第38話 「探偵ごっこの秘密」

その日は空が薄曇りで、台風の影響がちらほらと感じられる日だった。久遠乃愛(くおん のあ)は、友人の雪村彩音(ゆきむら あやね)に呼び出されて、大学のキャンパス内にあるカフェで待ち合わせをしていた。彼女は黒髪のロングストレートを揺らしながら、静かにメモ帳を覗き込んでいた。心は次の推理に向かって高揚している。探偵としての自分を心の中で重ね合わせていた。

「乃愛ちゃん、こっちこっち!」
彩音の声が響く。彼女は茶色のボブカットを揺らし、明るい笑顔で手を振っていた。乃愛はその明るさに少しだけ心を和ませた。

「彩音さん、何があったのですか?」
乃愛は冷静に尋ねた。

「実はね、友達が変なこと言ってたの。授業のノートに、他人の秘密が書いてあったらしいのよ!」
彩音の目はキラキラしていて、何か大きな秘密を期待しているかのようだった。

「それは興味深いですね。具体的にはどのような内容だったのですか?」
乃愛はメモ帳を取り出し、早速記録を始める。

「うーん、詳しい内容までは聞いてないけど、その友達は空港に行った時に見つけたらしいの。話すのが怖くなって、乃愛ちゃんに相談しようと思ったみたい」
と彩音。彼女の興奮が乃愛にも伝染してくる。

「空港とは…少し旅行関係の余韻が残っているのでしょうか」
乃愛は自分の中で思考を働かせる。
「友達とはどのクラスメートですか?」

「えっと、確か隣の席の子だったかな。名前は知ってるけど…あんまり仲良くないかも」
と彩音。

「なるほど。では、早速その友達に詳しい話を聞いてみましょうか」
乃愛は決断した。その瞬間、彼女の中に探偵としての意識がみなぎった。

***

数時間後、乃愛と彩音は空港ロビーへ向かった。人混みの中、乃愛は自らの探偵としての存在感を引き立てるため、クールに振る舞っていた。空港の広大なフロアの中、彼女には目的がある。それはそのノートの真実を解明することだった。

ロビーで待ち合わせていた友達は、少し不安げな表情を浮かべていた。
「あ、乃愛さん、彩音さん!呼んでくれてありがとう…本当に変なこと喋っちゃったかなと心配だったよ」
と口を開いたのは、山田真理子だった。

「大丈夫よ。あなたが見たことを教えてくれたら、私たちが助けられるかもしれないから」
乃愛は優しい口調で話した。

「うん、実は空港で友達の荷物を待ってた時に、隣で見ていた子がノートを持ってたの。それが気になって、ちらっと盗み見しちゃったのよ」
真理子は少し顔を赤らめながら言った。

「どんな内容だったのですか?」
乃愛は真剣な眼差しで詰め寄る。

「その子、授業中のノートに、見知らぬ人の秘密が書かれていたの。それも、私たちのクラスメートの。なんか恋愛とか、人間関係の悩みとか、ああいうの。正直、私もびっくりしたわ」
真理子はそのことに困惑している様子だった。

「恋愛関係の秘密…それは一体誰のことなのでしょう」
乃愛は内心興奮しながら言った。
「続けて、何か手掛かりはありましたか?」

「うーん、確か、ポケットから出てきたレシートみたいなものだったけど、あまり見えなかったの。待つのが退屈でつい、ノートに目がいっちゃったのよ」
真理子の言葉を受けて、乃愛はさらなる情報を引き出す必要がある。

「レシート…気になるわ。そのレシート、どこに見つけたのか、覚えてますか?」
乃愛は鋭い目つきをして尋ねる。

「その子、旅行へ行く前に、何かを買っていたの。空港内のショップで、よく見るといろいろ買いものしてたな。荷物が重そうだったのよ」
真理子の声には少しの緊張感が漂っていた。

「ありがとうございます。それで、どこかで会えるかしら、その子には?」
乃愛がそう問うと、真理子は少し考え込む様子を見せた。

「明日の授業で、また会う予定。たぶん、隣の席だから大丈夫だと思う」
真理子は嬉しそうに答えた。

乃愛は微笑んで、彩音に目線を送る。彼女が何を思っているのか、乃愛には手に取るようにわかった。二人とも、この謎の背後に隠された理由を解明することにワクワクしていたのだ。

***

次の日、乃愛は大学の講義室に向かった。
「今日、あの子に会えるわね」
と心の中で呟く。しっかりとした決意を持って席に着くと、少し周りを見渡した。

「乃愛ちゃん、授業始まるまでに何か話せないかな?」
彩音はそわそわしながら言った。彼女の行動力が乃愛にも伝わってくる。

「授業が始まる前に、彼女にアプローチしてみましょう」
乃愛は彩音と微笑み合いながら、前を向く。

その時、隣の席に座っていたのは、田中美咲だった。彼女に声をかけるタイミングを見計らった乃愛は、一歩踏み出した。
「美咲さん、ちょっといいですか?」

振り向いた美咲は驚いた表情を浮かべた。
「あ、久遠さん。何か用ですか?」

「実は、あなたの授業のノートについてお話しいただきたいことがあります。お時間よろしいですか?」
乃愛は冷静さを保ちながら言った。

美咲の表情が一瞬、固まった。
「私のノート?なんですかそれ…」

「山田真理子さんから聞きましたの。あなたのノートには、クラスメートの秘密が書かれていると」
乃愛は言葉を続ける。
「もしよろしければ、そのことを詳しく教えてもらえませんか?」

美咲は小さくため息をつき、目を逸らした。
「あれは…ただの冗談です。みんなにからかれたくなかったから、秘密を書いただけ」

乃愛はその反応に注目した。
「冗談であったとしても、何が本当のことなのかはわかりませんわ。何か理由があって、そのことを隠したいのでは?」

美咲はためらった後、少しだけ口を開いた。
「実は…私の彼氏がいるんです。それで、彼の思いを守りたいと思ったから、みんなに知られないようにしていたのよ」

「彼氏を守るために嘘をつくのですね…もう少し詳しく教えてほしいですわ」
乃愛は更なる問いを放った。

「そのノートの内容は、私が直接聞いた言葉だから…他の人を傷つけたくなかったの」
美咲の表情は痛々しかった。

乃愛は彼女の心の葛藤を理解した。
「あなたが本当に大切に思っていることを知っているから、今後はどうしたいのでしょうか?」

「正直、彼とは別れた方が良いかもしれない。でも…それができないの」
美咲の涙がその目に浮かんできた。

その時、乃愛は美咲の心が抱えている苦しさに触れた。彼女は冷静さを保ちつつ、美咲に寄り添うように思った。
「どうか、正直に向き合ってみることをお勧めします。思いを隠しているのは本当の幸せにつながらないのかもしれませんわ」

美咲は小さく頷いた。

***

その後、乃愛は彩音と共に美咲が居た授業を終えた。彼女の話を聞いた彩音は、
「乃愛ちゃん、すごい!美咲さんが打ち明けてくれたのね」
と興奮気味に語った。

「はい、色々と複雑な事情が絡んでいるようですわ。恋愛は時に、思わぬ葛藤を引き起こしますね」
乃愛は冷静に感じ取った。

その時、乃愛の頭に一つの気づきが舞い込んできた。あのポケットから出てきたレシートの内容が、何かのヒントになっているのではないかと思った。乃愛は、彩音に案内されたレストランの近くで、レシートを見かけたことを思い出したのだ。

「彩音さん、そのレシートには何が書かれていましたか?その場所、覚えているかしら」
乃愛は再び興奮し始めた。

「はい、確か空港内のショップで何か購入したような…あ!それならば、資料室に行ってみる必要があるかも!」
彩音は行動力を発揮して言った。

乃愛はその意見に賛同し、七夕見た場所へと向かうことになった。サプライズな盛り上がりを期待しながら。

***

資料室に入ると、思っていた以上に静かだった。本棚には様々なリソースが詰まっており、調査にふさわしい環境だった。乃愛は早速、レシートの取得に取り掛かる。

「この辺りの本の中から、何か関連する情報が見つかるかもしれない」
乃愛はさまざまな本を手に取った。

しばらくして、彼女は突然思いがけない書類を発見した。それは空港ショップのレシートだった。何が書かれているのか、一瞬にして浮き上がってくる思考があった。
「これは…美咲さんの秘密を隠していたその子のものではないかしら」
乃愛は内心で思った。

「彩音さん、見て。このレシート、前にも見た記憶がある」
乃愛は興奮を秘めた声で言った。

「何かが見つかったの?乃愛ちゃん!」
彩音は彼女の言葉に食いつく。

「これが示しているのは、彼女が買った品物とあの秘密との関連性です。例えば、彼女はこの品物を誰かに送ったりしていたかもしれません」
乃愛は考えを巡らせた。

「それが、どう関係しているのかな?」
彩音も彼女の意見を真剣に聞いていた。

「美咲さんが心を寄せている彼氏に何か贈り物をしたのかもしれません。だけど、事実が心に傷を残す可能性もある…」
乃愛が言う言葉には、重みが込められていた。

二人は興奮を隠しながら資料室を後にし、美咲の元へと急いだ。その中には、真実が待っているのではないかという確信があった。

***

美咲のところに戻ると、彼女はまだ葛藤の渦中にいた。乃愛と彩音は彼女の心を少しずつ開かせるべく、全力を尽くす決意を固めていた。

「美咲さん、あのレシートについて話があるの」
乃愛は真摯な表情をした。

美咲は目を大きくして驚き、
「レシートがどうかしたの…?」
と不安になった。

「実は、あなたが彼に贈ったものが、それに繋がっているのかもしれない」
乃愛は冷静だが力強い口調で。

美咲は口を噤んだまま、自分の心の中でなにかが揺れ動いているのを感じていた。そして、彼女はただ一言、
「どうしたらいいの?」
と絞り出した。

「素直にならなければいけません。与えられた状況に向き合って、自分の気持ちを正直に伝えることが一番ですわ」
乃愛の言葉は、胸に響く。

「そうか…そうだよね」
美咲は決意を振り絞った。その瞬間、何かが彼女の中で変わるように感じられた。

乃愛と彩音は、彼女に笑顔を向けた。美咲は心を開いて、これからの道を自分自身で選択できる勇気を見出した。

***

数日後、乃愛と彩音は大学の図書館で勉強していた。美咲とは友達として今後も気持ちよく話ができる様子だった。彼女の心はずいぶんと晴れ晴れとしていた。

「乃愛ちゃん、私たちの探偵ごっこ、またやりたいな!」
彩音は目を輝かせて言った。

乃愛は微笑み、答えた。
「もちろん、彩音さん。世の中にはまだまだ多くの秘密が隠れていますわ」

「次はどんな謎に挑むの?」
彩音は期待を持って聞いてきた。

「分からないけれど、私たち探偵コンビはどんな困難にも立ち向かいますわ」
乃愛の心には、次なる探偵の冒険が待っているのだという期待が広がっていた。