第8話 「図書館の謎と心理の真実」

図書館の静寂を破るように、一冊の本がそのままにされているカウンターの上で開かれていた。紅色の表紙に
「人間の心理」
と書かれたその本は、古びた角が少し折れていた。久遠乃愛は、黒髪のロングストレートを背景にしながら、そのページをめくっていた。彼女は文学専攻の大学生であり、心理学にも興味がある探偵だった。

「乃愛ちゃん、それ読んでも特に得るものはないよ。心理学は難解なんだから、もっと面白い本を選べば?」
と、彩音が微笑みながら言った。彼女は乃愛の幼馴染で、いつも元気で社交的だ。茶髪のボブカットが彼女の魅力を一層引き立てていた。

「彩音さん、興味を持つこと自体が重要ですわ。観察力を身につけるための第一歩ですわね」
と乃愛が静かに答える。

彼女たちは、普段から推理小説に親しんでいて、趣味で様々な事件を解決していた。しかし、この日、乃愛の耳には新たな事件の話が入ってきていた。評判の大学の図書館で、特に貴重な本が盗まれたという。

相談を受けたのは、図書館の管理者である中川氏だ。
「この本、その名も『失われた心理学』は、再版されていない希少価値のあるものなのです。盗難の日、私が確認したときにはまだカウンターにありました。しかし、小包が届いた翌日には消えてしまったのです。どなたか助けていただければ…」
と懇願した。

その言葉を聞いて乃愛の目が光った。
「小包…ですわね。何か手がかりになるかもしれませんわ」
と彼女は彩音に目を向け、真剣な表情で言った。

「それじゃあ、私たちが調査に行こう」
と彩音が元気よく提案する。二人はすぐに図書館へと向かうことにした。外は晴れていたが、夏の終わりを告げる風が吹いていた。

図書館に到着すると、館内はいつも通り静まり返っていた。乃愛は早速カウンターへと向かい、小包の大きさについて質問した。
「中川氏、この小包はどのように届いたのですか?」

中川氏はしばらく考え、答えた。
「普通の郵便で、送り主は記載されていませんでした。発送元も記録が見当たりませんが、ちょうど盗難の前日でした」

乃愛は小包の存在が、この事件に関連していることを直感した。
「受け取った者の意図を考えなければなりませんね。何か特別な意味があったのでしょうか」
と彼女は思索を深めた。

その時、彩音がひらめいたように言った。
「乃愛ちゃん、お客さんが来てますよ。どうも、おかしな雰囲気の学生さんみたい!」

乃愛が振り返ると、そこにはオープンキャンパスの案内係をしている学生たちが並んでいた。彼らは大学全体の説明を行う役割を担っており、様々な情報を持っていた。

「よし、話を聞いてみましょう」
と乃愛は言い、誘導した。学生たちに近づくと、明るい声で一人の男の子が話し始めた。
「今年のオープンキャンパス、どうですか?楽しいですね!でも、図書館では何か問題が起きたらしくて…悲しいです」

彼の言葉に乃愛の直感が働いた。
「あなた、昨日は図書館にいましたか?」
と問いかけた。男の子は一瞬驚いた表情をしたが、
「ええ、案内の合間に本を見に行きましたね。あの時、あの貴重な本を見ました」
と口を滑らせた。

「それでは、図書館の内部の様子をよく観察していたのですね。もし何か不審なことがあったら教えていただけますか?」
乃愛が冷静に質問する。

男の子は考え込みつつも、
「確かに、案内中に何か物騒な雰囲気を感じました。オープンキャンパスというだけで、涼しげな顔をした人が本に近づいていました」
と言った。

乃愛は耳を傾けながら、彼の話を手がかりにすることを考えた。
「となると、その人物に関して何か情報を持っているか、後で見つけなければなりませんね」
と彩音が補足した。

その後、二人は図書館の内部に再び目を向け、横に並んでいる貴重本のリストを確認した。
「この中に、他に失われた本はないかしら…」
と乃愛が言った。

しかし、手がかりはあまり得られなかった。彩音が
「乃愛ちゃん、もう一回あの小包の位置を見に行こうよ」
とリーダーシップを発揮した。

乃愛も同意した。
「それがいいでしょう。もしかしたら、手がかりが見つかるかもしれませんわ」
と彼女は言った。

ふたりは図書館の奥へと進み、小包の置かれたカウンターにたどり着いた。カウンターの上には、先ほど見た本と小包がまだ置かれていた。乃愛は小包を手に取り、よく見つめた。
「この梱包方法…とても丁寧ですね。特に、内容物を非常に守るようにしていますわ」

「うんうん、なおさら怪しいよね」
と彩音が賛同する。

乃愛が小包の底をチェックし始めたすると、何かが引っかかった。
「これ、ですわね。異物が入り込んでいますわ」
彼女は指で引き抜くと、古びたメモ用紙が現れた。
「このメモ、何か書かれているかしら…」

彩音がそのメモを興味深く見つめる。
「ねえ乃愛ちゃん、どう書いてあるの?」

「『人は見かけを信用してはいけない。真実を見定める目を持て』。おそらく、何かの暗示ですわ。この事件の核心に迫るような意味が込められているかもしれませんわね」
と乃愛が思索した。

言い終わった瞬間、彩音の顔が急に明るくなる。
「乃愛ちゃん、何かヒントを得た気がする!見かけに騙されることってあるし、もしかしたら、あの学生が本を盗む理由も…」

情侣の関係にはいつも一歩先を見越す直感があった。乃愛はフッと笑みを浮かべ、
「彩音さん、明瞭な考えですわ。さあ、もう一度その学生に聞いてみましょう」
と決意を込めた。

「うん、行こう!」
彩音が応じた。二人は急いで図書館の外へと駆け出した。

再び、学生たちが集まるエリアに戻り、先ほどの案内係の男の子を見つけた。乃愛はその子に真剣な声で尋ねた。
「聞きたいことがまだあるのですが…あなたが目撃した不審者について、もう少し詳しく教えていただけませんか?」

男の子は少し悩んでいたが、口を開いた。
「そうですね…その人、目が普通の人とは全然違って、冷たい目をしていました。さらに、何かを企んでいるように見えました」

乃愛の心に、何かが閃いた。
「冷たく、企んでいる目…目撃者の証言が、ここまでノートに集まっているのですわね」

彼らは男の子の話を元に探し続けることにした。片や、工夫している彩音は、別の方向から行動を進めていた。
「ねぇ乃愛ちゃん、彼に質問する時に、『冷たい目』って言葉を使っただけで、ただの目が気になっているだけじゃなくて、その裏にある動機にも迫れたかもしれないって思った!」

乃愛の目が輝く。
「流石ですわ、彩音さん。その目は、もしかしたら…彼の本に対する愛着ですね。こんなことをするためには、何か特別な事情があったのではないかしらと」

一頻り情報収集を続けたあと、男の子に再度唸ってみた。
「その不審者、直接会って話してみたいのですが、できませんか」

男の子はそれから教えてくれた。
「確か彼は、図書館の近くのカフェにいることが多いです。そこでまた近くの人といるのを見かけたことがあります」

「その情報は役立つかもしれませんわ。そのカフェに行きましょう」
と乃愛は素早く答えた。

カフェに向かう途中、彩音が考えを巡らせていた。
「乃愛ちゃん、どう思う?その学生が本を盗んだ理由とは…?」

乃愛は冷静に思索を続けた。
「もしかしたら、依頼を受けてやむを得ず行ったのかもしれませんわ。指示を受けたのだとしたら、その背後にはもっと大きな影響を持つ者がいるかもしれません」

「それじゃあ、私たちがその裏を暴ける要素を探し出すために行動を起こすべきだよね」
と彩音が力強く言った。

カフェにたどり着いた二人は、周囲を観察しながら、該当の学生を見つけようとした。少しの時間が経つと、やがて同じような姿の学生が目に入った。冷たい視線が交錯し、乃愛の心に
「彼が答えを知っている」
、そんな疑念が芽生えた。

乃愛は心を決め、その学生に近づいた。
「あなたには少しお話をお聞きしたいのですが…」

その学生は疑いの目を向け、喉を鳴らした。
「何の話ですか」

乃愛は淡々と、
「図書館で起きた事件についてですわ。あなたに求めています。あなたがどういう立場で関わったのかを教えていただきたいのですわ」

冷たい目の学生は微かに動揺したが、やがて冷静さを取り戻す。
「ああ、私はただの案内係です。知る必要もありません。貴重な本については何も関知していません」
と冷たく言い放つ。

そこで乃愛は観察した。冷静に、冷たい視線を持っている彼こそ、真実を語るキーパーソンであることが理解できた。しかし、この言葉の裏には明確な恐れがあったのだ。学生は本を守る者との関わりに恐怖しているのではないかと。

「真実を明かしていただければ、あなたの恐れを取り除きます。誰があなたに命令したのか、是非教えていただきたいのですわ」
と乃愛の言葉はそのまま突き刺さった。

すると、その学生は沈黙に沈んでいたが、やがて決意するかのように語り始めた。
「私を利用した人物がいます。彼は影で全てを動かしていたのです。学校内に金銭的な利益をもたらすために本を持ち去れという、私はただその通りにしただけなのです」

乃愛の心に緊張が走った。
「その人物は一体…」

「あの学生、ダメです。悪いことになります!」
そこで、栗色の髪を持つ別の学生が強烈に話しかけてきた。
「私が関わった事を全て消さなければ。お願い、どうか…」

「私たちで助けることができるかもしれません。ただし、真実を教えていただかなければなりませんわ」
と乃愛が言った。

その瞬間、あたりが静まり返る。周囲の人間眼が二人に注がれ、誰もが何かを期待しているようだった。乃愛はその瞬間に、巨脈がうごめくのがわかる。自分の中のミステリーを解くカギが、手がかり本当にみんなの真実の中に隠れているのだと。

結局、彼らが辿った道は、仮想されたイリュージョンの迷路とも言えた。学生の真実が明かされた時、多くのものが明瞭になった。大学の教室での暗躍、貴重な本の影には意外な人間関係の捻じれがあったのだと。

全てのビジョンが交錯し、真実が露わとすれば、乃愛と彩音の秘密探偵物語は、新たな展開へと進むべく、満ち足りた時間を迎えた。

こうして、彼らの冒険は続くのだった。探偵としての道は、夢のようなミステリーを語り続けながら、両者の成長を促し、新しい挑戦が待っている。時が流れ、新たな問題に立ち向かう日々が続くのだと、彼女たちは知らず知らず描く夢を背にしていた。