黒川梨乃は、いつもと変わらない一日を過ごしていたが、今日は特別な日だった。学校の校庭では、待ちに待った花火大会が開催されるのだ。私の心は、期待で高鳴っていた。もちろん、真っ先に思い浮かべるのは、村上和真くんのことだった。
彼は本当に優しい男の子で、いつも周りの人を大切にしている。でも、彼はその優しさに気づいていないらしい。ふんわりしたミディアムヘアに、優しい笑顔が印象的で、誰からも好かれるのも納得だ。だけど、肝心の彼が私の想いに全く気づいていないのが問題なのだ。
「和真くんが喜ぶようなお弁当を作ってみよう」
と、自分に言い聞かせながら、コミュニティセンターのキッチンであるものを作り始めた。彼の好きなオムライスに、可愛らしい花形の薄焼き卵をのせて、色とりどりの野菜を散りばめた。自分の手が、料理の間も彼のことを思い出させる。
「これで、彼の心をつかめるはずですわ」
と独り言を言いながら、私はそのお弁当を校庭に持参することにした。
校庭に着くと、仲間たちが楽しそうに集まっていた。その中に、和真くんの姿もあった。彼は一人で動物と触れ合うことが好きな性格で、花火大会の雰囲気に少し照れているように見えた。それでも、彼の周りには、笑顔の絶えない雰囲気が漂っていた。
「黒川、こっちこっち!」
と声がかかる。私が持ってきたお弁当を見て、同級生たちが興味深そうに寄ってきた。私は少し恥ずかしくなったが、和真くんのためにも、アピールしないわけにはいかない。
「こちらには、私が特別に作ったオムライスがございますわよ」
すると、彼はそのお弁当に目を輝かせ、
「おいしそうだね!いいな、黒川は料理上手なんだね」
と言った。私の心は、彼の言葉に弾んだ。まさに彼に伝えたかったその瞬間、自分がどれだけ彼のことを想っているかが改めて実感できた。
「和真くんも食べていってくださいませ」
と言いながら、私は和真くんのためにお弁当を用意し、彼の反応を待った。和真くんは、おちょぼ口をとがらせて、少し緊張した様子で一口頬張った。
「美味しい!やっぱり黒川のオムライスは最高だな」
その瞬間、私の心は嬉しさで溢れた。彼の笑顔が見られるなら、どんな手間をかけてもいいと思った。周りの友達の歓声も、私の心を温かくした。
「ねえ、和真くん。今日は花火大会を楽しもうね」
と思わず誘ってしまう。彼はにこりと笑い、
「もちろん、黒川と一緒なら楽しめるよ!」
と言った。その言葉が、さらに私の気持ちを高揚させた。
しばらく続いた和真くんとの時間の中で、私は彼の笑顔を撮るために、写真をたくさん撮影した。彼の自然な表情や、友達と楽しそうにしている姿も、私にとっては貴重な宝物になるだろう。
その後、徐々に日が沈んできて、花火の準備が始まった。心臓が高鳴るとともに、こんな素敵な場面を一人の平凡な女子高生として体験できているという幸運に感謝せずにはいられなかった。
すると、花火がひと際大きな音を立てて空へと真っ赤な色を散らせた。その瞬間、私の心は和真くんのことだけに集中した。彼と一緒にいる時間がいつまでも続けばと思いながら。
「花火、きれいだね」
と、和真くんが私に話しかけてくれた。私は驚くほど心が躍った。
「本当に、そうですわね」
と返事をした。彼の横で、感動を共有できることが何より嬉しかった。
この瞬間が永遠に続けば良いのにと、思う反面、彼の天然な性格に逆にドキドキしてしまう部分もあった。無意識に彼の足元を見やってしまう。
そのとき、周りの友達が
「黒川、和真、もう一緒に見てろ!」
と私たちを指差し、楽しそうな笑い声をあげた。私は照れてしまったが、同時に彼との距離が縮まったように感じた。
「どうしよう、みんなの視線が」
と思いつつも、和真くんはそんな視線にまったく無頓着だった。
その日、今までにないくらいの笑顔を和真くんと共有できた。しかし、私の心の中では心配と嫉妬の火が燻っていた。彼が他の女子生徒と仲良くしている姿を見てしまうと、なんだか胸が苦しくなる。
私は、ふと強い決意を抱いた。今日は彼に思いを伝えるチャンスかもしれない。周りの状況を気にせず、花火が打ち上がる隙に、私の想いを素直に伝えよう。彼が鈍感であるという事実が、私にさらに強い勇気を与えた。
「和真くん、ちょっといいかしら?」
と少し緊張しながら声を掛けた。彼は私の呼びかけに素直に反応して、私の目を見つめ返してくれた。心が震える。
「今日は特別な日だから、私が言いたいことがあるの」
と言いかけると、彼はにこりと笑って耳を傾けてくれた。そのまま、彼に向き合う。不安と期待が入り混じった私の心臓は、ドキドキが止まらない。
「和真くんは、私にとって特別な存在なのですわ」
と言葉にする。彼の大きな瞳が驚いた様子で見返してくる。
「え、何かの冗談?」
彼の天然な反応がまた、ドキドキを引き起こす。
「本気ですわ。和真くんが好きなの」
と言った瞬間、彼の返事が待ちきれない。一瞬、彼の表情が固まって、何かを考えているようだった。そして、優しい口調で
「黒川は、いつも優しいよね」
と言われた。
その瞬間、私の心が一瞬凍りついた。彼は私の気持ちを理解していないのだ。そんな純粋な反応が、逆に私を焦らせる。
「そうですわよ、和真くん」
とぎこちなく返すことで、少しでも繋がりを感じようとした。
周りの花火の音が小さく感じられる。その時、彼が私の手を優しく取り、
「一緒にいてくれて嬉しいよ」
と言った。その瞬間、胸がいっぱいになり、全ての緊張が解けたかのようだった。
私にとっては大きな一歩だけど、彼にとっては
「ありがとう」
の類の言葉だった。彼の天然さが私を困惑させるが、その優しさがたまらなく愛おしく感じてしまった。どうしてこんなにも彼が大切なのか、改めて向き合う。
花火が打ち上がるたびに、私は彼の横で、再び心をつかむチャンスを待つことにする。私の心は、彼の優しさで満たされ、もう一度挑戦しなければと思う。もし、次の機会で解ってもらえるなら、もしかしたら和真くんの心が私に向くかもしれないから。
花火の音をBGMに、私たちの心のすれ違いが続いていった。それでも、和真くんの笑顔が私を勇気づけてくれる。彼の一途な純真さと優しさに目をむくたび、心が虜にされていく。これからの未来を夢見つつ、私は彼との距離を少しずつ縮めていこうと決心したのだった。