第16話 「終末のサバイバル」

麗司は意識を取り戻した。出口に飛び出した瞬間、ゾンビたちが待ち受けていた光景がまだ彼の脳裏に焼き付いている。彼の心臓は早鐘のように打ち続け、不安と恐怖が交錯していた。マンションの白い廊下に身を隠し、周囲に注意を払いながら身を潜める。バッグの中の缶詰と飲料水の重みが、彼を現実に引き戻す。

一瞬でも緊張が緩めば、命の危険が迫っている今の状況を忘れさせる。彼は自分が生き延びるために何をしなければならないのか、真剣に考え始めた。どうにかして落ち着きを取り戻し、冷静に次の行動を決める必要がある。周囲の静寂が、彼の心に漠然とした不安を与える。

麗司はまずバッグを肩から外し、柔らかな床に広げて物資の確認を始めた。缶詰は数缶、飲料水のペットボトルは六本、そしてナイフが一つ。限られた資源の中で、どれだけ持続的に生きることができるのか。彼は心の中で冷静に計算を始めた。食料が何日分で、水はどれだけ持つのか。それから、残りの時間をどう使うか。思考を整理することで、彼は少しずつ不安が和らいでいくのを感じた。

また、何よりもまず情報収集が重要だと思い至る。周囲の状況を把握するために、窓から外を再度観察することを決定する。マンションの窓を開け、外の様子を見る。街は死と静寂に包まれている。かつての雑踏が嘘のように、通りは荒れ果て、廃墟の風景が広がっていた。朽ち果てた車、倒れた看板、そして、遠くにちらりと見えるゾンビの姿。彼は何度も息をのむ。これが彼にとっての新しい日常になるのだと強く実感していた。

麗司は、窓から外を覗く際には、音を立てずに注意深く動くことを心掛けた。視覚が欠けているゾンビたちだが、もしも自分の存在に気づかれたら、命が危険にさらされる。一定の距離を保ちながら、周囲の隅々まで確認し、どの方向に進むかを考えた。

「物資の探索、まずは近くのコンビニ」

彼は心の中で呟いて、次の行動を決意した。スーパーでの調達は成功したが、もっと長期的なサバイバルを視野に入れるべきだった。十分な食料や水はまだ確保できたが、次の計画が必要だと感じていた。

音を立てぬように素早く行動を開始し、マンションの遮蔽を利用しながら、近隣のコンビニへと向かう。道に出ると、背後からの気配に敏感に反応しながら、静かに進む。直近の距離に、歩道が見え始めた。彼の脳裏には、今の状況に置かれる危険が過ぎり、足元の小石やガラス片に注意を払いながら、慎重に歩を進めた。

静かな街並みを進む中で、麗司は自分がどれだけ孤独な存在であるかを改めて思い知った。人々の笑い声、すれ違う人々の視線、どれも彼の生活の一部であったが、今はその全てが失われた。思いもよらぬ形で、街は死と静寂に包まれる。その感覚が、彼の心に暗い影を落としている。

しばらく進むと、見慣れたコンビニの店舗が見えた。破れた横断幕と汚れた窓ガラスがその場の異様な静けさを強調している。通りには物の残骸が散乱しているが、麗司はその中に他の生存者がいないことを心から願った。周囲を警戒しつつ、彼は少しずつ店舗に近づく。コンビニの扉は壊れておらず、開ける際には音を立てないように注意が必要だ。

意を決して、麗司は扉の取っ手を引いた。音がしないか、内心どきどきしていたが、意外にも彼の動きは周囲に響かなかった。一歩ステップを踏み込む際にも、静かな呼吸を心掛けながら中に進入する。薄暗い内部に足を踏み入れる。店内は異様な静けさに包まれており、これまた不気味さを増している。

まずは、周囲の警戒を続けつつ、目当ての飲料水や食料を探し始める。棚に目をやると、レトルト食品やカップラーメンのセクションが見えた。目の前に並ぶ数々の商品。その中にはまだ価値のあるものが多いのだと感じつつ、不安な気持ちを打ち消すように素早く手を伸ばした。緊張感の中で、音を立てぬように慎重に取り扱う。

彼は心の中で
「この状況を乗り越えるためには、今手に入るものを無駄にしてはならない」
と繰り返した。それが未だに人々に囲まれた世界から、孤独なサバイバルへと変わろうとしている今、成し遂げなければならないことだと痛切に思う。缶詰やインスタント食品に加え、飲料水を手に入れるために急いで動く。

さらに奥に目を向けると、冷蔵ケースの中にはまだ賞味期限が切れていない飲料水が確認できる。レジの近くにはスナック類もあった。麗司は目的のものを全て抱え込んでいく。彼の心には確かな希望が見え始めていた。

急いで商品を揃えながら、ふと視線を向けると、何かの影が視界に映った。エアコンの音が途切れた後に、どこかで耳を澄ますような不気味な静けさが彼を包む。背筋が寒くなり、直感的に
「ゾンビの気配」
を感じ取った。

「離れなければ…」

彼の心に警告が鳴り響く。音を立てないように、急いで商品を集めた状態で、足早に動きをとれば、すぐにゾンビの視線に触れてしまう。その一瞬の恐れが、彼の行動を鈍らせる。

麗司は物資を持ったまま、冷蔵ケースの前に身を隠し、息を潜める。背後にいるゾンビの声が不気味な音を立てて近づいてくるのが感じられた。彼の神経は張り詰めており、目の前の商品よりも、その影の動きに完全に集中せざるを得なかった。

時が経つにつれて、ゾンビはその音の正体を求め、奥の方へと向かっていった。彼はその瞬間を見計らって身をぐっと押し込め、耳を澄ました。ひやりとした恐怖が彼の背筋を駆け巡る。生き延びるためには、賢明に行動し、冷静さを決して失ってはならない。その教訓が、彼を支えていた。

運良く、ゾンビはあっという間に他の音に気を取られ、店の奥へと消えていった。頭上のラックの影から一瞬覗く、何かの影。その安堵から、急にチカチカした回転灯の残骸が目に入った。彼はパニックに陥ってはならなかった。

数分後、麗司は冷静を保ちながら冷蔵ケースから抜け出し、最寄りの出入り口へ向かう決心をする。手に持つ物資は彼の生存を支える重要な道具であり、逃げる意味合いを持つはずだ。うまくいけば、彼はこの店を乗り越え無事に帰れると信じていた。

外に出る際に、心臓の鼓動が高鳴るような思いをしながら、麗司は行動を決めた。コンビニを出て、マンションへの帰り道を急ぐ。まだ彼の中にあった不安が、強さに変わりつつある感覚を実感する。生き残るためにはどんな困難を乗り越えなければならないのか、彼はその答えを手に入れようとしていた。

不安と恐れの狭間で生き延びるという意志。それが今の彼のすべてだった。燈火が消えかけた街を掻き分けながら、彼は新しい日々に向かって生きていく決意を固めていた。茫漠とした終末世界の中で、彼の孤独なサバイバルは続いていく。そして更なる試練が待ち受けていることを、彼は本能的に感じ取っていた。