第9話 「生存のための選択肢」

麗司は、缶詰や乾燥食品で満載のリュックを担ぎ、再び静かな通路を歩き始めた。周囲の暗がりが不安を煽るが、その中でも彼は自らを冷静に保つよう努力していた。内心では恐怖が渦巻いているものの、それを表には出さず、思考を生存のための戦略に集中させる。

「今、必要な物資を確保できた。次はどうするか」
と禁欲的な自問が脳裏をよぎる。ゾンビがいつ襲ってくるかわからないこの状況下で、悠長に考えていられるはずがない。彼の感覚はいつも以上に研ぎ澄まされ、周囲の音に神経を集中させた。少しでも異音がする者には敏感である必要があった。

通路を進むにつれ、彼の目はその周囲にある可能性を探る。必要な物資は集まったが、どこに避難するか、さらにはどうやって生き延びるかがこれからの課題であった。思い描いた未来には希望が少しだけ見えていたが、それは現実からの目の逸らしに過ぎなかった。生存のための選択肢を増やすのだ。

不意に、背後から不気味な唸り声が響く。麗司はすぐに立ち止まり、耳を澄ませた。音は確実に近づいてきている。焦る気持ちを抑え込み、麗司は通路の隅に身を隠すことにした。彼の心臓は早鐘のように鳴り響き、冷静な判断が試される瞬間だった。彼の背中にはリュックの重みがあるが、それが彼の生存に役立つ道具であることを思い出す。

静まり返った空間の中で、ゾンビの姿が通路の奥から現れる。ゆっくりとした動きで、彼の近くの物音に寄っていく。麗司は一瞬の猶予も与えられない状況に、呼吸を飲み込んだ。ここで彼がとるべき行動は慎重さとスピードの両立を求められる。
「いかに見えないように振る舞い、見つからないようにすればいいのか」
、その選択肢を瞬時に考えて彼は次の行動に移った。

背後の棚に隠れ、次の移動時期を見極めると、心の中で計算を始める。自分のいる位置や音の発生源を考慮し、状況を操るために必要な行動を描く。
「この隙間を利用して、静かに抜け出すしかない」
。彼は心の中でひたすら言い聞かせる。

ゾンビが通り過ぎるのを待ち、彼は数秒の静寂の後、再び通路を渡る。一瞬のギリギリの選択だったが、無事に通り抜けたと感じると、麗司は心の底から安堵の息を吐き出す。
「生き残るために計画は成り立った」
。そんな思いが、彼の心を少しだけ軽くしていた。

次なる行動は、会社の情報を活かして防御策を講じることだった。唯一の武器といえるハサミを持ちながら、近くの部屋にとりあえず避難する。ここから何を作れるか、彼にとって集めた道具の使い方を改めて考え直す必要があった。
「今のアイテムの組み合わせを見直して、防御策を考えないと」
。冷静に、彼は集中力を高める。

部屋に入ると、周囲はパニックのおかげかおぞましい光景になっていた。だが、彼の目はそれを無視し、利用可能なアイテムを探し始める。壁際の棚やテーブルに目を走らせ、あらゆる選択肢を見極めながら、手に取るものは必ず自身の戦略に役立てるべきものであった。

暗くて薄汚れた室内で、見つけたのは金槌と釘、そして古びた強力なビニールテープだった。手に取った金槌が思いの他に重たく感じる。
「これなら簡易なバリケードも作れそうだ」
。彼は小さく微笑んだ。生存のための必要品が揃う中で、彼の内なる闘志が少しずつ芽生えてくる。

それでも彼は再びその重圧によって背筋が伸びる。
「ゾンビがここにやってくる可能性は高い。すぐに作業を始めないと」
と思考が駆け巡る。そして、今こそ自分が何をしなければならないのか、その視線は先に描いた目標に全てを重ね、その準備をしなければならない。

彼は急いで床にうつ伏せになって、部屋の鍵を調べる。ドアの隙間から入ってくる薄明かりの中で、カギの存在を確認できた。もし怪物が侵入してくる前に対策を施しておかないと、全てが台無しになってしまうと感じた。事を急ぐことができ、次なる展開に向けて計画していく。

その瞬間、彼は心の中で
「どうやって出ていくか、また次の決断が」
と再び思考を巡らせていた。
「今こそ冷静さが求められている」
。彼は経験則を強く信じ、木の壁に立ち向かう気持ちを叩き込もうと努力する。

金槌を手に入れた麗司は、早速行動に移ることにした。まずは入り口付近の棚を使って、目の前のドアの補強を行う。タンスや机を動かす音は不安を掻き立てるが、それよりも生き延びるための道をしっかりと見据える必要があった。手を使うたびに、彼の心の中には
「生きろ」
と叫ぶ意識が宿っている。

作業を進める中で、彼は時折耳を澄ませ、ゾンビの唸り声や動きに警戒した。音が遠ざかることを何度も確認してから、集中して行動を進めていく。自分の努力が実を結んで行く感覚の中、麗司は内なる希望を抱きながら、次なる未来へ一歩ずつ進んでいく。

徐々に出来上がるバリケードの様子を見つめながら、
「これなら当面の防御には十分になるかもしれない」
と思いを巡らせる。彼の生存本能は、未曾有の環境で生き残るために新たな形を見つけ出していた。

時間が経つにつれ、彼は物音に対して非常に敏感になり、耳を澄ませた。
「どんな事態が訪れるか分からない、しかし、生きる戦略は明確にしなければならない」
。強固な意志を持って念じながら、彼は足元に存在する全てを活用する準備を整え、次なる段階を見据えていた。

ゾンビの動きが耳元で聞こえるこの瞬間に、美しさはないことを理解しながら、彼は周囲に注意を払う。望まない存在に直面しつつも、彼のその無事に身を任せ、かつ創造的に動く力を引き出すこと。それが、サバイバルの本質であり、麗司の生への執着を助ける力だった。

「次はどうする?」
思わず呟いた問いが彼の胸の中で回る。最終的にこの廃墟の中での生活の中、彼はこの先も続く厳しい戦いに向き合っていく決意を固めながら、次なる試練へ向けて全力を注いでいく。
「未来はまだ分からない。しかし、これからの選択を無駄にするわけにはいかない。生き延びるために、進まなければならない」
と改めて自分を励まし、麗司は次の一歩を踏み出す準備を整えた。