第7話 「サバイバルの朝 麗司の決意」

麗司は夜を越え、再び朝日が街に差し込むのを待っていた。薄暗い部屋の中、彼は一口の寝息をたてながらも、不安と緊張を抱えていた。明るい日差しが部屋の隅に触れると、彼は目を覚ます。その瞬間、明日への希望とともに、孤独なサバイバル生活が再び始まるのだと自覚する。

彼はすぐに身支度を整え、リュックを肩にかける。昨晩の作業は無駄ではなかったと、自分を励ましながら、今日は必要な物資をしっかり確保することを決意した。まずは、近くのホームセンターが狙いだ。そこには、今後の生存に不可欠なアイテムが眠っているかもしれない。

リュックの中には、昨日整理した物資が詰め込まれている。懐中電灯、ナイフ、缶切り、そして水運び用の容器や保存食など、計画を立てて準備してきたアイテムたちだ。
「これで何とかなる」
と心の中でつぶやき、彼は改めて心を引き締める。

窓越しに外の様子をうかがう。廃墟と化した街並みと、視界に入るゾンビの姿が彼の心を乱す。静けさの中に隠された恐怖。音に反応する彼らは、いつ自分に襲いかかってくるか分からない。だが、今さら後には引けない。麗司は大きく息を吸い、意を決してドアを開ける。

一歩一歩、静かにマンションの廊下を歩く。気を抜くことはできない。足音を立てずに進むため、革靴の音が響かないように注意を払う。自宅を出て、地下道を通ってホームセンターへ向かう道筋は、彼にとって新たな挑戦であった。普段の生活とは全く異なる、終末世界での危険な旅がそこには待っているのだ。

ビルの出口まで辿り着くと、外の景色が彼に襲いかかる。目の前には、自分の知っている街とは似ても似つかない、死の臭いが漂う場所が広がっていた。車両は横倒しになり、店のショーウィンドウは割れ、荒廃した景色が広がっている。ポツンと立つゾンビの姿が、麗司の心に恐怖を植え付ける。しかし、彼は冷静さを保つ。先に進むためには、目の前の危険を避ける必要がある。

彼は最初の一歩を踏み出す。細心の注意を払った彼の視界には、動く物に反応するゾンビが占めている。少しの音でも響けば、自分に向かって襲ってくるかもしれない。そのため、彼は周囲を見渡し、できるだけ静かに、安全なルートを見極めながら進む。万が一のことを考え、ナイフはすぐ取り出せるようにリュックの外に固定しておいた。

通りを進むたびに、麗司は冷静に状況を把握する。意外にも、街には彼の他にも生きている人間がいるかもしれないという希望を抱きつつ、大きな音が立つことのないことを祈る。しかし、現実は厳しく、視界に入るゾンビたちは、彼の存在に気付くことなく、うろうろと徘徊していた。彼は心拍数が上がるのを感じるが、自らを鼓舞し、
「冷静でいろ、必ず脱出できる」
と自分に言い聞かせる。

しばらく進んでいくと、ふと目の前に大きなホームセンターの建物が見えた。通りには倒れたショッピングカートが散乱している。その様子が、果たして今回の物資確保の成功を暗示しているのか、それとも更なる危険が待ち受けているのか。麗司は一瞬立ち止まるが、進むことを決意する。物資を集めるためには、進むしかないのだ。

彼は建物の入り口に近づくと、周囲の物音に耳を傾ける。中からの声や動きは感じられない。外部からの視覚情報は重要だ。麗司は慎重に出入り口を覗く。明かりの点く場所ではなく、薄暗い中に人の気配は感じられない。
「よし、今がチャンスだ」
と思い、一気に中に足を踏み入れる。

中に入った瞬間、ふいに腐敗の臭いが鼻に飛び込んでくる。何かが腐っているのか、それとも亡霊のような存在がいるのかは分からない。彼は衛生的な危険を考えつつ、できるだけ鼻をつまむ。もちろん、音を立てないように動くことが第一だ。明るい日光がなく、不気味な影が壁に映る中、心の中に恐怖が押し寄せるが、彼はそれを無視して進む。

ホームセンターの中は、商品が乱雑に散らばっており、破壊の跡が残っている。棚の間を横切りながら、彼は目的のアイテムを探り始める。
「まずは懐中電灯だ」
と心の中で確認し、最初にターゲットを定める。その光源があれば、これからの生活にも大きく役立つだろう。何か音を立ててしまったら、その時こそ襲われる危険がある。
「静かに、静かに」
と呟きながら、彼は商品棚を目指して向かう。

懐中電灯のコーナーにたどり着くと、彼は呼吸を整える。心拍数が上がり、気を引き締める。たくさんの製品が乱雑に置かれており、どれが使えるのか判断する余裕がない。しかし、彼は何とか一つの懐中電灯を見つけ、回転させて点灯・消灯のテストを行う。
「大丈夫だ、これで明かりを確保できた」
と確認できた瞬間、少しだけ安心感を持つ。

しかし、その時、背後から音がした。麗司は反射的に振り返ると、ゾンビの影がすぐ近くに迫ってきていた。体が凍りつく瞬間が訪れる。しかし、彼は動ける。それに気づくと同時に、直感的にナイフを取り出し、身構える。彼の心の中では、冷静さが保たれていた。生き残るために何が必要かを理解しているのだ。

ゾンビの目が彼を捉え、その手が伸びようとする。
「どうにかこの場を離れなければ」
と冷静に思考する。彼は反転し、懐中電灯を使って周囲の影を打ち消す。部屋の暗闇に埋もれたゾンビは反射的に音に向かって動き出す。麗司は、逃げるためのルートを心の中に描く。

彼は素早く棚の裏側を通過し、他の通路へと向かう。移動の見通しが立たないままに、逃げ延びるために全神経を集中させる。彼のリュックの中にあった道具をすぐに取り出す必要があるが、今はそれを考える余裕はない。逃げるという一連の行動に全エネルギーを注ぐ。

逃げ続ける中、音を立てることが出来なかったことを感謝する。足音を消しながら、彼は動き続ける。その途中で、物資が放置されたコーナーを見つけ、急いで探索する。しかし、その瞬間にまた別のゾンビが近づいている。

「もう一歩近づかれたら終わりだ」
と危機感を抱く。心の中での緊張感は徐々に高まりながらも、すぐ近くにあった工具ボックスを素早くつかむ。力強く引っ張り出し、周囲に放置されていた金具を何とか手に入れる。その瞬間、運よくゾンビから離れるチャンスができた。

麗司は後ろを振り向かず、商品棚の影に身を隠している。次第に彼は呼吸を整え、周囲が静まるのを待つ。確かに、潰れた缶や壊れた家具から音がしない限り、彼は無事であることに気づく。その時、冷静さを取り戻し、手にした工具を使えば、脱出のチャンスが生まれるかもしれない。

そこにいた間、彼は周囲の物に注意を払う。道具やアイテムが入り乱れた中から、自己防衛に使えそうなものを探し出す。段ボールの隙間から、彼は鋸のような工具と、ナイフの代わりに使用できそうなハサミを見つけ出した。

「これらなら、少しの時間稼ぎにはなるはずだ」
と思い、必死に手に取る。今必要なのは、些細な道具でも活用することで状況を打開することだ。危機的状況を乗り越えた先に、新たな物資と希望が待っている。彼は心の奥底で、潜在的なサバイバル意識が目覚めていることを感じ始めた。

ようやく脱出への目処が立ち始めた時、またも背後に足音が近づいてくる。彼は思わず息を呑み、リュックを背負ったまま、隠れて静かに待つ。音は少しずつ近づいてくるが、その声が彼自身を見つけることはなかった。彼はデッドスペースから一歩後退し、静かに次のチャンスを狙う。

アドレナリンが急上昇し、全身が緊張する。麗司は次の瞬間を待ち続ける中で、何とか最初の脱出ルートを見つけたいと思いつつ、必要な道具を手に入れた。この場所の冷静さを保つために、思考を働かせなければならなかった。

次第に音が近づいてくるが、
「今は動くな」
と自ら自制をかける。移動を続けなくては生存に繋がらないという焦燥感が、彼の内なる考えをせめてはきた。しかし、目の前にある道具とアイテムを手に入れることで、自己防衛ができることを彼は信じる。

再びゾンビが自分の前に迫ってくるのを感じた瞬間、彼は反転し新しい方向へ移動する。手にしたハサミを持ちながら、一気に方面を変え、無理をせず脱出を試みる。動くことを考えなければならない。彼は生き延びる過程を見据えながら、静まり返ったホームセンターの中をさらに前進していく。

「何とかスタートを切った」
と自らを誇り、次なる行動に向けて全エネルギーを注いでいく。サバイバルの中での孤独な闘いは続く。そして、彼の前に広がる新たな道に希望を託す。
「まだ生きることはできる」
と、自らの意識に再度火を灯し、次の行動に挑もうとするのだった。