレートを優雅にかき上げながら、まるでシャンデリアの下にいるかのように微笑んでいる。対する彩音は、茶髪のボブカットを揺らしながら明るく笑い、周りの友人たちを盛り上げていた。
そんな時、不意にキャンパスの片隅から悲鳴が聞こえた。
「あれ!? 何が起こったのかしら?」
と乃愛は眉をひそめながら言った。
「行ってみよう!」
彩音が言い、二人はその声音の方へ駆け出した。
池のほとりには、若い女性がうずくまっていた。彼女は、人気アイドルとして知られる
「星野まどか」
だった。
「大変!まどかが誰かに追いかけられているの!」
彼女が声を震わせながら説明を始めた。どうやら、ストーカーに悩まされているらしい。乃愛は冷静に彼女に近づき、彼女の話を丁寧に聞くことにした。
「でも、何があったの? 具体的に話してもらえる?」
乃愛はお嬢様口調で尋ねた。まどかは涙を流しながら、
「最近、誰かに見られている気がして、ついにこの池のほとりで、実際に見かけたの。ただ、怖くなって逃げたら、彼がいる場所を見失っちゃったの」
と言った。
その言葉を聞き、乃愛は思考を巡らせた。
「手がかりは何かあるかしら?」
まどかは首を振ったが、池の周囲は泥でぬかるんでいることに気づいた。乃愛はその足元を見つめ、足跡があることに気づいた。
「彩音さん、これを見て」
彼女が指差すと、彩音も興味深げに近づいた。
「誰かがこの泥を踏みながら、あちらの方へ歩いて行ったみたいね。人が多い場所から逃げるなんて、何かその人にとって重要な事情があるのかもしれない」
「じゃあ、追いかけてみる?」
彩音は元気よく言った。乃愛は一瞬ためらったが、彼女の行動力に引きずられ、その決意を固めた。
「ええ、すぐに探しましょう」
二人は足跡を辿りながら、キャンパス内を歩いていった。話を聞くうちに、まどかが特定の人間にいつも見られ、脅かされていることがわかってきた。彼女はそのストーカーの正体を知らなかったが、どうやら彼女のバイト先の店長が頻繁に出入りしていたことがあるらしい。
乃愛の脳内は、推理の道筋を追い求めていた。
「バイト先に行けば、何かの手がかりが見つかるかもしれない。まずは、星野まどかの勤務先に行きましょう」
と彼女は言った。
バイト先の飲食店に着くと、乃愛と彩音は緊張感を持って店内に立ち入った。店内には、香ばしい料理の香りが漂っている。彩音は活気に満ちたスタッフの動きに目を奪われていたが、乃愛は店舗の背景を冷静に考察していた。
「ちょっと分かるかもしれない。スタッフの中に、その人のことを知っているかもしれない」
と乃愛は呟いた。
「誰かと話して、情報を集めましょう」
最初に話を聞いたのは、まどかの同僚だった。
「ええ、あの店長は何か不穏な雰囲気があるよ。最近、まどかさんに対して妙に興味を持ってるみたいだし、他のスタッフには優しいのに、彼女には特に好意的なの」
と言った。その声は暗い影を感じさせた。
「それは気になりますわね。やはり、彼がストーカーかもしれません。どのように接触しているのか知りたいわね」
と乃愛は言った。彩音はその話を聞いて、思わず目を輝かせた。
「私、彼に話しかけてみるよ! なにか質問をするから、待ってて!」
彩音はすぐに行動に移り、彼女の意見に沿って、店長に接触することにした。
少しの間の後、彩音が店長に近づく姿を見守る乃愛は、彼女が
「まどかさんのストーカーについて話したい」
と言っているのを聴いた。乃愛は心の中でドキドキしていたが、同時に彼女の行動を信じていた。
不安が募る中、突然、彩音がかけられる言葉を聞いた。
「あなた、ストーカーって誰? あの子に何かしたの?」
その瞬間、店長は驚いて顔を青ざめた。乃愛の目は店長に向かった。
「どうしたの?」
と彼女があらためて見つめ直した。
店長は一瞬たじろがったものの、冷静を取り戻し、明らかに不快な表情を浮かべた。
「まどかはただの子供だ! 彼女のことで心配することなんてない」
と言い返した。足元には泥が均された跡があり、その時、乃愛は彼の足元に目を凝らした。
「お待ちなさい。先ほど、まどかさんの話を聞きましたわ。あなたが彼女を追いかけていた証拠があるかもしれない」
と乃愛は一歩前に出た。
「その足跡、あなたのものに見えますわ」
店長は冷たい汗をかき始め、口を開く。
「そんなことはない、聞き間違いだ」
その瞬間、乃愛は彼が嘘をついていることを理解した。
「でも、泥はあなたのバイト靴に本当に同じだと思うの。まどかさんへの過剰な関心や彼女を追う理由、解明したくない?」
乃愛は冷静に問いかけた。
おそらく、周囲の視線が彼に向けられ、恐怖心から逃げようとした。乃愛はその瞬間、彼が真実を語らざるを得ない場面が近いと確信した。
ふいに彩音が叫んだ。
「乃愛ちゃん、捕まえて!」
ストーカーを恐れず、駆け寄ってくる彼女の行動に、乃愛も驚いた。しかし、その瞬間、店長は力任せに逃げ出し、彩音がすぐに追いかけた。
「捕まえよう!」
と言う彩音の声が響く。その声は美しく強く、乃愛は彼女の情熱に刺激され、まどかを守ろうとする気持ちを奮い立たせた。
二人で協力し、店長を追い詰めた。その様子を見て、乃愛は一瞬でアイデアを掴んだ。
「彩音さん、彼を追いかけながら、足跡のついた泥の証拠を集めましょう」
と指示した。
二人は、泥がついた靴の持ち主を特定するために急ぎ、その証言と暗示を収集した。クールな冷静さを保ちながら、乃愛は次第に真実に近づいていった。
しばらくして、店長は完全に追い詰められ、乃愛が真実を導き出すための話し合いに応じる羽目になった。
「私は…ただ、試験に受かりたかったんだ。まどかの人気にあやかろうとしただけだ」
と告白した。
目の前の事実に、二人は驚いた。結局はプレッシャーの中で歪んでしまった心情がもたらした悲劇だった。乃愛は彼の言葉を真摯に受け止めつつ、
「理解しますが、それは許されることではありませんわ。あなたは人の心を傷つけつつあったのですから」
と冷静に言った。
しかし、その言葉は痛みを響かせる。ストーカー行為は無許可の侵入であり、彼女たちの手の中に戻ってくるのはその真実を知ることだった。
この事件は、もしかしたら恐ろしい運命のエピソードの一部であるかもしれないが、乃愛は希望を捨てなかった。多くのつまずきや悲劇があったからこそ、今後は人の心を理解し合う道筋を見つけることが大切だった。
結局、乃愛と彩音は、まどかを無事に救い出し、事件の決着を迎えた。一緒に動き続けることで彼女たちは、
「心の闇」
と
「光」
を探る旅を続けるのだと、心に決めたのである。春の風が吹くキャンパスで、二人の冒険は続くのだった。