第31話 「生き残るための選択」

麗司は、倉庫を出る直前に急に背後からの気配に気付き、再び冷静な判断を強いられた。倉庫の隅に隠れていた彼は、音も立てずその場に身をひそめる。先程の成功に少し気が緩んでいたが、ここで気を抜くわけにはいかない。彼は心拍数を落ち着けつつ、耳を澄ませて周囲の様子を伺った。

微かに呻く声が聞こえ、麗司の脳裏に不安が駆け巡った。
「このタイミングでゾンビがここに?」
彼の心は警戒心でいっぱいになり、どの道を選ぶべきかの判断が迫られる。思考を整理し、選択肢を考えるが、どれも生死に関わる重い選択だ。

「何とかしなくては」
と低く呟き、彼はゆっくりと体を動かし、倉庫の背後側に隠れることにした。外の光は薄暗さが残るものの、明るくなり始めていた。麗司は一瞬だけ外の様子を伺い、倉庫の出口に近づかないよう心掛けた。

ゾンビの気配を感じながら、彼は何とか無事にこの場を去らなければと心底思った。心残りの物資を手に入れたものの、ここから脱出するまで油断できる状況ではない。周囲には他にも隠れているかもしれない状況に、彼は冷たく汗をかく。

時折、微かに聞こえる足音に耳を傾けつつ、数分が経過した。彼は思い切って出口の扉を少しだけ開け、外へと目を向けた。無造作に倒れた車両や破壊された建物が視界に入る。異常な光景の中、生き残るためには確実な行動が必要だ。

周囲の影が気になりつつも、彼は冷静さを保ちながら一気に外に飛び出す。そして周囲を見回し、自身が進むべき方向を決める。最初の目的地は、近くのスーパーだ。早急に物資を補充し、これからの日々をなんとかしなければならない。

外は静まり返っていたが、彼の心の中では緊張感が絶え間ない。麗司は街の様子を観察し、少しでも安全に行動するために通路を選ぶ。彼はゾンビが潜む可能性のある場所や障害物を避けるため、できるだけ目立たないよう下を向いて進んだ。

その途中で、彼の視界に飛び込んできたのは、破壊されたバスの中にうずくまるゾンビだった。じっと動かずに待ち構えている様子で、麗司は身を硬くした。彼は立ち止まり、呼吸を整えた。隣接する通りへ逃げることも考えたが、いきなりの動きは音を発生させる可能性があった。

「よし、とにかく動かないことだ」
彼は心の中で自分に言い聞かせ、時間が経過するまでその場に留まった。数分後、ゾンビは突然何かの音に気づいたのか、顔をこちらに向ける。麗司の心臓が跳ね上がる。
「まずい、どうにかして逃げないと」

彼はその場から後ろに引き下がり、目立たないようにする。音を立てないように、足音にも細心の注意を払って進む彼の心は、今までにない緊張感で支配されていた。ゾンビが何かに向かって動き出した隙を見て、彼はすかさず一気にその場を離れた。

周囲の様子に目を光らせながら進んでいく中、やがてスーパーマーケットの前にたどり着いた。凶兆が感じられる光景だが、今はこの場所で物資を確保しなければならない。麗司はマスクを口元に装着し、できるだけ静かに扉を開けた。

扉が軽やかに開いても、何も聞こえてこない。状況を確認しながら、彼はカートを取り、すぐに必要な食料や水を集める努力を始めた。棚の上にはまだまだ商品の残りがあったが、ゾンビが潜んでいる可能性があるため、すぐには手に取れない。彼は目の前の食料を確認しながら、どこに隠れているかを警戒した。

「まずは飲料水、次にカップ麺、兵糧丸などは重要だ」
と頭の中で計画を立て、淡々と物資を集める麗司。近くには、数個の消費期限が近い缶詰があった。これを上手く利用すれば、数日間は安定した食料を確保できるかもしれない。

冷静に物資を集めていると、急に聞こえた廃棄物の落ちる音に彼は緊張した。一瞬で心拍数が上昇し、周囲を警戒する。怖れずに彼は静かに振り返り、状況を確認した。棚の奥に何か動く影が見えた。
「やっぱり、こちらに来ている」

彼は冷静になろうと努めるが、胸の鼓動が止まらなかった。聞こえてきた音は間違いなく人間ではなく、おそらくゾンビだ。生き残りをかけてここに来たのだが、この状況で逃げ出すしかなかった。
「そうだ、ここで全てを手に入れる必要はない」

急いでカートに残っていた物を詰め込み、何とかその場を離れようとする。しかし、恐ろしいことに再び目の前の棚が崩れ、音が響く。その振動でゾンビはすぐに反応し、腹立たしげにこっちを向いている。麗司は硬直したが、その瞬間、腹の底から沸き起こる決意が彼を突き動かした。

「逃げろ!」
彼は瞬時に決断し、手にしたカートを転がしながら店を後にした。自分の命を守るために、背後を振り返る余裕もなかった。気づけば、自分の身体は疾走に入り、何とかスーパーの出口にたどり着く。

外へ飛び出した瞬間、冷たい空気が彼の顔を打つ。この自由の感覚が、彼の心を幾分解きほぐしてくれた。だが、外に出たとたん目にしたのは、目の前に立ちはだかるもう一体のゾンビ。彼はどうにかこうにか生き延びるために、身を引いて逃げることにした。

逃げる途中、麗司は周囲の状況に何とか視線を向けながら、逃げるべき通りを探し始める。目指すのは人が少ない側の路地裏だ。進むべき道を選び、目に映る物を必要とすることで生存戦略を作る。徐々に確信を持たせながら、彼は意を決し、周囲の物陰を巧みに利用して身を隠した。

呼吸を整え、心を落ち着けつつ、彼は周囲の状況を把握する。
「発見されたらおしまいだ。冷静を保て、自分を持つことこそ生き残りの道だ」
と自分に言い聞かせ、再度の準備を進めた。

彼は失った時間を取り戻すため、行動しなければならなかった。まずは物資を分別し、新たに獲得したものを確認する必要があった。リュックの中身をちらりと確認し、今の自分に必要なものを意識してリストを作っていく。
「食料、水、そして武器——これらを次の行動に繋げないと」

狭い道の中で身を寄せて物資の内容を確認する。カップ麺や飲料水はすでに重要な地位を持っていた。小さなナイフとハンマーには不安を覚えながらも、少し心が安堵する。それでも、彼の心の中には次なるリスクが潜んでいた。

「この世界で生きるためには何が必要か」
と、彼は日常のサバイバルを考え続ける。工夫と知恵を絞り、限られた中で何とか生活を支え合う方法を考えていく。彼の脳裏には無力感に包まれながらも、自らの力を信じる意志がうずく。

冷酷な現実に挑み続け、生き延びるための工夫が進められる。ここから先の道を考え、彼はしっかりと心を抱き、次の施策に向かって行動し始めた。物資を集め、隠れる場所や避難所を考え続けることが、今の彼にとっての唯一の希望だった。

身の回りから聞こえる音や不安を感じることから、残された空間での息遣いが彼を支えていた。この孤独な瞬間、彼は自らが影のように存在していることを実感し始めた。周囲を見渡し、再び一歩を踏み出す勇気を持つことを心に誓った。

「これが俺の運命だ。進み続けるしか道はない」
と思い、麗司は新たな明日のためにもう一度、希望を持つことを決意した。数え切れないほどの危険が待ち受けている世界の中で、彼の生存は次第に独自の道へと繋がっていくのだった。次に何が待ち受けているか、彼の心にいつか光が見えることを願いながら。

明日の為にすべてを賭け、麗司は前向きに進むことを選んだ。彼を待つ孤独な生活の中で、日々のサバイバルがどう展開されていくのか、そのストーリーは彼自身の手で次第に紡がれていく。次の試練は近づいていたが、それにも耐えて進む意志を強く持つ彼だった。これからどのように生き残るのか、彼の運命には希望が秘められているように思える。