第1話 「恋する私と彼の距離」

昼休み、私はいつものように窓際の席で和真くんを眺めていた。彼のふんわりしたミディアムヘアが午後の柔らかな光に照らされて、なんとも言えない可愛らしいシルエットを作り出している。彼は同じクラスだというのに、どうしても視線を逸らせず、心がドキドキしてしまう。

「和真くんも、そろそろ昼食の時間かしら」

心の中で呟きながら、私はお弁当を少しだけつまんだ。今日のは、豚のしょうが焼きに特製のタレをかけた、私自慢の手作り弁当だ。彼にも食べさせたい、そう思うけど、まだ彼に直接声をかける勇気はない。だからこちらからアプローチする代わりに、いつも遠くで彼の動きを見守っている。

その瞬間、風が吹いて、教室の外から飛んできたプリントが窓の近くに舞い込んできた。ちらっとそれを見た和真くんが、気づいた様子で立ち上がる。

「お、あれ、拾いに行くね」

彼がゆっくりとプリントに向かって歩き出す。私も思わず立ち上がり、彼の後をついていく。どうしよう、近くにいる時に話しかけるチャンスかもしれない。少し心臓が高鳴る。そんな私の気持ちは、見えるはずもなく。

教室を出て廊下に出た和真くんは、あのプリントを掴み取るために手を伸ばす。と、その瞬間、強風がまた吹いて、プリントは彼の手をすり抜けて、廊下を向かって飛んでいった。

ああ、可笑しいな、風のいたずらね。和真くんはそのシーンに困惑した表情を見せる。私は、思わず笑いをこらえる。なんて和真くんは天然なのだろう。その仕草が可愛くて、どうしても笑ってしまう。

「おっと! ちょっと待って!」

また、和真くんはプリントを追いかけ始める。私も、果たして彼を追いかけていいのか迷いつつも、どうしてもその後をついていきたくなった。

「危ないよ、和真くん!」

私は声をかけたけれど、彼は全く気づいていない様子だ。そんな彼が、いつもみたいにのんびりした笑顔で、プリントをふんわりと手に取る姿を見て、ますます心が温かくなった。

そのまま、廊下を走る和真くんを追いかけていると、とうとうプリントは曲がり角を飛び越え、階段の方に舞い込んでしまった。まるで私たちの恋の行く先を暗示するかのように、プリントはカラフルにひらひらと揺れながら消えていく。

私は心の中で焦りを感じていた。
「ああ、絶対に和真くんをそばに置いておきたいのに、こうやってどこかへ行ってしまうなんて」
と。そうして私は、一刻も早くプリントを拾い上げて、和真くんのところに戻らなければならないと、心で決意した。

「私が行くわ、和真くん!」

友達が様子を見て笑い飛ばすのをよそに、私は階段を駆け下りた。風にあおられながらも、ずっと気にかけていた彼に近づくチャンスだと、心の中で呟く。プリントをゲットして、彼に嬉しそうな顔を見せたい。その気持ちだけが胸に広がっていた。

下の階に着くと、プリントが階段の隅でちょこんと横たわっている。私は間髪入れずにそれを手に取ると、すいっと立ち上がり、また和真くんに向かって急いで向かう。

「やっぱり、これ忘れ物よね! 和真くん、これ! 持っていって!」

すると、和真くんは私の声を聞き、振り返った。彼の優しい笑顔を見た瞬間、心がぽっと温かくなった。

「お、黒川、これを拾ってくれたの?」

プリントを私が差し出すと、彼は困惑したようにそれを受け取る。分厚い本のような重さを感じながら、果たして彼がどれだけ喜んでくれるかなんて考えたくもない。でも、この瞬間、彼のために何かしたことを誇りに感じる。

「ありがと、黒川。いつも助かるね」

お礼を言って笑顔を向けてくれる彼。その言葉に、私の心は一瞬で満たされた。まるで彼が私のことを特別に思ってくれているかのようで、心がおかしくなりそうだった。

「そんな、私はただの偶然ですわ。お役に立てて嬉しいですわ」

どうしよう! 私の言葉が少しでも和真くんの心に響くのだろうか、みんなの視線に耐えながらも、彼の前で優雅に振舞う。少しでも彼と距離を縮めようと思っていたけど、それ以上どうすればいいか、心の中で焦った。

「じゃあ、また後でね。今日は一緒に遊びに行こうか」
と、和真くんが言った。

もちろん、彼は冗談で言っているのだろうけれど、私は急にその提案に心躍る。遊びに行くことなんて、私にとって夢のような話。背中がふわっと軽くなり、心も高揚する。

「はい、もちろんですわ、和真くん! すぐに『遊びますわ』って言うのは、とっても楽しみですわ!」

その言葉は心の底からのものだった。彼が私の言葉をどう受け取ったのか、分からないけれど、彼が誘ってくれたことはとても嬉しかった。

その後、教室に戻ると、クラスメイトたちが私の様子に気づいてざわめく。
「おい、黒川、今日は村上と盛り上がってたのか」
とか
「なんか彼にずっとアプローチしてたじゃん」
と興味津々に聞いてくる。

私はちょっと恥ずかしくなりながら、心の中で
「そうよ、私は彼に夢中なのよ」
と思いつつ、少し照れ隠しをした。だが、彼女たちの言葉に戸惑いながらも、さっきの出来事が頭から離れない。和真くんの優しい笑顔が、瞬間的に心に焼き付いてしまう。

午後の授業が始まっても、私の心の中は和真くんであふれていた。彼のために何か出来ることを考えながら、頭の中には彼の顔がちらつく。彼は私の目の前の一番のターゲットなのだと思い知らされる。

休み時間になると、私は少しだけ勇気を出して彼に近づこうとする。
「ねえ、和真くん、今度一緒に勉強でもしない?」
と声をかけたかったけれど、恥ずかしい気持ちがいつも勝ってしまう。

そんな私を見つめる彼は、また優しい笑顔で返してくれた。
「いいよ、こんなことだったらいつでも一緒に勉強しよう」
と言ってくれる。そんな言葉に、私はおかしくなりそうな気持ちを抑えつつ、ますます彼を好きになる自分を感じた。

しかし、私の心がどれだけ彼を大事に思っているか、彼には知る由もない。どうにかして彼の心をつかみたい、と焦る気持ちが募るばかりだ。その一方で、彼の純粋さが私を癒す。彼がそれに気づくとき、私の心はどれだけ彼に重なるのだろう。

「ねえ、黒川も一緒に来る?」
と、和真くんが仲間を呼んで私を誘ってくれる。私は心の底からその瞬間を楽しみにしていた。
「彼に愛されていると感じられる瞬間」
というのがどれだけ幸せなのかを、知っていた。

お昼休みのひと密かな夢のような時間。私の心には和真くんとのさらなる一歩が待っていることを願い、ずっと彼との距離を縮めるために努力していこうと決意した。

これからも、彼のことを追いかけ続ける。それが叶う日が来るまで、私は精いっぱいの愛を持って隣で彼を守っていくつもりだ。彼が私のことを見落とさないように、自然に寄り添うことで、私のヤンデレな気持ちも、高まっていくのだと信じている。

お弁当のような思いが詰まった私と、ふんわりした和真くんの掛け合い。これからの長い道のりを思い描きつつ、彼との関係がどんな風に進展するのか、すごく楽しみだった。そして心の中で、彼に対する想いはますますあふれ出るのだった。