第21話 「「サークルの不審者と部費消失の謎」」

久遠乃愛は、静かな海辺のカフェテラスで一杯の紅茶を楽しんでいた。青空の下、心地よい風が頬を撫でる。そんな優雅なひとときを満喫していると、幼馴染の雪村彩音が元気よく駆け込んできた。

「乃愛ちゃん、大変!サークルの部費がなくなっちゃったの!」

彩音の焦りは、彼女の愛らしいボブカットを揺らし、乃愛の注意を引いた。彼女は紅茶を一口啜り、冷静に考え始める。この状況は簡単ではない。部費が消えるとは、明らかに誰かの仕業である。

「落ち着いて、彩音さん。まずは具体的にどういうことなのか教えてくださいます?」

乃愛は自分の文学的な思考を駆使して、状況を整理する。彩音は彼女の問いかけに頷き、詳しく説明を始める。

「今朝、サークルの会計担当の友達が事務室に行ったら、管理人から部費が消えているって言われたの。前回の会合があった時にはあったのに、今回はもうないんだって」

「なるほど。では、そのサークルのメンバー全員のアリバイを確認する必要がありますね」
乃愛は言った。部費が消失したという事実は、彼女の探偵としての本能を刺激した。

彩音は素早くスマートフォンを取り出し、サークルメンバーの連絡先を調べ始める。

「乃愛ちゃん、私、友達に連絡して状況を確認してみる!」

乃愛は彼女の行動力を評価しながら、オープンテラスの周囲を観察した。カフェテラスには他の客も多くいたが、その中に特に気になる一人の聴講生がいる。彼は、大学の講義に参加しているはずだが、サークルには関わったことがないようだった。その姿に、何か特別な印象を受けた。

「そうだ、彩音さん。あの聴講生にも聞いてみる価値があるかもしれません。どこにいるのか分かりますか?」

彩音は首をかしげながらスマートフォンを見つめている。
「あの人、さっきまでいたんだけど…今は見当たらないな」

乃愛は思考を止めず、推理を進める。

「部費が消失したタイミングと、聴講生の出入りとは密接な関係があるかもしれません。彼に話を聞いてみるべきですわ」

そう言い、乃愛は席を立ってカフェテラスを見回した。すると、聴講生はカフェの隅の方に座り込んでいた。彼の表情はどこか寂しげで、まるで罪を抱え込んでいるかのようだった。乃愛は、その姿を見つめ、心の中で何かが腑に落ちるのを感じたのだ。

彩音が彼女の後を追いかけながら、口にした。
「乃愛ちゃん、どうするの?」

「まず、彼に話しかけてみますわ。おそらく、何か情報を持っているかもしれませんから」
乃愛はそう言い、聴講生の前に立ち止まった。

「すみません、少しお話ししてもよろしいでしょうか?」

聴講生は驚いたように顔を上げ、乃愛の目を見つめた。
「え、君は…何か用ですか?」

「久遠乃愛と申します。あなたにお聞きしたいことがあります。最近、サークルの部費が紛失した問題についてです。何かご存じありませんか?」

その瞬間、聴講生の表情が固まり、乃愛は彼がいかに緊張しているかを察知した。彼は口を閉ざし、目をそらす。しかし、その様子に違和感を覚えた乃愛は、さらなる質問を続けた。

「あなたはこの辺りに長くいるのですか?もし何か不審なことを目撃したり、誰かが怪しい行動をしていたと感じたことがあれば教えていただけませんか?」

彼は照れくさそうに視線を合わせ、しばらく黙り込んでいた。その様子がますます乃愛の好奇心を掻き立てる。
「実は…僕もそれについて考えていたんです」

「何ですって?」
乃愛は一瞬驚き、思わず声をあげた。その返答を待ちながら、彼の目をじっと見つめた。

「さっき、部費について盛り上がっている人たちを見かけました…彼らはとても楽しそうで、声を大にしていました。でも、声の内容が分からなくて…それで、気になって近づいたんです」
聴講生は言った。

「そして、それ以降、何か気になることがありましたか?」

「いや、その後は特には…ただ、最近あのサークルで謎の人物が出てきたという噂を耳にしました。彼が、何かを企んでいるかもしれないということを」

乃愛はその言葉を聞き、心の中で考えを巡らせた。付き合いの薄い聴講生がこの情報を知っているということは、何らかのつながりがあるのかもしれない。

「ありがとうございます。何か気になる人物がいるなら、調査すべきですわね」

聴講生は軽い表情で頷いたが、すぐに不安に満ちた目を乃愛に向けた。
「気をつけてください。あの人は本当に怪しいですよ」

乃愛と彩音がカフェテラスに戻る途中、彩音が早速声をかけてきた。
「乃愛ちゃん、どうだった?」

「思ったよりも貴重な情報を得ましたわ。聴講生の話によると、最近サークル内に謎の人物がいるとのこと。その人物が部費の行方に関与している可能性があります」

彩音は無邪気に目を輝かせながら尋ねた。
「その人、どんな風に怪しいの?顔とか?」

「そこが重要に思うかもしれませんが、大切なのはその人物の経歴や行動なのですわ。顔だけでは判断できませんから」

「なるほど、乃愛ちゃんらしい考え方だね。じゃあ、サークルのメンバーに聞いてみよう!」

二人は、すぐさまサークルのメンバーに連絡を取り、疑わしい人物について詳細を尋ねることにした。しばらくの間、彼らの連絡を待っていると、かなりの人数から返信があった。その中には、少しでも情報がある者もいるだろう。

「全てのメンバーに連絡を取るつもりですわ。何か手がかりがあれば、ヒントになるかもしれませんから」
乃愛は決意を新たにしながら言った。

彩音は頷きを返し、
「それじゃあ、それぞれの人に取材して情報を集めよう!私も手伝うよ!」
と意気込んで立ち上がった。

数日後、サークルの会議が開催されることになり、乃愛と彩音は出席することにした。会議の場では、サークルメンバーが集まり、部費の行方について意見を交わす。

「部費がないのは本当に困りますね。やはり、どなたかのミスではないでしょうか?」

メンバーの一人が問題提起をした。周囲のメンバーから同様の意見が出る中、乃愛は静かに耳をすませていた。

「みなさま、もし何か心当たりのある方がいれば、ぜひお話しいただきたいのですわ。具体的な事実が必要ですから」
乃愛の冷静な発言が、その場の雰囲気を一変させる。

サークルメンバーたちは互いに視線を交わし、隠れた疑念が表くすぶり始めた。

「確かに、最近新しく来た聴講生がいましたが、彼は一見目立たないですね…ただ、彼の目付きが少し変だった気がします」
一人が思い切って言い出した。

「ええ、私も同感ですわ。彼には何か秘められた目的があるように感じました」

会議が進むにつれて、次々とその聴講生に関する情報が浮かび上がった。彼が学費を工面するために、サークルの部費に手を出している可能性があることが徐々に明らかになった。

「では、その聴講生に会う必要がありますね」
乃愛は自信を持って言った。
「観察力を活かし、彼の真意を探りましょう」

会議の後、彩音はその聴講生の行動を観察する役割を担い、乃愛は彼に直接話しかけることにした。その日、彼女はカフェテラスで再び聴講生を見かけた。

「またお会いしましたわね」
乃愛は彼に近づくと、柔らかい微笑みを見せた。
「お話があれば伺いたいと思って」

聴講生は一瞬驚き、次いで少し緊張した様子で頷いた。
「はい、何かお力になれることがあれば…」

「あなたが関与しているサークルについて、少しお話ししたいのですわ」
乃愛は言った。彼女は軽く身を乗り出し、彼の目をじっと見つめた。

次の瞬間、聴講生の顔色が変わった。
「その…実は…」

彼は言葉を続けることができなかった。乃愛はその反応から、彼がこの事態に無関係ではないことを確信した。彼が心の底から隠そうとしている何かがあるようだ。

「私は、真実を知りたいと思っています。もしあなたに何か秘密があるなら、正直に話してほしいのですわ」
乃愛は柔らかな口調で続けた。

聴講生は重い空気の中、ついに口を開いた。
「大変なことをしてしまった。お金が必要だったんです。だから、サークルの部費を…」

「返してくださいませんか?また、正直に話していただければ、意味のある解決策を考えますわ」

聴講生は涙目になりながら頷いた。
「分かりました。自分の過ちを償います。サークルの皆さんに謝りたいです」

全てが明らかになった際、乃愛の心には一種の解放感があった。そして、彩音が飛び込んできた。

「乃愛ちゃん、やったね!本当に見事な推理だったよ!」
異なる場面での師弟関係が感じられる瞬間だった。

「いえ、彩音さんのおかげですわ。あなたの活躍がなければ、この問題に辿り着くことはできなかったと思います」
乃愛は微笑みを浮かべた。

-短いが確かな絆で結ばれた二人の探偵。サークルへの道を進めることができる喜びを感じつつ、彼女たちは新たな事件を探し続けるのであった。