第28話 「生存のための決断」

麗司は地下鉄の出口から外に出ると、思わず目を細めた。陽光があたり、彼の肌に温かさが染み込む。しかし、その感覚も束の間、彼は周囲の状況にすぐに意識を戻した。街はかつての栄華をすっかり失い、無惨な姿で広がっていた。壁には落書きや、剥がれたポスターの残骸が貼り付いている。嘔吐感を誘うような腐った匂いが鼻をつくが、麗司はその臭いに慣れ始めていた。今や、その街には何もかも失われた相手がいることを思い出させられる。

彼の今の頭の中には、自分の生存をかけて何をしなければならないかが常に渦巻いていた。食料は限られているし、飲料水も同様だ。何かを見つけなければ、明日、明後日生き残ることができない。街の探検は予想以上に危険であることを、彼はサバイバルを通じて知っていた。疲労した体を引きずるように、彼は周囲を慎重に観察し始めた。

「この辺で何か食料が見つかるかもしれない」

彼は周囲の建物を眺めながら、考えた。そこには、いくつかの小さなスーパーや店があったが、すでに多くの場所は荒らされていることが容易に推測できた。それでも、何かの幸運が訪れることを期待し、彼は最初に眼に留まった食料品店へ向かうことにした。

店の扉は壊れており、中には散乱した商品や、投げ捨てられたカートが散乱していた。麗司は慎重に出口を確認しつつ、音を立てないように中へ進んだ。さまざまな物が散乱する店内には、多少の食料が残っていることを期待していたが、目に入ってきたのは、むしろ一見して捨てられたものばかりだった。

麗司は各棚を見回しつつ、注意深く物色を開始した。缶詰や乾燥食品のセクションに目を向け、何かありがたいものが残っていないか、手に取って様子を見ては戻していた。どのあたりが自分にとっての食料確保ポイントになるか悩む自分がいたが、同時に心の中には焦りがあった。

「これじゃあ、全然見つからない」

そう思った矢先、麗司の視界に一つのキャビネットが飛び込んできた。上段に取り残された缶詰の一群だった。彼は期待と共に駆け寄り、一つ一つ丁寧に点検した。そこで彼が目にしたのは、トマトソースの缶詰、豆の缶詰、果物の缶詰だった。それは彼にとって、必要な栄養を提供してくれる貴重なアイテムに他ならなかった。

「これなら、しばらくは持つだろう」

丽司は手に取った缶詰を喜びと共に鞄へ入れ、次に目を向けた。冷蔵ごとに取り残された食品がこの時代に何か生き残っているかは明らかでないが、自分に必要なのは確かだ。動くことができる限り、彼は約束された明日のためにサバイバルを進める覚悟を固めていた。

だが、運のつきだと感じざるをえなかったのは、彼がその瞬間、背後からの音を聞いたことだった。物音が近づいてくる。ゾンビだ。その瞬間、体が硬直し、全身の血が一瞬で凍りつく感覚が訪れた。麗司はすぐに近くの店舗の奥へと逃げ込むために移動し、物陰に隠れた。もし少しでも音を立てたら、彼にとって致死的な状況を生むことは容易に想像できたからだ。

心臓の音が耳に響く中、麗司は背筋を伸ばし、息を潜めた。呼吸は乱れ、恐怖感が押し寄せてくる。静寂の中、かすかな動きが近づき、彼の目が暗がりの中にそっと入る。その影は、ゆっくりと動いていた。肉体的な困難だけでなく、心の平穏さえも失わせていることを思い知る。

「冷静になれ、麗司」

彼は自分自身に言い聞かせ、動きを止める。ゾンビがその場を通り過ぎることを期待し、必死になってじっと待った。しかし、その時、突然背後の狭い空間から轟音が起き、麗司は一瞬固まった。ただの物音が、彼を襲った。同時に、目の前のゾンビも反応した。こちらはその雑音に振り返り、彼に向かってよろよろと近づいてくる。

彼は、動くことを躊躇した。どうするべきか、一瞬の静寂が貴重な時間を奪う。その瞬間、彼は視界の端にある備品棚を見つけた。暗い店内、無秩序に散らばる物を利用し、自分の安全を確保するために活用しなければならない。

堪忍袋も溢れた心情の中、麗司は俄然意を決し、足元を整え、影から飛び出した。小さくカートを蹴り、音でゾンビの意識を引きつける。カートは床にぶつかり、その音が周波数の高い音を反響した。それと同時に、彼は別の影に隠れ進んだ。

「よし、これで隙を作れるはずだ」

精神も焦燥感に支配される中、麗司はカートの音が気を引きつける間に、わずかな時間を作り出した。勢いよく動き出し、店の出口へ速やかに見えない場所へ向かう。胸の高鳴りと共に、彼の体は柔らかい感覚のまま、迅速に次の行動を選ぶ道を探り始めた。

外に出ると、彼は太陽の光に大きく目を細めた。普段では考えられない光景が目の前に広がっており、彼を脅かすゾンビたちの姿も影を潜めている。すぐに逃げるための場所や運動能力を発揮し、緊張が少しずつ緩和された瞬間だった。

「次は、どこに行こうか」

彼は再び考えを巡らせながら、町のいろいろな方向を見渡した。食料探しは、闘いの一部であり、しっかりした準備力が求められることを肝に銘じていた。この崩壊した世界では、周囲の人々が消え去り、孤独が彼を包み込む毎日である。一人での生活を生き続けていくためには、力を振り絞るしかなかった。

彼は次の目的地を探し始めた。近くに目をやると、物流倉庫のように見える建物が車両用駐車場の近くにあった。表面的には、外にゾンビの気配がないように思える。彼は正午前後、時折強い日差しがキャビネットの出口を照らすことを利用し、そっと近づいてみた。

倉庫に到着すると、彼は周囲を慎重に観察する。いくつかの扉が存在し、どこか一つは新たな安全空間となる可能性がある。同時に、そのどこかの扉に潜んでいる危険が彼を警戒させた。進む方向を決めるには、確実な判断が必要だった。

「安全な場所があれば、ここで数日の食料を確保することができる」

倉庫の出口には、しっかりとしたロープがかかっていた。彼はちょっとした努力でそれを切り、歩きながら中に入った。急激に涼しい空気が広がり、私たちには心地よい感覚をもたらした。だが同時に、本当に安全なのか不安を抱きながら倉庫内を見渡す。

暗がりの中、いくつかの箱やカートが無秩序に積まれている。彼は一点の光を求め、自分の道具を確認する。ここで十分な物資を持ち帰るなら、数日の生活は支えられるはずだ。その予感に何らかの確信を持っている彼は、探索に向かうことにした。

しかし、道具を探ろうとしたその瞬間、いつも以上に重たい静寂が場の空気を包む。何か不審な音、あるいは振動がその気配をもたらした。それは案の定、ゾンビたちの動きになる。麗司は自分の心拍の音に合わせて、全身の神経を集中した。

だが、その音は近づいていた。すると、彼は暗がりきった隅の一角から動く影を見た。それは決して無視できない存在。彼の心臓が駆け巡り、恐れが全身を支配する。

「隠れなければならない」

彼は迷わず目標を定め、身をひそめた。隠れる場所はあまり広くない。影の中に溶け込み、それが進む方向を確認する。薄暗い空間から誕生した音が彼を刺激する。しかし、何とかその場でも落ち着きを保ちながら、自分の位置を確認し続けた。

音の正体が明確にわかるまでは、無理に逃げることはできなかった。徐々に見えた影は彼の目の前に姿を現した。それは再びゾンビだった。腐臭から判断する限り、その存在は普通の人間とはほど遠い状況にいる。目は白く濁り、もう亡くなったかのように見える。麗司は身を縮めながら、何とかその影が通り過ぎるのを待った。

彼が心の中で一瞬の平穏を抱く頃、再び異常な音が後ろからやってきた。動きが不自然であることを自覚した麗司は、冷静さを失わずに次の行動を考え始め、彼自身の先を見定める。その光の先には生存のための道が存在することを信じていた。

《次なる行動は大胆であり、彼自身にとっての新たな出発点となるはずだ》

次の瞬間、麗司は自分の決断の重要さを再確認し、敢えて暗闇の淵から抜け出すために小さく手を伸ばした。次に彼が直面するのは、周囲の状況に引き戻すことも、あるいは未来永遠に欠ける自由から解放される瞬間かもしれない。彼の心の底から希望が立ち上がるのを感じた。自己を信じながら進むことで、どれだけの困難にも立ち向かうことができると思ったのだった。

麗司は、今ある全てを投げ出すことなく、今後の決断を下す必要があった。それこそが彼が生き残るための選択肢であり、都会の荒廃した世界に住まう人々とは違う彼自身の存在意義であることかもしれない。希望を持ちながら、彼はゆっくり、だが間違いなく自分なりの進路を定めていくのだった。