第20話 「海辺のカフェテラスでのパスポート探し」

山と海に囲まれた静かな町、そこで久遠乃愛と雪村彩音は、カフェテラスで心地よい風に吹かれながら朝食を楽しんでいた。しかし、何気ない日常は突如として崩れ去った。

「乃愛ちゃん、お願いがあるの!」

彩音が急に声を上げた。彼女の目は大きく、期待と不安が交錯している。乃愛は優雅にカップを置き、彼女を見つめ返す。

「どうしたのですわ、彩音さん?今日は特別な日ではないはずですわ」

「うん、実は…私のお友達が海外旅行に行くんだけど、パスポートを紛失しちゃったの」
と彩音は手を叩きながら言った。
「このままだと大変なことになっちゃう。乃愛ちゃんに助けてもらえないかな?」

乃愛はしばらく考え込み、カフェテラスの周りに広がる青い海を見つめた。旅行前の緊張感や、急なトラブルに対する彼女の洞察力が研ぎ澄まされる瞬間だった。

「なるほど、パスポートをなくしたのですか。具体的にはどのような状況でなくなったのか、詳細を教えてください」

彩音は頷き、興奮した様子で話し始めた。彼女の友人は美しい海辺のレストランで最後にパスポートを確認したが、その後に気付くとどこにも見当たらなかったという。乃愛は慎重に言葉を選びながら思いつくままに質問した。

「そのレストランでは何が起こったのですか?他に誰かがいたのでしょうか?」

「うん、そこで美容師の友人が働いていたの。知ってる?あの人、私の髪をいつも切ってくれるの」
彩音は目を輝かせて続けた。
「彼女には美しい髪型を作る技術があって、みんなから好かれているんだ」

「興味深いですわね…その美容師さんに話を聞いてみる必要があります」
と乃愛は言った。

こうして、乃愛と彩音はパスポートを探しに向かうことになった。二人は自転車に乗り、しばらくしてそのレストランに到着した。テラスには数組の客がリラックスして食事を楽しんでおり、とても賑やかな雰囲気だ。

「このレストランの名前はなんていうの?」
と乃愛が尋ねる。

「確か『リトリート・ブルー』って名前だったはず。店内に入って聞いてみよう」
彩音は、知っていることを嬉しそうに教えた。

レストランの中に入り、忙しそうに働くスタッフを探すと、奥の方に彼女の友人である美容師、亜希が見えた。亜希は先端を青く染めた髪が印象的で、世話好きなのに悪戯が好きな性格だった。一目で彼女の存在感が際立っている。

「亜希さん、ちょっといいですか?」
彩音が名前を呼ぶと、亜希は振り返って驚いた表情になった。

「ああ、彩音!久しぶり!どうしたの?」
亜希は嬉しそうに駆け寄ってきた。

「友達のパスポートがなくなってしまったの。最後にここにいたみたいなので、何か心当たりないかな?」

亜希は眉をひそめ、真剣な表情になる。
「そうなの?ここでお仕事をしていたときはパスポートのことは気にしてなかったけど…確かに何か変なことが起こったかもしれない」

「変なこと?どういうことですか?」
乃愛は亜希の反応に興味を持った。

「実は、ちょっと気になることが…何かの拍子に、お客様の手帳がバラバラになっちゃって、その中にパスポートもあったような気がしたの」
亜希は眉をひそめる。
「あのときに誰かが手帳を見ていたかもしれない」

乃愛と彩音はその言葉に反応した。手帳のページのバラバラに散乱している状況が、パスポートの行方とどのように関連しているのか、彼女たちの好奇心は瞬時に次々と疑問を生み出した。

「見てもいいですか?」
乃愛が問いかける。

亜希は頷き、奥の部屋に案内してくれる。部屋には数人のスタッフがいて、手帳の記録と紛失物を一緒に整理していた。乃愛はその状況を観察しながら、しっかりとした気持ちで赴く。

「あ、これがその手帳のページよ」
亜希は一枚の紙を指さした。
「お客様からのメッセージが書いてあって、ここに何かヒントがあるかも」

乃愛はそのページを見つめ、眉をひそめた。
「メッセージ…」

手帳のページには、お客様の名前や連絡先、そして
「美容師の技術が素晴らしい、次回の予約もお願い」
という内容のメッセージが書かれていた。

「これが他のお客様にも配られていた。手帳を見ていたのは、あのお客様かもしれない」
と乃愛は分析した。
「この中で誰がパスポートを見た可能性があるか考える必要がありますわ」

彩音が頭をかしげ、冴えない表情になる。
「でも、どうやって特定するの?」

「それは一つずつ確認していくしかありませんわ。過去の記録やお客様の顔を思い出しながら、手がかりを順番に追っていくのですわ」
乃愛は確信を抱き、明確な声で述べた。

「それなら、私も一緒にお手伝いする!」
彩音は元気に言った。
「わたし、サポートは得意だから」

二人はレストランの周辺に出て行き、人々の様子を観察し始めた。どこかのテーブルには、亜希が注目していたお客の姿も見えた。その客は身だしなみが整った中年の男性で、静かにビールを飲んでいた。

「彼が怪しいかも…」
と乃愛はつぶやく。
「パスポートが取られたあと、このレストランに残っていた可能性があるから」

彩音は同意し、彼の隣のテーブルに近づいた。
「よろしくです!お話ししてみるね」

乃愛は彼女の行動力を信じ、広い心で彼女を見守る。彩音は人懐っこい笑顔で、男性に話しかけ始めた。
「こんにちは!このお店は素敵ですね、何かおすすめメニューはありますか?」

男性は一瞬驚いた後、少し笑みを浮かべながら
「今月の特別メニューはタコスだよ、ぜひ試してみてくれ」
と返した。

「それぞれの提供がとても魅力的ですね!」
彩音は彼の会話に引き込まれていく。
「実は、最近あるパスポートを探しているところなんですけど…」

「パスポート?」
男性の顔に一瞬驚きの色が見えた。

乃愛はその瞬間にすべてを察したようだった。
「どうやらこの人が幸運に見舞われた可能性が高いですわ」

彼女はすぐに彩音の近くに寄り、直接対話に参加した。
「失礼いたします、少しお伺いしたいことがあります。このレストランで何か変わったことを聞いたことはありませんか?」

男性はしばらく黙って思案にふけった後、ゆっくりと答えた。
「実は、あるお客さんがテーブルの下に何か落ちているのを見つけたことがある。それは…手帳の一部だったかな。そこにパスポートもあったと聞いているが」

「手帳ですって?」
乃愛は興味の色を明確にし、身を乗り出した。
「その手帳はどんな風に落ちていたの?」

「確かに何度か手にしたことがあります。誰かが急に立ち上がって、忘れてしまったみたいだ」
と男性は目を細めて苦笑いした。

乃愛は目を輝かせた。
「そのお客様は誰だったのでしょう?」

「知らない。私たちは訪れた人々の再来を覚えていないから」
と男性が言った。

この時、乃愛は確信を深めた。お客様の顔や記憶がどのようにその時のシーンで影響を及ぼし合ったのか、それが鍵になると感じていた。

「彩音さん、今の話をかけられた時、誰がそのコンタクトを持っていたのか思い出してください。特にお客様の間での交流が重要ですわ」
と乃愛が言った。

彩音は驚いた。
「なるほど、確証を得るためには他のお客様ともお話しする必要があるってことか!」

二人は再びお店のテラスを見渡し、他のお客様に声をかける準備をした。
「私たちが来た理由を伝えて、少し質問してみましょう」

乃愛と彩音は、他のテーブルの人々に積極的に質問を始めた。各自の証言を集めていくうちに、小さな手がかりが次第に集約されていく。

特定のテーブルで、若い女性が興奮した表情で話しかけてきた。
「あの時、誰かが笑いながら叫んでいたのを確かに聞きましたよ。その時、テーブルの下で何やら物音が聞こえていました。わたしたちが見た限り、別の客が引き上げたようですけど」

乃愛は即座にテーブルの配置を思い描いた。
「それなら、一人の客が手帳を持っている理由が明確になりますわ。一部の人には、パスポートがあった可能性が!」

カラーコントラストに輝く海の光景を見ながら、乃愛は真剣な表情で言った。
「見逃せないのは、美容師の亜希が思い出させてくれたこと。彼女が密接に結ばれたコミュニティ内で、相互関係が起きたのには明白な理由がある」

彩音は少し考え込んでいたが、すぐに意を決したように顔を上げた。
「それなら、すぐに美容師に話を聞いてみる必要があるかも!」

美しさを持った海の波は、希望を運び続けるように見えた。乃愛と彩音は亜希のもとへ駆け戻り、手に入れた情報を伝え始め、結論を急がせた。

どこか実際の調査と冷静な分析のリズムを取り戻しつつ、
「私に手伝えることがあれば何でも言って」
と亜希の全貌が示された。

「では、パスポートに関連する全ての情報を持っていると思われるお客様に連絡を取りますわ」
と乃愛は生き生きとした調子で語った。

「みんなが思っているよりも、まだ調査は終わっていないんだから」
彩音も気を引き締めて力強く頷いた。

亜希の家から、近隣の美容院に連絡を取り、調査の結果が繋がっていると感じた。そして事態が進展するのを待つ時間がやってくる。

最終的に、彼女の調査とお客からの証言が全ての真相を解き明かした。犯罪行為が露見し、美容師の亜希がその背後に不安定な思惑があったことも知るに至った。

「承認欲求を満たしたかったの?」
乃愛は静かに呟いた。

真実の背後で、彼女は不安から解き放たれたかもしれない一群の問題を見つめ、彼女の犯行に対する興味が広がっていくのを見ながら、容姿に見合った自分を取り戻していくことに成功した。

「私たちは必ずや救いの手を差し出す」
と彩音は言い、乃愛も全力を尽くした。

この事件は短くも深い旅であり、友人同士の絆も強まった。海辺のカフェテラスに戻り、温かい昼食を供給しながら、今までの出来事も振り返り、正義が果たされつつあることを心密かに見守るのだった。