第32話 「サバイバルの選択肢」

麗司は人の気配がない狭い路地裏に身を潜め、高ぶる心臓の音を必死に静めようとしていた。冷たい空気の中で、自分の生存をかけた大きな選択を迫られた。目の前には物資を分別するための広げたリュックがあり、これからの生き残りを逆算するために必要なアイテムを確認する必要があった。

「まずは水だ」
と呟きながら、麗司はリュックのファスナーを引き開け、手を伸ばした。以前の訪問時に集めた飲料水のペットボトルが冷静に彼を見守っている。今はまだ省エネして使うべきだと思い、2リットルのボトルを一つ取り出した。
「これでしばらくは大丈夫」
と、最低限の安心感を得て、彼は次にカップ麺を手に取った。

その瞬間、彼は一瞬にして思考を切り替えた。
「カップ麺は消費期限を確認しないといけない」
と、壁に寄りかかるようにしてアイテムを確認する。既に何個か持っているが、急いで手に入れたため、消費期限を意識するのは今となっては当たり前のことだった。長持ちするものを厳選しなくてはならない。彼は慎重に手元の物を確かめつつ、これからの計画を立てる。

「ゾンビも気になるが、食料の確保は不可欠だ」
と彼は考える。体力を維持するには最低限のカロリーを摂取する必要があり、そのためには日持ちする食料を準備しなければならない。すでに目を付けた缶詰の数は限られているため、近いうちにさらに別のスーパーや商業施設を探る必要があるだろう。このように生き延びるための目先の必要性の中で、次第に彼の思考は整理されていく。

麗司は一度背筋を伸ばし、頭をクリアにしてから改めて物資のリストを作成した。
「水、カップ麺、缶詰、保存食、そして武器」
と分かりやすくリストアップする。食料そのものはあまり多くないが、今の自分の状況には情報と発想力が何より重要だ。次に何をするべきか、これを軸にして考える必要がある。

「武器か…」
彼は小さなナイフやハンマーを見つめ、ため息をついた。野生動物やゾンビから身を守るためには、その二つが唯一の頼りだが、準備ができていないまま少数の武器に依存するのは不安だった。

「近くに動物がいるか確認しておく必要がある」
と告げ、心の中で思索を進める。動物が襲ってくる前に行動を起こすことが求められるのだ。周囲の音を聞きながら、少しずつ立ち上がり、状況に目を光らせた。この地域が荒廃したのは何故か。食料が尽きているからか、あるいは音に反応した危険が迫る場所だからか。麗司は常にその可能性に頭を巡らせていた。

「まずは隠れる場所を見つける必要がある」
と豪語しながらも、実際には少しの不安が彼をよなよな包み込んでいた。密集するビルの合間にある駐車場や住宅地に潜むゾンビは、見ているだけでも恐ろしい。何があるかは分からず、他の者が自分のことを見ている気がして燃えるような緊迫感が肌を突き刺した。

静かな空間が続く中、何か音がしないか、耳をすませる。
「やはりこうして考えるのは無駄な時間だ」
、麗司は身を引き締める。実行に移すことが現在の彼にとっての重要な選択だ。考えるだけでは変わらない。自らが生存戦略を練り、そこから行動していかなければならない。

物品をリュックに戻し、再度周囲を確認する。次に進むべき場所を見極めるため、通りに目を向けた。目に入るのは、破壊された車両や廃墟のような建物。人の気配は全く感じられず、孤独感が彼の心を締め付ける。

「ここから先、どれだけ危険が待ち受けているのか…」
深くため息をつきつつ、彼は少し身動きした。周囲の状況に対してさらに意識を高め、焦点を絞る。通りと駐車場のレイアウトを頼りにし、その中にゾンビがいる可能性を念頭に置いて行動する必要があった。

「カートを持参し、移動するための手段が必要だ」
と心の中で慎重に考えつつ、使用する物を思い浮かべる。冷静さを失わずに行動することが、今の彼に課された使命だった。
「例えばカートを使って目立たない道を使い、通りへ進むことができれば…」

その時、ふと目の前に何か動く影が見えた。麗司の心は一瞬凍りつく。
「まさか…、またゾンビが来たのか?」
と思う間もなく、背筋が寒くなる感覚が広がった。しかし、その影は目を細めて近づいてくると、その正体が分かる。

「猫だ…」
麗司は安堵の息をついた。廃墟のような場所でも生き残っているのは、驚きであり、同時に小さな希望の象徴だった。猫もまた、この終末世界で懸命に生き抜いていることを思い知る。

「そうか、猫なら…」
彼は何か閃くものがあった。得られる食料を省みなくても、猫が近くにいることで他の動物が引き寄せられることはない。その存在は小さな安全をもたらしてくれるかもしれない。静かに猫を観察しながら、麗司は心の中で数分考え続けた。

「この状況でどうにかならないか?」
と密かに期待を寄せて猫の行動を観察し、どんな危険からも逃れられる方法を探る。近くのスーパーがあってこそ、そこから食料を集められるのだ。
「あの猫が、次のチャンスをくれるかもしれない」
と考え、今後の動きに期待をかけ始めた。

気を引き締め、麗司は再び行動に移すべく準備を整えた。まずは、物品を整理し直しすぐにでもいるサバイバルキットとして装備品を整え、出発準備を進める。
「次に何が待ち受けているか、全ての動きに注意を払う必要がある」
と固く心に誓い、彼は新たな一歩へと向かっていった。