第7話 「修学旅行の思い出と恋心」

修学旅行。誰もが楽しみにしているイベントで、私たち高校2年生も例外ではなかった。とても素晴らしい場所へ行くことになったのだが、心の中で私を占めているのは、やはり和真くんのことだった。

「黒川、準備できた?」

大部屋にいる友達の声に反応しつつ、私は手元の鏡を見つめた。スカートの裾を整え、髪の毛をさっと撫でる。今日は和真くんと一緒に行動するチャンスだ。私の心はドキドキと高鳴っていた。

もちろん、和真くんはみんなと一緒にいるはずだ。彼のさわやかな笑顔を見たら、きっと私の心はもっと弾むはず。彼はいつも通りの天然っぷりを発揮して、皆を和ませていることだろう。だけど、私は彼を深く愛している。それだけに、彼の天然でお人好しな性格が、時々苛立ちをもたらしたりもするのだが。

旅館を出ると、自由行動の時間が始まる。和真くんと一緒に行動するため、さりげなく彼の近くに寄った。すぐに周りの友達が二手に分かれ、
「黒川、和真くん、どこに行くの?」
と声をかける。

「うーん、適当に散歩するつもりなんだ」

和真くんの返事を聞き、嬉しさでいっぱいになる。これだ、私の夢のような時間が実現するのだ。もちろん、彼と手を繋ぐなんて、考えただけで胸が熱くなる。だけど、逆に気持ちが先走ってしまわないように、冷静に振る舞わなくては。私はお嬢様口調で彼に告げる。

「ですわ、和真くん。私もご一緒させていただけますか?」

「もちろん!黒川がいると、もっと楽しいよ」

その瞬間、私は思わず心臓が高鳴った。和真くんの言葉が私に与えた影響は計り知れないエネルギーを持っている。彼と一緒にいる時間を大切にしよう、その瞬間を逃したくない、そう強く思った。

さあ、楽しい自由行動の始まりだ。地図を片手に、私たちは散策を続ける。和真くんは無邪気なリアクションをしながら、様々な景色に目を輝かせていた。

「見て、黒川!あの像すごく面白い!」

彼は、どういうわけか、像の前で無邪気にポーズをとる。私の心は、この可愛らしい映像に釘付けになった。存在自体が可愛すぎる。彼にとっては何でもない瞬間だけれど、私には最高の瞬間だった。若干恥じらいを覚えながらも、その姿を写真に収めることにした。

彼の真剣なポーズ。シャッターを切る度、心の中に彼への想いが深まっていく。
「もっとそのままでいて、和真くん」
そんな思いを込めつつ、無意識に彼の背後にひそむように立つ私。

少し散歩を続けると、出発地点から少し離れたところに美しい庭が広がっていた。

「ここ、すごく素敵じゃない?」

和真くんの声に、私は頷く。両手を広げて、庭を見渡す姿がまたキュートだ。かしこまった表情ではなく、リラックスした彼の姿がどうも愛おしかった。私は、少し大胆に彼に近づき、手を差し出した。

「和真くん、一緒に写真を撮りませんか?」

彼は不思議そうな顔をした後、照れくさそうに笑う。
「いいね、黒川!」

一緒に並ぶと、私の心臓は再び高鳴る。和真くんが無邪気な笑顔を向けているのは、私だけではないはず。でも、私には特別な時間のようだった。シャッター音を響かせながら、確かにこの瞬間が永遠であってほしいと願った。

ただ流れる時間を感じながら、私たちは次第に庭の奥へ進んでいく。すると不意に、和真くんの足元に目を落とした私は驚きのあまり叫んでしまった。

「わっ、カメさん!」

かすかに動くもの、それは小さなカメだった。無邪気な表情のまま、和真くんは近づいて観察を始める。
「可愛いね、このカメ」

いつの間にか心を奪われてしまっている彼の横顔を見て、私の心はまた高鳴った。それと同時に、彼の無邪気さに嫉妬心が芽生えそうになってしまった。なぜなら、和真くんはこんなに可愛らしい存在がいることに気づいてもいなかったから。

でも、私は微笑んで彼を見守ることにした。彼が楽しんでいるのなら、それが一番だ。彼の無邪気さを守るために、私は何でもするつもりなのだから。

「ねえ、和真くん。もし、このカメのところで迷ってしまったらどうしよう?」

和真くんはその問いに、にこりと笑った。
「そんな時は、黒川が道案内してくれるから大丈夫でしょ」

私は内心ドキッとした。
「何とお優しいお言葉」
これこそ私が教えてあげたかったこと。彼は無意識で自分を守ってくれるのだ。

ところが、和真くんとの幸せな写真撮影の時間も束の間。気が付けば、周りの景色が変わっていた。

「え、あれ?まだ庭にいるはずなのに、どこだろう?」

私たちはいつの間にか、全く見知らぬ場所に迷い込んでいた。恐れを抱きつつ、私は和真くんの腕を掴んだ。
「まさか、迷子になったのかな?」
彼の温かさが伝わり、少し安心したが、それでも不安は拭えなかった。

「大丈夫、黒川がいるし、一緒に行こう!」

彼の言葉を胸に、私は迷わず彼に従った。しかし、どこか心の中で
「なんとか和真くんの気持ちを伝えたい」
なんて、複雑な感情が渦巻いていた。彼にも私の真剣さに気づいてほしい。そう思っていた矢先、彼が足元に視線を落とした。

「今度は本当に別のカメがいたよ?」

私はその言葉に驚き、視線を彼の指の向く先に向けたとしても、心中でごちゃごちゃしていた。私たちの迷子の冒険は、こうして続いていく。彼の横顔を見つつ、少しずつ前へ進む私たち。

「迷ったら、みんなを探そうか」

途中、和真くんは何度も立ち止まり、周りを見渡している。その様子がなんとも愛らしくて、心に焼き付いていく。大丈夫、私がそいる限り、あなたを守るという強い気持ちを持つのだ。

だけど、実際のところ、周囲に友達の姿は見当たらない。私たちの周りに漂う静けさは、決して快適ではなかった。時間が過ぎるにつれて、心の中の焦りが次第に大きくなっていく。

「ねえ、黒川、こんな時はどうしたらいいと思う?」

「え?それは…」
。私は彼を見つめた。その顔には不安がない。どうして彼が、いつもそんなに安心できるのかわからない。私もそんな彼だから、心を冷静に保ちつつ、こう思った。

「きっと、さっきの場所を戻ったら、みんなに会えるはずですわ」

和真くんは頷いた。
「じゃあ、そこに向かってみようか!」

再び二人で歩き始めた。少しずつ不安が和んでいくのがわかる。ふんわりした彼の声、真剣な彼の表情、そんなすべてを愛しく思う。しばらく歩き続けると、今度は自然の光が美しく差し込んできた。

その場所は、なんとも素晴らしい景色が広がっていた。違う方向を向くとさらに新しい景色が見え、私たちは一瞬立ち尽くす。

「わあ、本当に素敵だね!」

和真くんの声に、心臓が高鳴る。こういう瞬間が、私の中にとって最高の思い出になっている。確かにこの場所は特別で、私だけが知っているかのような気持ちになった。

自然の美しさに感激する和真くんの姿。その可愛さに心が締め付けられるような気持ちを抱えながら、無意識に彼に近づく。
「ね、和真くん、この景色、みんなに伝えたいわ!」

そして、心の中の言葉を溜め込んでいたことを思い出した。彼に自分の気持ちを伝えるチャンスが到来した。思わず彼の手を取ると、彼は驚いたように私を見た。

「ここで宣言しようと思うのですわ」

彼が困惑している様子も気にせず、心の中をさらけ出す。これが私のダメ押しの瞬間だ。
「和真くん、私は…あなたのことが大好きですわ!」

その言葉を発した瞬間、彼はしばらく無言だった。困っているのだろうか、それとも驚いているのか。彼の反応がすごく気になり、心臓が跳ね上がった。

「黒川が…僕のことを?」

その声が響いた瞬間、私は再度ドキッとした。やっと、私の言葉が彼の心に届いたことを実感する。彼は無邪気そうに微笑んでいた。
「ありがとう、黒川。こんな風に思ってくれて、とても嬉しいよ!」

その瞬間、誤解は解けた。和真くんも私に対して少しは意識してくれているのだろう。ずっと心の奥で求めていた瞬間。愛情を抱きしめながら、心が満たされる。

「あなたと一緒にいる時間が、とても大切だと感じていますわ」

それが私のさらなる気持ちだ。すると、和真くんは少し照れくさそうに笑いながら言った。
「僕もだよ。黒川が一緒にいてくれると、楽しいし安心する」

その言葉が、私の心に新たな光を灯した。その瞬間、私たちの迷子の冒険が、私にとって最高の思い出に変わった。

これからも一緒に、手を取り合っていこう。どんな場面も大切にして、彼との関係を深めていけたらいいな。

新たな思い出が、私たちの心を紡いでいく。これまで以上に、彼を守りたいという気持ちが大きくなっていくのを感じながら、心を込めて和真くんの手を握りしめることにした。