麗司は、深く息を吸い込み、決意をもってキッチンの片隅に立った。彼の目は、冷蔵庫の扉にくっつけたマグネットに留まっていた。それは、かつての生活を思い出させる鮮やかな色のメモであり、食品の消費期限や好物のリストがわざわざ書かれていた。しかし、今はそれらの思い出が無情に過去のものであることを彼に教えていた。
「次に何をするべきか」
麗司は、感情を押し殺しながら考え始めた。これからの生活に必要なものは何か、どのようにして生き延びるか。心の中で繰り返される問いは、彼にとって逃れられない現実の厳しさを物語っていた。
まず考えなければならないのは、安定した水源の確保だ。マンションの水道は停止しているが、幸いにも彼の部屋には小さなバケツがあった。これを利用して何らかの方法で水を集めることを考えなければならない。再び外に出るのは怖いが、待っていても状況は変わらない。
静まり返ったマンション内で、麗司はあらゆる物資を一つずつ確認し始めた。食料を保存するためのナイロン袋や、汚れた水を分けるための容器は必須だ。冷蔵庫の中を整理し、手元にある物の状態を把握する。そこにあったものは、ほとんどが傷みかけていた。
「早急に処分しなければ」
彼は、賞味期限が近いインスタント食品を選び出して、優先的に消費することに決めた。食べられるうちに、少しでも栄養を摂取し、体調を維持する必要があった。形は崩れたものも多いが、まだ食べられるものもあった。彼はそれを選別し、食べやすい形に整えていく。
次第にキッチンは、彼の手によって整然とした状態に戻され始めた。ざっと見る限り、インスタントラーメンのパッケージや、乾燥食品、缶詰の数が彼の目に入る。何とかなるだろうと、麗司は心の中で希望を持ち続けていた。だが、それと同時に、今後のことを考えると心が狭くなった。食料を確保するには、それに見合った行動が必要だ。
彼は几帳面に缶詰を手に取り、どれから食べるべきか何度も悩んだ。ラーメンやカレー、スープなど、味のバリエーションが限られている中で、選択は彼にとってさほど楽しいものではなかった。それでも、少しでも食欲をそそるよう、彼はその日の気分で何を食べるかを決めることにした。
そして、すべての食べ物の保存状況が把握できたところで、麗司は少し安心感を覚えた。しかし、その逆に、彼の心に残るのは冷蔵庫に残された食材の運命だった。尚且つ、食料が尽きる日が近づいてきたことも感じていた。冷静に考えれば、新たに食料を探しに行く必要があるのは明白だった。
水がない状況では、もはや食料も持続可能とは言えない。彼は明確に理解していた。
「生存を続けるためには、次の水を探しに行かなければ」
思い立った彼は、改めて蜘蛛の巣のように張り巡らされた思考を辿り、次にどう行動するかを決めるための準備を始めた。まずは、街の中でどこで水源があったのか、と自分の脳内の地図を引き出すことから始めた。商業施設や公園の水飲み場、もしかすると近所の小川や井戸が利用できるかもしれない。
彼の脳裏には、かつて訪れた懐かしい公園の風景が広がっていた。そこには美しい噴水があり、いつしかそれが彼にとっての
「水」
が確保できる場所と見ることになるだろうとは思いもよらなかった。しかし、もうその懐かしい思い出は奪われてしまった今、彼にとっては一つの選択肢でしかなかった。
麗司は準備を進めるための行動計画を立て始めた。手すりのある窓から外の状況を把握することが最優先だった。安全が保証されているわけではない。彼はその窓から、隣にあるビルの廃墟や、街の中を闊歩するゾンビの姿を観察した。彼の心臓は高鳴り、次の行動に対する緊張感が押し寄せてくる。
「無事に返るためには、賢く動かなければ」
自分に言い聞かせ、彼は準備を整えることに集中した。陽が沈む時間が迫る中、彼の行動は刻々と切迫感を帯びていた。持ち運びが容易な水バケツと、まとめられるタッパー、そして運が良ければ良質な水源を見つける道具を用意して、もう一度外の世界に挑む決意を固めていた。
「行かなきゃいけない。結果はどうあれ、何もしなければ全てが終わる」
彼は静かに心の声に耳を傾け、冒頭に立ち上がることを決めた。自分に対する信念を持ち、正しい判断をていかなくては、生き延びるチャンスが失われてしまう。そのためには、持っている知識を最大限に効かせる必要がある。彼は身支度を整え、準備した水バケツを手にしながら、心の中で無言の宣言をした。
「生き延びるために、再び街へ」
と。彼の心には、強い意志が宿っていた。どんな危険が待ち受けていても、今後を考えるなら絶対に行動を起こすしかなかった。
彼にとって、無視できないほど重要な瞬間が訪れていた。恐怖心を克服し、動き出すことが本当に彼の運命を形作るのかを信じていた。窓から外を眺めるその先には、決して帰れない道が広がっている。しかし、逃げる選択はない。生き延びる手段を一つでも増やすため、麗司は身を乗り出し、目の前の扉を押し開けた。
外へ踏み出す瞬間、金属音のような扉の音が響き渡り、彼の心臓は一瞬高鳴る。静寂な周囲の中で、自らの足音が耳障りに感じる。しかし、それでも進まなければならないことを、彼は自分に言い聞かせた。周囲を注意深く確認し、何が起こるかを見定めながら彼は歩き出した。
「生き延びる…それだけを思いながら」
麗司は一歩ずつ慎重に進んでいった。彼の心の中には、不安と緊張が入り混じっていた。水を探しながら、彼は孤独な戦いの中で、今後の選択肢を確保していくことが求められる。どんな危険が待ち受けているのか、彼自身が理解する必要があった。
次の瞬間、麗司は自らを鼓舞するように心の中で叫んだ。失望し、立ち止まることは許されない。彼はこの厳しい世界で、希望を失わずに生き延びるための戦いを挑むのだ。どこかで必ず水源を見つける。それが彼の新たな使命だった。