今日もまた、教室の窓から差し込む光が私の机に優しく照らしている。そんな日常の中で、私はずっと密かに抱えている想いを一つ、告白しようと思っていた。それは、同じクラスの村上和真くんに対する恋の気持ちだ。彼は本当に優しくて、誰に対しても平等に接するからこそ、私は惹かれてしまったのだ。
「黒川、また和真のこと考えてるんだろ?」
クラスメイトの高橋が、ニヤリと笑いながら言った。私の気持ちがバレバレなのかと思うと、少し恥ずかしい。確かに、彼のことを考えると自然と胸がドキドキして、ついついいつも彼のことばかり見てしまう。
「そんなことないですわ。私はちゃんと授業も聞いてますの」
お嬢様口調を使って抗議するが、彼にはその真剣さは伝わらない。高橋はそっと私の肩を叩いて、笑顔で教室を退出した。彼にとっては、私の感情はまるで空気のように流れているのだろう。
今日、校内放送でのアナウンス係体験がある。厳密には、あの和真くんと一緒にやることになっている。私の心の中で何度も想い描いてきたシチュエーションだ。ただコンビを組むだけのはずなのに、何か特別な意味を持つような気がして、私の胸は高鳴りを増していく。
アナウンス室に入ると、先に到着していた和真くんがソワソワしていた。彼は少し緊張しているようで、コミュニケーションのバランスを取るのが得意ではない彼には、こうした場は苦手なのだろう。それでも、彼の優しい瞳を見ると、私の心は穏やかになった。
「黒川、準備はできてる?」
彼の問いかけに、私は勢いよく頷く。
「もちろんですわ、和真くんと一緒ですから、絶対上手くいくに決まってますわ」
内心、彼に私の思いを伝えたくてたまらなかった。どんな言葉でもいいから伝えたい。愛の重さがじわじわと滲み出すこの瞬間は、一体いつまで続くのだろう。
「それじゃ、やってみるか」
和真くんがマイクの前に立ち、その明るい声が流れてきた。
「みなさん、こんにちは。村上和真です。今日は特別なアナウンスがあります」
と続ける彼の言葉が、私の心を打ちながら教室に響いた。彼の声は、清々しくて、どこまでも優しさが溢れている。これが和真くんが持っている魅力そのものなのだ。
私も隣でマイクを握り、心の中で思いを込めた。
「皆さん、黒川梨乃です。本日はよろしくお願いしますわ。これから皆さんに伝えたいことがあります」
と言った瞬間、彼の横にいる喜びを噛み締めながら次の言葉が続く。
その時、ふと我に返った。周りのクラスメイトたちが小声でささやき合い、こちらをチラチラ見ているのが視界に入った。私の心がザワザワとした。
「この二人、仲良さそうだな」
「黒川、めっちゃ和真のこと好きだよね」
という囁きも聞こえた。思わず頬が熱くなる。
「気にしないで、集中しよう」
和真くんの言葉に、振り返って微笑んだ。この瞬間、ほんの少しでも彼に大切な想いを届けられたら、どんなに嬉しいだろう。アナウンスは続いていくが、私の心の中は彼に対する想いでいっぱいだった。
「次は黒川さん、お願いします」
「私、行きますわね…」
意を決してマイクの前に立った。声が少し震えたが、なんとか持ちこたえた。
「これから、校内のイベントについてお知らせいたしますわ」
その瞬間、和真くんの視線が優しく私を見守ってくれているのを感じた。こういう時、彼の存在が心強いのだ。少しずつ自信が湧いてきた、とにかく彼に私の想いを届けたい。しっかりと伝えるために、表情を引き締めた。
放送が終わり、安堵感と共に彼の方を振り向く。和真くんの満面の笑顔が私を包み込んでくれた。彼のその笑顔の意味が知りたくて、聞いてみることにした。
「和真くん、どうだったと思います?」
「すごくよかったよ、黒川。声もっとうまくなってるし、安心感があった」
それを聞いて、心の底から嬉しくなった。この瞬間を大切に思うのだ。私の想いが彼に届いているのかもしれない、そう感じることができた瞬間だった。
でも一方で、私の内心は少し荒れていた。彼に対する気持ちが本当にそうなのか、もっと深く伝えるチャンスがあるのか。今この瞬間を逃さないよう、心を決めた。
「和真くん、実は私…その、言いたいことがあるのですわ」
言葉がスムーズに出てこない。心臓がバクバクと鳴り響く。彼の目が私に優しく向けられて、思わず言葉を続ける。
「その、あの、和真くんと一緒にいると、すごく安心するというか…」
ここまで言えば、もう直球で伝えるべきだ。今度こそ、彼に私の想いを感じ取ってもらうために。
「あのね、和真くん、私は…」
その瞬間、教室のドアが開いてクラスメイトが入ってきた。
「あれ、何してるの?」
恥ずかしさで顔が真っ赤になり、心の声が消えた。和真くんも少し驚いて振り向く。雰囲気が一気に崩れてしまったことを感じた。そのまま流れていってしまったかのようだ。
「あ、私たち、アナウンスの準備を…」
和真くんが、場の雰囲気が壊れないよう取り繕うように言った。その瞬間の彼の優しさが、私の心を少し和らげた。
放課後、私の心のどこかに胸のもやもやが残っていた。さっきの言葉は、どうしても伝えたかった。彼にとって私との時間が特別で、私自身もその時間を心から楽しんでいた。
楽しみに仕方のない気持ちを胸に抱えながら、彼と過ごした一日を振り返る。少しずつでも、和真くんとの距離を縮めたい。次こそ、彼に想いをはっきりと伝えるチャンスを作らなくてはと、心に決めた。
その晩、何度も言葉を考え直しながら、どんな言葉が彼に響くのかを想像していた。ストーカーのように行動を追ってた彼の姿が、ふと目に浮かぶ。彼の何気ない行動や言葉が、私に思いをもたらしていたからだ。
新しい一日が明ける頃、私は決意を固めて彼に接することにした。彼と共に過ごしながら、少しずつ距離を縮め、最後には私の思いをしっかりと彼に伝える。それが、私が抱いている心の中の最大の願いだから。
次の学校の日、またいちから、彼に声を掛けようと心に決めていた。私の恋の物語は、まだ始まったばかりなのだ。