第34話 「過去の影に向き合う少女たち」

ある晴れた日、久遠乃愛と雪村彩音は、地元の図書館の一角でひそかに話し合っていた。最近、乃愛の元に寄せられた依頼は、彼女たちの高校時代の同級生である田中健太からのものだった。彼は最近、脅迫状を受け取ったと言っていた。内容は、彼の社会的な地位を揺るがすようなもので、送り主の名前は明かされていなかった。

「乃愛ちゃん、私たち、あの時の事件のことを少し思い出しながら、これを調べるべきだと思うの」
彩音が明るく言った。彼女の目はわくわくしているようだったが、乃愛は静かに頷くだけだった。

「そうですわね、彩音さん。まずは田中くんから話を聞く必要がありますわ」
彼女の声は冷静でありながら、どこか神秘的な響きを持っていた。

その後、二人は図書館の一室に向かった。長い廊下を進み、午後の日差しが差し込む窓際の席に座っている田中に声をかけた。彼は普段の明るい様子とは打って変わって、どこか疲れた表情をしていた。

「久遠、雪村、来てくれてありがとう。実は…」
田中は声を震わせながら、脅迫状の内容を語り始めた。その内容は、彼の過去の出来事を掘り起こすもので、幸いにも、彼の地位を守るために戦う覚悟があることを示していた。

「それが高校時代の同級生から来たとしたら、どうして彼らが今さらそんなことをするのかしら?」
彩音が呟いた。

「確かに。もし彼らが何かを知っているのなら、目的は何なのでしょう?」
乃愛は冷静に分析しようとしながら、記憶を辿っていった。

その後、乃愛と彩音は田中の話をもとに、彼の高校時代の友人たちに会いに行くことにした。まずは、同級生の中でも明るい性格を持つ小林由美のもとへ行った。彼女は今でも高校の友人らと頻繁に交流を持っているようだった。

由美は、田中が脅迫状を受け取ったことを知っていたが、特に驚く様子はなかった。
「田中って、本当にあんまり交友関係を広げてないから、誰かが恨んでいる可能性もあるわね」
彼女の言葉は乃愛にとって気になるものであった。

「それに、学校の時から田中は周囲の人間を気にせずに生きてきたから、逆恨みされてるかも。それにこの頃、彼は成功を収めてるし。彼の名声が、誰かにとっては脅威なのかも」
由美は続けた。

「脅迫状が来たのは確かにその通りね。犯人が誰か分からないうちに、彼は逆に追い込まれている可能性もあるわね」
乃愛は頭の中で様々な可能性を考えながら、次の行動を練り直した。

その後、彼女たちは次に佐藤健一の家に向かった。彼は昔から田中と親友であり、何か情報が得られるかもしれないと思ったのだ。彼の家は思い出の詰まった住宅街の中にあった。

「久しぶりだな、乃愛、彩音!」
健一は二人の訪問を歓迎してくれる。その笑顔の奥に、何か不安を抱えているようにも見えた。

「実は、田中のことで話があって…」
乃愛が事情を説明する。健一は一瞬驚いたようだったが、すぐに収まったようだった。

「田中は平気だと思っていたが、今さらそんなことを言われたとは…」
彼は少し考え込み、過去のことを振り返るような表情を見せた。
「おそらく、特殊な動機があるはずだ。さっきの話も含めて、考えると、その脅迫の背後には何か気に入らない事を抱えている者がいるのかもしれない」

その時、乃愛の頭の中に一つのアイデアが浮かび上がった。
「もし、脅迫状が高校の時の出来事に関連しているなら、犯人は当時のクラスメートの中にいる可能性が高いですわ」

「でも、具体的に何が起きたの?何か記憶に残っていることはない?」
彩音が尋ねた。

乃愛は、その質問を受けて思索した。高校生活中に何が起こっていたのか。特に、田中に何かあった記憶を呼び起こさねばならなかった。彼女は一つの事件を思い出すまでに時間を要した。

「そうですわ!あの時、私たちのクラスで起きた、いじめ事件ですわ」
乃愛が言った。

「いじめ…?」
彩音の表情が驚きに変わった。

「はい。田中はその時、非常に傷ついていたのです。彼はその出来事から立ち直るのに何年もかかりました。その時、実質的な加害者は藤井という男子生徒でしたが、他にも何人かいたと思います。その中で、彼がこの件に絡んでいる可能性がある」
乃愛は語った。

「でも、彼は今成功しているから、その恨みが復讐に繋がるとも思えない」
「表向きはそう見えますけれど、内心、彼が抱える嫉妬心や復讐心というのは、どうしても消えないかもしれませんわ」
乃愛は冷静に続けた。

次の日、乃愛と彩音は藤井の居場所を探し、彼が働いているカフェを見つけた。そこには、何の前触れもなく彼が働いている姿が見えた。乃愛は彩音と共に店に入り、藤井と直接会うことを決意した。

声をかけると、藤井は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「久遠、雪村、久しぶりだな」
と言いながら、彼は台所の方に向かう準備を始めていた。

「今日は少しお話がしたいのですが」
乃愛は淡々とした口調で続けた。藤井の態度には、少しの緊張感が漂った。

「俺は、今忙しいからまた後にしようよ」
「実は、田中のことについて話したいのですの」
乃愛の声には冷静さが保たれていた。

その瞬間、明らかに藤井の表情が変わった。少し動揺したのか、彼は一瞬目を逸らした。乃愛はその様子を真剣に見つめ続けた。
「田中が脅迫状を受け取ったということを知っていますわ。あなたが関与しているか、何か知っていることを教えてほしいですわ」

その言葉に、藤井の表情は変わった。
「知らないよ、昔の話だろ?もう終わったことなんだ」
と言いながら、無意識に後ずさる。

乃愛はその反応に気を取られることなく、じっと彼の目を見つめ、次の言葉を続けた。
「ですが、脅迫状があなたの何かが関わっている可能性を捨てることはできませんわ。それに、もしあなたが私たちの前に立っている理由が何なのか、すべてを知っているのなら、教えてほしいですわ」

その言葉に、藤井はしばらく考え込んだ後、やっと重い口を開いた。
「分かった、確かに俺はその脅迫状を田中に直接送った奴の名前は知っている。だが、そいつはお前たちには教えられない…」
彼は言い残してカウンターの裏側に戻ってしまった。

乃愛と彩音の目の前には、再び静寂が降り立った。これから何をするべきか、乃愛は心の中で葛藤していた。

しばらくの後、乃愛は静かな声で
「彩音さん、これからどうするつもりですの?」
と尋ねた。

彩音は真剣な眼差しで
「私たち、再度田中に会う必要があるよ。彼が何を考えているのか、どんな事情なのか、もっと話を聞こう」
と提案した。

その日の終わりに、乃愛たちは図書館に戻り、さらに田中と会うことにした。彼にすべての疑問をぶつけ、真実を掴むためのカギを見つけるのだ。彼の表情は若干の不安を抱いていたが、彼は今回の出来事を重要に捉えているようだった。

その後、乃愛と彩音は田中に、今まで知りえたすべての情報をまとめて話すことにした。
「私たち、あなたの脅迫状の送り主が藤井という男子生徒である可能性を考えていますの。彼は過去の出来事から何かを恨んでいるかもしれません」

田中はその言葉に驚愕した。目を見開いた彼は深い心の乱れを示していた。
「藤井がかかわっているとは…でも、何のために?何を求めているのだ?」
彼は困惑しながら訊ねた。

「そのことも含めて、もう少し詳しく調べる必要がありますわ。今こそ、真実を掴むための行動を起こしますの」
乃愛は決意を込めた声で語った。

その後、記憶を辿り、田中や藤井たちの過去に向き合う時間が続いた。しかし、次第に彼らは否が応でもその暗い影に直面することになった。人々は過去の心の傷を抱えながらも、今を生き抜こうとしていた。過去の人間関係や出来事が全員に骸骨をもたらす様子は、乃愛にとってさらに大きな疑問に繋がっていく。

やがて、田中の元に送られるはずの脅迫状が、その解決に向かうきっかけとなる全ての行動へと繋がる。しかし、犯人の正体を探すその道のりには、彼らの心の奥に潜んでいる本当の感情との戦いもまた、続いていた。

乃愛はじっと空を見上げた。過去と現在が交差している。次なる真実を解き明かすために、彼女たちの戦いは、まだ始まったばかりなのだ。