第12話 「孤独と恐怖の中で生き延びる決意」

麗司は準備に取り掛かることに決めた。次の行動を考えるたびに、心の中で暗い影をぬぐおうと懸命だったが、その影はなかなか消えそうにない。彼は自分の孤独な生活に直面しており、その恐怖が彼の心を締め付ける。しかし、今は生き延びるために動かねばならない。

まず、次に持ち帰る物資の目星をつけ、必要なものをリストアップすることから始めた。スーパーやコンビニで何が手に入るかを考える。思いつく限りのアイテムを挙げていく。水、食料、薬品、そして燃料が最優先だ。忍耐強く考えを巡らせるうちに、麗司は目的が明確になり、彼の決意も強まった。

空き箱やダンボールが彼の周囲に散らばっている様子は、まるで混沌の中にあって生き延びようとする意志すら感じさせた。彼は布を使って生活空間を分けたのに続いて、さらに堅実さを追求するため、書類や古い雑誌を集め始めた。これらもまた燃料として利用できるかもしれない。
「少しでも温まるなら燃料にはなり得るだろう」
と、何事も無駄にはできないと考える。

生活空間を整えることで少しの安心感が生まれてきた。孤独の中でも、彼にとっての快適さは心の拠り所となっている。しかし、安心感からも目を逸らさなければならない。心の底から恐怖がわき起こっているのだから。彼は何かしらの危険が待っていることを常に意識し、慎重に行動する必要があった。

次に、麗司は自分の収集品の状況を見直すことにした。インスタントラーメンや缶詰、生活に必要であろう食料があるが、これをどのように管理するかも考えなければならない。温まることなく腐敗が進んでしまっては、彼の命すら脅かせる。保存方法を工夫するために空き箱を使い、その中に食材を分類して入れていく。整頓していく中で、彼は一つの目標を見つけた。
「これをうまく利用し、無駄を省くことだ」

残り少ない食料をできるだけ長くもたせるため、麗司は色々な工夫を凝らそうとした。彼は自作の冷蔵庫のようなものを作ることも考え、自らの知恵を絞る。使っていないベランダに、段ボールの箱を並べてその中に食材を置くという案が浮かんだ。
「もしかしたら、外の寒さを利用できるかもしれない」
と彼は胸を弾ませる。

だが、その一方で麗司は、自身の存在への不安が薄れないことを認識していた。周囲の騒音やゾンビがいつ襲ってくるかもしれないという恐怖が、彼の神経を逆撫でる。何かの拍子で気を緩めてしまえば、命に関わるといつも背筋を伸ばさせる。
「注意深く行動するのが唯一の道なのだ」
と何度も言い聞かせた。

彼の周囲にある混濁した空間は、生命の源を模索する彼の希望とも同時に危険の象徴でもあった。冷や汗をかきながら物品を整理していく彼は、その中にある絶望をも抱えたまま奮闘し続ける。物品が整然と並んでいくにつれ、心の隙間を埋める力が少しずつ湧き上がってくる。

「次は何をするべきなのか」
と、麗司は自身に問いかける。彼が次に考えなければならなかったのは、外に出て実際に物資を確保することだ。どうすれば危険を避けながら外出できるか、彼は頭を悩ませる。心の奥底からいつ洩れ出してくるか分からない不安感を撲滅するため、計画的な行動を心がけなければならないと決意したのだ。

麗司は身支度を整えた後、まずは持っていくべきアイテムを確認することにした。彼は拳銃を使う勇気がなく、せいぜい小さなナイフを手に取った。これは襲われた際の防衛用であり、あまりにも過剰な武装はいざというときに振るってしまう危険すら孕んでいた。彼は慎重に決断し、足音を立てないようナイフをポケットに入れる。やはり近場にある物資を少しでも取ってこなければ生き延びられないと自分に言い聞かせた。

外出用の服装は、警戒心を高めるために無地の黒い上下にした。視覚に入らないようにするために、必要最小限の装備を手にかけた。冷たい空気が身を包む中、麗司は背筋を伸ばし、周囲を囲む恐怖を再認識する。ここから始まる冒険の緊張感を体全体で感じながら、出発の準備は整った。

そして、彼はマンションの玄関ドアを静かに開けた。深呼吸をする間もなく、彼の心臓は鼓動を高めた。ゾンビが徘徊する街は、彼にとっての未知の世界だったが、彼の生存本能はそれを受け入れなければならない。音のない世界に足を踏み入れるため、彼は足を一歩ずつ進めた。

彼の目に映る荒廃した街並みは、いつも見慣れた景色とは全く異なる。高層ビルが立ち並んでいた場所は、今や静寂と壊滅に包まれており、不気味さすら漂っている。その空気に押し潰されそうになり、彼はハッと我に返った。彼は周囲を警戒しながら移動し、近くのスーパーを目指すことにした。

途中でゾンビの影を見かけないよう祈りながら、足を速めて進む。視覚に依存しないゾンビたちを避けるためには、音を立てないのが基本だ。地面に足を触れさせるだけでも、彼の心臓は大きく波打つ。彼は冷静さを保ちながら、耳を全開にして周囲の音に集中する。

スーパーマーケットに近づくにつれて、麗司は胸が高鳴るのを感じた。目の前には、再び生き延びるための物資があるかもしれない。それも確保できなければ、彼の道は閉ざされてしまう。彼は
「もう少し、もう少しだ」
と自らを鼓舞しながら、忍び足で足を進めた。

スーパーの入り口の横には、割れたガラスや倒れた看板が無残に散らばっており、まるでこの町の惨事を物語っていた。その光景を目の当たりにした瞬間、麗司は死を感じる。何か大きなものが崩れ去ったような存在感が漂っている中、彼は意を決して足を踏み入れた。

スーパーマーケットの内部は、想像以上に静かだった。ゾンビの姿は見当たらず、ただ自分に向かう音だけが響く。ここで油断してはいけない。麗司は無音の世界に、一歩ずつ足を進める。

彼は食料品の棚をゆっくり見渡しながら、胸に浮かんだ疑念を振り払うように心を穏やかに保とうとした。彼の目に映るのは、無造作に散乱する商品の数々。果たしてまだ使えるのが何かあるのだろうか。少なくともインスタントラーメンや缶詰は重要な食料源であり、しっかり確保しておきたいと思った。

棚の前で立ち止まった麗司は、近くに食料品の封がまだ開けられていないものを見つけた。その瞬間、希望の光が差し込んでくる。
「これだ、これを持って帰るのだ」
と彼の頭の中には確固たる思いが生まれる。すぐにそれをカゴに放り込み、そのまま次の棚へ移動した。

さらに次に目を引くのは、清涼飲料水の並ぶ棚だった。彼は移動する際、慎重に音を立てないよう細心の注意を払っていた。深く息を吸って、冷静さを保つことが必要だ。
「水はもうストックがあったが、足りなくなるかもしれない。ここで確保しなければやっていけない」
と決意を固める。

他にも何か収穫できるだろうか。目を凝らして周囲を見渡す。すると、彼の目に留まったのは、奥の方にあった薬品コーナーだった。必要なものがあるかもしれない。怪我でも負ってしまったら生き延びることができない。麗司はその方向へと進んでいった。

だが、その瞬間、彼の耳に不穏な音が響いた。この音は、確実に人間ではない。
「ゾンビだ」
心の中で呟き、麗司の心臓は急速に鼓動を早める。後戻りするのは危険だが、動揺が彼を捉えている。静かに呼吸を整え、近くの棚の影にひそむ。

音は近づいてきた。すぐ目の前には、動かなくなった人間たちとして変わってしまった存在が立っていた。血にまみれた醜い姿が、麗司の目の前に現れる。ゾンビたちは周囲の音に反応し、まっすぐにこちらに向かってくる。麗司は驚いて息を呑み、冷静さを取り戻すため必死だった。
「ここから動いてはいけない。音を立てずに生き延びなければ」
と自分に言い聞かせる。

彼はナイフを引き抜き、息を潜めた。優雅に舞うような動きで、周囲の視線から逃れることを願う。襲われたらそんなものは役に立たず、逃げることが最優先だ。動きという動きが逃げることを許さなかった。ゾンビが近づくにつれて、麗司はその場から動けずにじっとしていた。

“どうしよう”と、彼の脳裏に不安が広がる。万が一こちらに気づかれれば、冷静さを失うことになるかもしれない。動こうとする手が、無駄に息を切らす。その間にも、ゾンビは意識のない激情で近づいてくる。麗司は周囲の状況を考え、その場で身を潜め続けた。

彼はこのままだと限界を迎えてしまうと感じ、体を一歩前に動かす。今すぐここから逃げなければな、
「全力で走れ」
と心の奥からの激しい声が響き渡った。彼は自らの背を振り向け、一気に走り出部屋を目指す。かつての安らぎを手に入れた生活空間から逃げることは、彼にとって一番辛いことであった。

最後に残る一瞬、彼は周囲を一瞥し、数々の選択肢を背負ったまま立ち去ろうとした。その中で、彼が捨てていくのはどんなものだったのだろう。生き延びるために選んだ道から逃げることができればいいが、その先の未来はどうなるのか不安が募る。しかし、彼には希望が無に等しい。彼は逃げ出す準備を整えた。

その瞬間、彼の胸に燃え上がる決意が宿る。
「この世界から逃げるわけにはいかない」
と心に誓う。彼の道は、まだ続いているのだ。生き延びる方法は数多あり、その中で彼は自らの希望を失わないがゆえに、今後も自らの道を進んでいく。しかし、その道筋はとても険しいものであった。彼は彼の孤独の中で自らの生を支える力に変わるのだ。そして、彼の決意が夢を実現することを、彼自らの背中に背負いながら。