第66話 「幽霊部員の謎と友情の探求」

久遠乃愛は、疲れた体を軽く伸ばしながら、キャンパス内のベンチに腰を下ろした。若葉が萌え始め、温かな日差しが彼女の黒髪を優しく照らす。乃愛の隣には、幼馴染の雪村彩音が笑顔を浮かべていた。彼女の茶髪は柔らかい風になびいている。その表情はいつもと変わらず明るく、乃愛にとって少し癒しに似た存在だった。

「乃愛ちゃん、また新しい推理小説読んでるの?」

彩音が目を輝かせながら、乃愛の手元に焦点をあてる。乃愛は小説の代わりに、メモ帳に何やら書き込んでいた。美しい文字で整然と並び、彼女の知識と洞察力を示している。

「いえ、最近依頼があったので、その調査のメモですわ」

乃愛は小さく微笑む。彼女にとって、人から頼まれた依頼を解決することは一種の楽しみであり、同時に自分の能力を試す場でもあった。

「その依頼って、留学生の友達のこと?」

彩音が興味を示す。乃愛は頷く。数日前、留学生の友人から連絡があり、彼が不審なトラブルに巻き込まれているということだった。詳細を聞いたわけではないが、何かが彼を悩ませていることは明白だった。

「はい、彼の話を聞く限り、何か不穏な出来事がバックにあるみたいですわ」

「どうするの、乃愛ちゃん?」

彩音は目を輝かせ、行動的な自分と、頭脳派の乃愛のコンビに自然な期待感を抱いている。乃愛は少し考え、そして口を開いた。

「まずは彼に会って、事の詳細を聞きますわ。その後、現場に向かってみるつもりです」

「それなら、わたしも一緒に行くね! 何か手伝うことがあったら言ってね!」

彩音は力強い意志を示す。乃愛は嬉しそうに微笑みながら、彼女の行動力に感謝の気持ちを抱く。こうして二人は、留学生の友人が待つキャンパス内の池のほとりへ向かうことになった。

池のほとりに降り立った二人は、周囲の景色に目を奪われた。新緑の木々が生い茂り、池の水面は光を受けてきらきらと輝いている。乃愛の目はその美しさに感銘を受けつつも、心の奥で何かが引っかかっていた。

「この池、何か特別な思い出でもあるのかな?」

彩音が尋ねる。その声に乃愛ははっと我に返る。彼女は周囲を見渡しながら、留学生の友人の姿を探した。

「いえ、特に…なんでもありませんわ。大切なのは、彼の話を聞くことですわ」

「彼って、具体的にどんなトラブルに巻き込まれているの?」
彩音が続ける。

乃愛はその質問に答えるべく、頭をフル回転させた。留学生の友人の名前はユウタ。そして彼は、サークル活動の一環で積極的にキャンパス内に関わっている学生だった。優秀な成績を上げ、友人も多いが、最近は彼の生活に何か影が差し込んでいた。

「ユウタさんは、最近サークル内で何か気まずい問題が起こったと言っていましたわ。ただ詳細が不明なので、まずは彼とお話しする必要がありますわ」

その時、池のほとりに沈んだ影が一瞬、目に入った。乃愛はその瞬間を見逃さなかった。

「彩音さん、あちらにいるのがユウタさんですわ」

二人の視線が、池のそばに佇む青年の方に向かう。彼は少し無表情で、何かを考えている様子だった。ノートパソコンを持っているが、無造作にその上に手を置いている。一見、何か辛そうな気配を漂わせている。

「ユウタさん、こんにちは!」
彩音が声を掛ける。

その声に呼びかけられたユウタは、顔を上げて二人に気づいた。彼は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んで接した。

「やあ、久遠さん、雪村さん。元気そうだね」

「ええ、おかげさまで。最近のことでお悩みだと聞きましたが?」

乃愛が、真剣な眼差しで問いかける。ユウタは一瞬神妙な顔をした。そして、彼はしばし沈黙した後、ため息をつく。

「実は…最近、サークルの仲間たちの間で不審な出来事が続いているんだ」

彼はノートパソコンを開き、一枚のメモを見せた。それは紙切れに1行の文字が書かれており、全てが何かの意味を解読できるかのように不明瞭だった。

「このメモを見てしまったんだ、何か悪戯だと思うんだけど…」

メモの内容には、サークル内での秘密の会話や、メンバーに対しての不安が表現されていた。その中には、特に一人のメンバーに向けたメッセージが含まれていた。

「彼の名前も書かれてるね…これ、どういうこと?」

彩音が不安そうに言う。乃愛はそのメモを細心の注意を払いながら眺めつつ、何かの閃きを得ようと考えを巡らせた。

「このサークルには、最近まで誰も知らなかった幽霊部員がいたって噂があるんですわ。サークルの中に潜む影のような存在ですわね」

「幽霊部員…?」

「おそらく、このメモはその幽霊部員からの警告なのかもしれませんわ。誰かが悪意を持って行動している可能性が高いですわ」

乃愛は表情を引き締め、決意を新たにする。彼女はユウタに向き直り、彼がどんな情報を知っているかを尋ねた。ユウタは再び口を開こうとしたが、突然彼の表情が険しくなった。

「実は、サークルの一部のメンバーに疑いがかかっているんだ。特に、影のような存在って言われているあの部員に…」

その言葉に乃愛の瞳がキラリと光った。警告のメモ、そして幽霊部員についての話。これらの情報が重なり、何か大きな真実を呼び起こすきっかけになるかもしれない。

「その幽霊部員の名前、知っていますの?」

「いや、それは分からない。でも、最近妙な行動をしている人を見かけた気がして…」

ユウタが言いかけたその瞬間、周囲の風が急に強くなり、池の水面が波立った。その音が彼の言葉を遮るように響いた。

「それでも、何か考えがあれば後で聞かせてほしい。私たちで解決できるかもしれないから」

乃愛は優しく微笑みかけた。すると、彩音が元気よく手を挙げた。

「一緒に行動しよう! その幽霊部員を探して、真相をつかもう!」

もちろん、彼女の言葉には強い意志が宿っていた。乃愛は寒さを感じるように、何が待ち受けているのかドキドキしていた。しかし、同時に彼女の心には確信が芽生えていた。

しっかりした行動力を持つ彩音がいれば、必ず道は開かれるだろう。乃愛は安心感を覚えつつ、ユウタに隠された真実へと足を進めようとした。

「さて、まずは手がかりを集めて、疑わしいメンバーにアプローチしてみましょうか。私と彩音さんで突き止めますわ」

ユウタは少し驚いた顔をした。

「そんなに簡単に捜査ができるのか?」

「それが、私たちの特技ですの。疑問点を探りながら、解決へと導くことができますわ」

乃愛は微笑み、二人の行動を始めた。初めは池を中心に歩くが、その表情の裏に潜む陰を掴むためには、サークルメンバーへアプローチをし続ける必要がある。そう決意した彼女は、キャンパス内に新たな道筋を築くことにした。

「まずはサークルの活動のスケジュールを確認して、他のメンバーと接触しよう。彼らに何か感じることがあるかもしれないわ」

彩音も一緒になって、ノートを取り出してメモを始めた。二人の作戦は、他のメンバーに直接接触し、ユウタの言う幽霊部員を探し当てることだった。

ある晩、スケジュールを把握するためにサークルの部屋を訪れた時、乃愛と彩音は中に入り口のドアを静かに開けた。部屋の中は明るく照らされ、お互いの存在が当たり前のようだった。

「皆さん、今晩の活動は?」

乃愛の声に周囲が静まり返る。一瞬の静けさの後、サークルのメンバーたちが乃愛たちに目を向けた。

「どうしたの? 何か用?」

一人のメンバーが口を開く。乃愛はその目を見つめながら、真剣な表情で応じる。

「実は、最近サークル内で不審な出来事が続いていると聞きました。それについてお話を聞いてもよろしいですか?」

彼らは困惑の表情を浮かべた。しかし、その中の一人が少し考えた後、話し出した。

「確かに最近、何か奇妙なことが多いな…メモや謎のメッセージが回り始めているし」

その言葉に乃愛は耳を澄ます。

「何か思い当たることがありますの?」

メンバーは顔を真剣にして、互いに目を見合わせた。そこで、一人のメンバーが思い切って言葉を続けた。

「実は、数日前の夜、誰かが幽霊部員を名乗る人と会っているのを見かけたんだ」

その言葉に乃愛と彩音は驚き、期待した。

「どのような方で、どんな会話をしていましたの?」

膜のように張り詰めた雰囲気は次第に興味に変わり、それは彼女たちの探偵としての心を刺激している。

「見た目はフードを被っていて、顔は分からなかった。ただ、何か危険な雰囲気を感じたのは間違いない」

乃愛はその言葉を心に刻みつけ、冷静に考え続けた。いったい、その幽霊部員は何を狙い、サークルにどんな影響を及ぼすのか。彼女の頭の中は、これからの展開に対する期待感でいっぱいになった。

「その方は、どこで見かけたのか記憶がありますか?」

サークルメンバーの反応が興味を引く。彼らは少しずつ話を続け、次第に情報を交わし始めました。その中で彼女たちの中にあった探し求める気持ちを彼らも感じとっていた。

「もしも、池のほとりで会ったって言っていたら、私たちもあの場所で何か起きていないか、確かめてみようかという気分にさせられるかもね」

乃愛はその言葉に強く頷く。その日の夜、彼女と彩音はサークルメンバーと共に池のほとりへと足を運ぶことを決めた。すでに夜が訪れ始め、心のどこかで期待感が高まる。池の水面の波が、何か引き寄せるように波紋を広げている。

「気を引き締めて行きますわよ」

乃愛は心の中で自らを奮い立たせ、メンバーたちと共に進む。彼女にとって、真実を追い求めることは宿命のようだった。そして、この事件の進展が待っている。

池のほとりに着くと、周囲は不気味な静けさに包まれていた。夜の闇が水面を覆い、その影に包まれるように。

「この場所で本当に何かが起こるのかしら? やっぱり幽霊部員って、何かしらいるのかもしれないね」

彩音が周囲を見渡しながら言った。乃愛はその言葉をじっと耳に留め、メモの内容や意味を再確認する。周囲を観察していると、ふと不自然な音が聞こえた。

「この音は…?」

何かが水面をたたく音だった。彼女たちが驚いて振り返ると、池の向こう岸に人影が見えた。フードを被ったその影は、まるで夜の闇に溶け込みながら近づいてくるかのようだった。

「き、きっとあの人が幽霊部員よ…」

彩音の声は震えながらも、興味と恐怖が交錯していた。乃愛はその影を見つめ、内心ドキドキしながらも冷静さを保った。

これは、一つのクライマックスの始まりだった。

「皆、気を引き締めて。あれが本当の幽霊部員かもしれませんわ」

乃愛は静かに取り計りする。幽霊部員の姿は次第に明瞭になり、恐怖も拭えないが、内心の探求心はさらに果てしない高まりを持ち続けている。

影が近づくにつれ、その存在が何かを抱えていることに気づいた。そして、その瞬間、彼女たちの視界の中心に、彼が現れた。

「あなたたち、何をしているの?」

冷淡な声が彼の口から発せられた。その瞬間、乃愛は思わず心臓が高鳴った。幽霊部員がその問いかけをしている。その姿は大変に不穏で、危険な香りさえ漂わせていた。

「あなたが、幽霊部員なの?」

乃愛が一歩前に出て訊ねる。幽霊部員は微笑みを浮かべていたが、その表情には余裕がなかった。さらに言葉を続ける。

「君たちには何も関係のないことだろう。この事は、私たちの問題だ。口を挟まないでくれ」

その言葉に驚き、乃愛と彩音は何が起こっているのか分からなかった。

「それなら、私たちにも知る権利がありますわ。あなたの目的を教えてください!」

乃愛は目を細めて反論する。すると、幽霊部員は少し考えた後、目を逸らして言い放った。

「では、教えましょう。このサークルのメンバーの中には、私の過去や失敗を知っている者がいる。だから、その意志を消すために、必要な手段を取ったのです」

その言葉に乃愛は胸を締め付けるような痛みを感じた。もしかして、ユウタの友人のことを指しているのだろうか。

「だったら、無関係な者を巻き込む理由にはならないわ!」

その声に彩音も乗っかり、果敢な心で反論する。

「我々はあなたたちを助けたいと思っているのよ!」

その時、幽霊部員の表情が柔らかくなった。何か一瞬の混乱が見え隠れし、彼の心の内側に新しい揺れが息づいていることを感じた。

「善意だと?」

幽霊部員の口から漏れる抑揚のある声。乃愛は思わず胸がドキドキしていた。そして、彼の言葉の裏にある本質に触れることを決意した。

「その善意が善良かどうかは、自分だけでは決められないものよ。それなら、あなたの行動も請け負わなければならないでしょう」

乃愛はその一言を口にし、周囲の空気がぐっと変わるのを実感した。幽霊部員の内面に漂う葛藤が、一瞬だけ露わになった。それを察知した彩音が彼に続ける。

「あなたも人間のはず。そこに心があるのなら、話し合いましょう。私たちも何かできるかもしれないし、一番重要なのは、解決策を見つけることだと思います」

その言葉に幽霊部員の顔に驚きの表情が浮かび、彼の反応に大きな変化があった。

「あなたたちに、そんな思いやりがあったとは…でも、私にはその余地はない。何かを変えるためには、何かを失わなければならないのだから」

その言葉からは、確かに幽霊部員の内心に迷いがあるように聴こえた。その瞬間、乃愛の心が揺らぎ、彼を理解するように感じた。

「失うことばかりじゃありませんわ。人との繋がりを持つことで、あなた自身も変わることができるのですもの」

乃愛の言葉は真実味を持ち、彼女自身も考え抜いた結果として形になっていた。幽霊部員は無言で二人の言葉を聞き、その態度に変わる気配が見え始めていた。

「本当に…私はこの道を選ぶことで、何も守れないのか?」

彼の言葉は、自らの道を選んだ結果を悔いているかのようだった。

「一緒に考えましょう。サークルのメンバーたちと、あなた自身のために。善意は/時には人を救う力になりますから」

乃愛は強い口調ではなく、あえて柔らかな言葉で彼に伝えた。彼女の心が通じれば、幽霊部員もまた新しい選択肢を見出すかもしれない。

少しの間、静寂の中で揺れる心の声が響いた。

「あなたたちは…本当に私を理解しようとしているのか?」

幽霊部員が力無い声で問いかけた。その言葉に乃愛は心から答えた。

「はい、あなたの過去も、そして未来も、共に見守りますわ。ここまで来たのですから、二人とも共に手を取り合うことができるのですもの」

その瞬間、幽霊部員の表情が変わった。彼が自らの運命を変できる可能性の灯が見え始めた。

そして、乃愛の言葉がさらなる可能性を開く鍵となった。彼女は思わず微笑み、彩音も無意識に同じように笑顔を浮かべた。

不安から憎しみへと変わる心。そこには理解できる思いが宿っていた。彼はただ心の奥で恐れていただけなのだ。

最終的に幽霊部員は、彼らの善意を受け入れるように胸の内を開いた。

「私は…そんなに暗い場所にずっといるわけにはいかない。サークルに問題があるなら、皆で協力して解決したいと思っていたのです」

肯定的な言葉が彼の口をついて出る。乃愛と彩音は、思わずお互いに微笑み合った。

「それが、一緒にやるべき最初の一歩ですわ。私たちに手伝わせてください」

「では、これからどうすれば…」

彼の瞳には、少し前まで抱いていた判断のようなものが消えつつあった。乃愛はその様子を見ながら、新たな解決策を見出していた。

「まずはサークルのみんなに話しましょう。そして、私たちの支えとなれることを証明するように、共に行動しましょう」

その言葉を象徴するかのように、幽霊部員の目が明るく輝く。彼は覚悟を決めたように、続ける。

「なら、私も手伝います。傷を癒すために自分の過去と向き合おうと思います。これからは、皆で共に進んでいきましょう」

その瞬間、緊張が切れ、その場には穏やかな雰囲気が流れ始めた。幽霊部員は、かつての自分を少しずつ手放し、周囲の視点を意識し始めていた。

それから数日後、サークルは一丸となって大きな変化を迎えた。幽霊部員はこれまでの経緯を打ち明け、新たな友情を築く道を選んだ。乃愛と彩音はその変化を共に見守り、支えることができた。

その結果として、サークルには新たな活気が生まれ、メンバー同士の絆も深まった。事件は解決し、彼女たちが得たものは思った以上に大きかった。

「本当にうまくいったね、乃愛ちゃん」

彩音が嬉しそうに言った。乃愛は笑顔を浮かべながら、彼女の言葉に応える。

「はい、でもこれは私たち二人の力が大きいですわね」

「次も一緒にやろうね!」

その瞬間、彼女たちの心の奥に温かい気持ちが芽生えた。これからの未来に向けて、彼女たちの冒険は続いていくのだろう。

そして、探偵としての道も、二人で歩む道が輝いていた。彼女たちの物語は、まだまだ続く。