「ちょっと乃愛ちゃん、見て!あのショップ、すごくかわいい雑貨が売ってるよ!」
雪村彩音が地元のショッピングモールの一角を指差しながら声を弾ませた。彼女の満面の笑顔は、周囲の雑踏の中でもすぐに目を引く。
「彩音さん、そんなこと言ってる場合ではありませんわ」
久遠乃愛は冷静に答える。
「私たちは今、事件の調査のためにここにいるのですから」
彩音の目が少し不満そうに細められた。
「でも、すごく楽しそうじゃん!たまには息抜きしないとダメだよ」
乃愛は肩をすくめ、周囲を見渡した。数日前に、ゼミ旅行に行く予定だった同級生の一人が行方不明になったという知らせが入った。裕福な家庭の出身であり、いつも周りを楽しませる存在だった彼女の失踪は、周囲に衝撃を与えた。彼女のバイト先の店長が何かを隠しているという噂もあり、乃愛はうっすらとその方向に向ける手がかりを感じていた。
「その話、もう少し詳しく教えてくれますか?」
乃愛は過去の事件のデータベースを引き寄せ、思考を巡らせた。
「どのようにして彼女が失踪したのか、具体的には?」
彩音はしばらく考え込み、
「あ、ゼミ旅行の前に彼女が『同じ場所に集まろう』って言ってたのを覚えている?そして、当日になって急に来られなくなったの」
と説明した。
乃愛は眉をひそめた。
「興味深いですわね。彼女が集まりたくない理由はあったのでしょうか?」
「さあ、その辺は詳しくわからないなぁ。その日、他の友達にも特に何も言わなかったみたい。でも、バイト先の店長がいつも彼女に冷たくしてたって話は聞いたことがあるよ」
乃愛はその情報を脳内で整理した。
「冷たい…それが嫉妬心から来るものだとしたら、かなり危険な状況ですわね」
彩音は頷き、
「じゃあ、店長のところに行ってみる?彼女の事を聞くために?」
乃愛は軽く微笑む。
「その前に、まずは彼女の部屋を調べるべきですわ。同じゼミの友人なら、何か手がかりが見つかるかもしれませんから」
彩音はあっさりと答えた。
「了解!じゃあ、すぐに彼女の家に行こう」
二人はすぐに友達の家へ向かうことにした。道中、乃愛は思考を巡らせながらも、彩音と共にささやかな会話を楽しんでいた。彼女の明るさが、乃愛の冷静さを少しだけ和らげてくれた。
たどり着いたのは、彼女の実家。インターホンを押すと、友人の家族が出迎えてくれた。友人はすでに家を空けていることを聞き、乃愛は自らを探偵として名乗り出た。
「ひとつお願いがありますわ。彼女の部屋を少しだけお借りしたいのですが」
と乃愛は丁寧に依頼した。
家族は一瞬困惑の表情を見せたが、乃愛の真剣な表情に納得して了承してくれた。彩音と二人は部屋に入ると、あたりを見回した。
「さて、どこから手をつけようか?」
彩音が部屋の中央で手を広げ、様々なものに目を通す。
乃愛は静かに整理された本棚を見て、
「まずは書類を確認しましょう」
と告げる。彼女は一つずつ丁寧に取り出し、目を通していく。そして、ポケットの中からメモ帳とペンを取り出し、何か気になる点をメモに取り始めた。
「この写真、見てみて」
と彩音が声を上げた。彼女が手にしていたのは一枚の写真で、友人が友達と笑顔で写っているものだった。だが、その背面には何かのメッセージが書いてあった。
「空いている場所に集まる」
といった内容であった。
「この写真、彼女たちが過ごしていたバイト先で撮ったものかしら?とても楽しそうですわね」
乃愛は微笑む。
だが、彩音が気づいた何かに目を瞠った。
「この写真の周辺に、もう一つ写真が隠されていない?」
乃愛は首を傾げ、その近くを探し始めた。すると、タンスの奥に隠された写真が見つかった。それは誰かの足元に身を寄せ合っている姿だった。その背後には、初めて見る顔の店長が微笑んでいる。何かのイベントの記念写真のようだった。
「これ…バイト先の写真ですわね。彼女は気を使っていたのかしら?」
乃愛は考え込んだ。
その時、彩音が声を上げた。
「これ、もしかして店長のことを示唆しているの?」
乃愛はすぐにそれを受け入れる。
「バイトの店長が嫉妬しているとは考えられませんわ。彼女が失踪するきっかけとなっているかもしれません」
彩音は興奮した様子で、部屋の中をひたすら探す。乃愛は写真を手に取り、その写りから何か意味を探ろうとした。その後、何か草むらを覗き込むようにすると、肌寒い風が通り過ぎた。
「駄目だ、彼女は何かの理由で神秘的な存在になってしまっている」
乃愛の思考は深まった。
二人は再度、調査を続けるためにシフトを変えた。彩音は外へ、乃愛は部屋の中をさらに掘り下げた。可能性を追い求める中で、確かな手がかりを見つけるのを楽しむように映った。
やがて、彼女の手元にはまだ続けるべき事が残されている。少しずつ解明されつつあるパズルのピースに引き寄せられ、乃愛は別の可能性についても思考を重ねた。
「いったい何が起こったのか、まだ確かではないわね」
と乃愛は言った。彼女は迷いの中、事件の核心を十分注意して考える。
しばらく後、部屋を出た二人は展望台から見える雑踏の中に目を移した。彩音が
「ねぇ、乃愛ちゃん、この事件を解決できる自信がある?」
と問いかけた。
「もちろんですわ。私たちの頭脳を使いこなし、真実を明かし出す日が楽しみですわね」
と乃愛は自信を持って答えた。
やがて、店長が彼女たちの訪問を受け入れることになった。小さな店の内装は温かく、笑い声が響いていた。店に入ると、店長が足を止めて顧客の応対に焦っていた。
「失踪した彼女についてお話を伺えますか?」
乃愛はすぐに尋ねた。
店長は少し驚いた様子で、
「私は何も関係ない。彼女が辞めた理由はともかく、突如として消えたなんて」
言った。何かが彼女の心を掴んでいるようだった。
「ですが、あなたが彼女に冷たい態度を取ってくれたなら、事態は全く異なります」
と乃愛が冷静に言う。彩音も興味を示し、何かを察した表情を見せていた。
「嫉妬ですか?そんなバカな。本当に忘れかけていた彼女が私に必要だったのだ。私が彼女に暴言を吐いた理由なんて…」
店長は詰まった。しかし、乃愛の目には彼の態度が怪しい光を放っているように映った。
「信じてください。彼女に何かの理由を告げる前に、あなたの嫉妬心が芽生えてしまったのですね」
乃愛は隙間に潜り込むように、さらに追及を開始した。
やがて、店長は言葉を紡ぎ始めた。
「実は、彼女に特別な感情があった。しかし、その感情が嫉妬に変わった時、彼女を傷つけたくなかった…気まずく思ったのだ」
その瞬間、周囲の空気が変わった。乃愛は心なしか、店長の言葉に潜む恐怖を感じた。
「隠した真実がすべて暴かれてしまうことは、あなたにとってどれほどの意味を持つのか、考えたことがある?」
「話がまとまったところで、ぜひ話し合いをしましょう」
と彩音が双方に微笑みかける。彼女に励まされ、乃愛は最後まで真実を追求する気持ちに変わっていった。
だが、淡々と雲が立ち込め、彼女の心には不安な感情が広がっていた。
「何かが起こる予感」
です。しかし、今は全力で調査を続けなければならない。
「自分の心に従うべきよ」
と乃愛は自らに言い聞かせ、決心を固めた。
数日後、二人の手元には彼女の行方について、まさに明確な証拠が揃い始めていた。それらの指摘を元に、彼女たちは果敢に店長の元へ戻った。
「彼女はどこに行ったのですか?」
乃愛は真剣に尋ねた。
その店長は完全に硬直していた。
「私は…私は何も知りません」
彼の声には焦りが滲んでいた。
さらなる問いかけが流れる中、彩音が口を挟む。
「いや、あなたは知っているはずだ!写真だって隠してた!」
その言葉が響いた瞬間、呆然としていた店長の顔が歪む。
「まさか、見つかったのか…?」
乃愛はその反応に一歩踏み込んだ。
「見つけましたわ。あなたの嫉妬心が、彼女を消してしまったのですね」
店長の表情が一変し、絶望的な様子で見つめ返してきた。
「お願いだ…もうやめてくれ」
あなたが本当に知らなかった訳ではない、と乃愛は心の中で叫んだ。そして、真実が明らかになるその瞬間を待ち望んでいた。
それから数日後、彼女は無事に発見され、帰ってきた。友人たちの心も安らぎ、笑い声が戻った瞬間、乃愛と彩音はその事実を讃え合った。
今回の事件は真実がどうあれ、自分たちの協力によって解決できたことに感謝だった。そして、乃愛はこれからも未解決の事件に挑み続ける決意を新たにしたのだった。