青志は温室の中で一息つきながら、次の準備を考えていた。午前中の作業が終わった後、コーヒーを飲みながら彼の頭の中には新たなアイデアが膨らんでいた。
「寒さに耐えうる作物をもっと育てる必要がある」
と彼は思った。気温が下がり続ける中で、食料供給のためには出来るだけ多彩な選択肢が不可欠であった。彼は手元のノートに次の計画を書き込むことにした。
まずは、育てるべき作物のリストを作成し、さらにその育て方を考えることにした。青志はメモを取りながら、思いつくままに書き始めた。
「カブ、ニンジン、そして簡単に育てられるマスタードグリーン」
と次々と名前を書き連ねていく。これらの野菜は比較的成長が早く、寒さにも強いため、彼の条件にはぴったりだった。
「では、どのようにして栽培スペースを確保するか」
青志は手を止めて、温室の内部を見回した。すでに土用の容器や古い段ボール、布などが散らばっている。彼の脳裏には、返品された商品やガラクタが散乱するホームセンターの光景が浮かぶ。あの中から彼の求める資材を探して、試行錯誤を重ねる時、まさにDIYの魅力を感じていた。
青志は思案した末に、端材を使って新たな育成棚を設計することにした。
「この間用意した土を有効活用しなくては」
と心に決める。棚を作ることで、限られた空間を最大限に活用でき、成長する植物にも光が当たる。青志は即座に道具を取り出し、作業を始めることにした。
まず、温室内の角を片付ける。棚を作るためには、まず床を広く捨てて、作業スペースを確保する必要があった。古い段ボールや不要な布を取り除き、木の板を集める。彼は一枚一枚、手に取って品定めしながら思った。
「これなら、丈夫な棚になる」
そうして彼は木材を用意し、棚の設計を考えながら配置を決めていく。
その間も、外の冷たい風が温室のガラスを揺り動かす音がした。青志はその冷気に一瞬気を取られたが、
「それでも俺は負けない」
と自分に言い聞かせ、直ぐに作業に戻った。彼がこの環境で生き抜くためには、どんなことにもとらわれてはいられないのだと、心を強く保つ。
次に、青志は木の板をカットする作業に取りかかった。手を動かしながら、彼は過去のDIY経験が今の彼を支えているのを実感した。
「何でも自分で作れる力を持っていることが、だんだんと得難いスキルになっている」
と、手元の道具を扱いながら感じた。寒さにも関わらず、彼の意欲は揺るがなかった。
作業が進む中で、手が冷たさに感覚を失いつつあったが、青志は根気よく続けた。金槌を握り締め、釘を打ち込む音が温室内に響く。
「これができたら、育成スペースがどれほど広がるか」
彼の心はワクワクとしていた。ついには、完成形が目の前に見えてくるように思えた。
「そして、こいつを土台にする」
と言いながら、彼は一番下の棚板を所定の位置に固定した。木の質感が彼の手へと伝わってくる。青志は作業を進めながら、棚を固定するための工具を駆使し、安心できる強度を確保した。それを見て少しずつ形になる感覚が、青志の中で充実感を生み出していた。
その後、彼は棚の上に、既に用意しておいた土用の容器を置いていく。土を入れるための新しい育成スペースが、段々と整っていく様子に、青志は気持ちが高揚した。
「これがあれば、もっと多くの作物を育てられる」
と自分に言い聞かせ、心に期待を抱え続けた。
作業を終え、できあがった育成棚スタンドを見つめ直す。青志はふと、孤独な生活が続く中で感じる温かみのようなものに気づく。
「自分だけで過ごすなかでも、こうして自分の手で作るものがあると、少しずつ慣れてくる」
と彼は心の中で呟いた。
冷たい夜風が外から入ってくる隙間を塞ぎつつ、青志は自分専用の農園を構築していく作業に熱中した。知恵を絞り、そして工夫をしながら、彼の努力が実を結ぶ日をひたすら待ち望む気持ちが強くなっていった。
「これさえあれば、春の訪れが待ち遠しい」
と、一歩一歩前進していく様子を思い描いていた。
急に、
「カリカリ」
と何かがぶつかる音に気付いた彼は、思わず書き途中のノートを手放して振り返った。温室の外に目をやると、雪が一層積もり数回の風で雪が曇りガラスへと吸い寄せられている。
「また風が急に強くなったのか」
と青志は感じた。
だが、心に何かが引っかかる気持ちになった。
「この極寒環境だけではない、何かが間違っているのでは」
と警戒しながら窓の外を見つめ直す。深い闇に雪が降るさなか、突然の音は何だったのかと不安感が頭をもたげた。
「この静寂は足元からの足音がもたらすものだろうか」
と、冷たい空気が彼の背筋をぞくぞくとさせた。
再び作業に戻ろうとした青志ではあったが、心のどこかで警戒感が消えなかった。
「自分が孤独である以上、外界に対しての意識を高めておかないといけない」
という意識が頭を過った。彼は周囲をもう一度観察し、温室の隙間を再度確認することにした。
「少しでも危険な兆候があれば、すぐに対処しなければならない」
と考えた。
そんな気持ちを抱きつつ、青志は作業場所を見渡した。温室の中での時間が過ぎる中で、自分の身の回りを再確認することが生き延びるための大切なポイントであることを、改めて理解することができた。
「これまでの生活があるからこそ、今ここに立っている」
と彼は、自らの選択に対する信念を再確認した。それが自己防衛の一環となり、彼を一層強くした。
外からの雪の音が時折混じった音色は微かな安心感を与えた。彼の薄暗い周囲にも、静まる夜の深い影が広がり、少しずつ焦燥感が消えていくのを感じた。しかしそれでも、青志の心はより強く未来に向かっていた。
「今できることを精一杯やることこそが、生き延びるための道だ」
と自らの生き様を信じて、さらに努力を続ける決意を新たにした。
心に新たな陽の光を感じながら、青志は引き続き自分の作業に集中した。作物の育成棚が立ち上がることによって、彼は次なる段階へ進むための第一歩を踏み出していると実感した。困難な状況とは裏腹に、一歩ずつ確実に未来へ向かって進んで行く意志が彼を待っていた。その思いを胸に、青志は最後まで手を止めることなく、次の目標に向かって作業を続けた。