第63話 「幽霊部員の秘密」

久遠乃愛(くおん のあ)は、大学の講義が終わった後、キャンパス内のカフェで幼馴染の雪村彩音(ゆきむら あやね)と向かい合っていた。乃愛の黒髪は、その長さを活かして美しくさらりと流れ、冷静な目で周囲の喧騒を観察している。彩音は茶髪のボブカットが明るい笑顔を引き立て、元気で社交的な雰囲気を漂わせている。ふたりの姿は、周囲の学生たちにとって、まるで物語の一場面のように映った。

「乃愛ちゃん、また新しい事件があるみたいだよ」
と、彩音が嬉しそうに言った。

「詳細を教えていただけますか、彩音さん」
と乃愛は応じる。

彩音はスマートフォンを取り出し、スクリーンを指でスワイプした。しばらく目を凝らした後、
「あ、これだ。この前のサークルの仲間から情報がきたの。ネット上でなりすましの事件が起きているらしいの。昼間に、誰かが他の部員の名前で書き込みをしたり、メッセージを送ったりしているって。もしかしたら、学内にいる幽霊部員がこの事件を引き起こしているのかもしれないってさ」
と話し続けた。

乃愛は、自身の推理能力を駆使する意欲が湧いてくる。このような新たな事件は、彼女にとって戦う舞台のようなものだからだ。
「興味深いですわね。まずは現場に行ってみましょう、彩音さん」

ふたりは、大学の屋上へ向かうことにした。キャンパスの最上部に位置するその場所は、学校の喧騒から隔離されており、穏やかな空気が流れていた。屋上に着くと、眼下には広がる景色が広がり、青空が二人を包み込んだ。

「ねぇ、見て。ここに何か書いてあるよ」
と彩音が指差した。

そこには落書きのように見える不明瞭な暗号が描かれていた。乃愛はその場に近づく。
「何かのメッセージかもしれませんわね。解読ができれば、今回の事件の手がかりになるかもしれません」
と乃愛が考え込む。

そこに、
「サークルの部員の名前や趣味、特徴を考えさせるような内容かもしれないわね」
と彩音が意見を述べた。

乃愛は暗号をじっくり見つめる。
「ふむ、これはただの落書きではなく、計算されたアルファベットの組み合わせかもしれませんわ。適切な手がかりを持っていないと、真っ正直な解読は難しそう」

彩音は頭を抱えながら、
「どんな意味があるのかしら…私たちの知っているあの人の名前でも隠されているのかな?」

乃愛は、暗号に何か特別な意味が込められていると直感した。直感が指し示す先に、事件の真相が存在するのではないかと思った。
「この暗号がどのサークルに関連しているのか調査してみる必要がありますわね。早速、部員に聞いてみましょう、彩音さん」

ふたりはサークルのメンバーが集まる場所へ向かうことにした。彼らはサークルの集まりが終わった直後に忍び寄ると、他の部員たちが話し合っているところへ遭遇した。

「ねえ、あの屋上の暗号、見たことある?」
と彩音が気軽に声をかけた。

「暗号?なんだ、それ」
と誰かが首をかしげる。

「サークルの中で、誰かが勝手に名前を使って書き込みをしているって、知っている?」
乃愛の冷静な声が周囲に響いた。

「そんなの知らないな。俺たちみんなそれぞれ忙しいし、そんなことをしている人間はいないと思うわ」
と、一人の男が言った。

乃愛は一瞬顔を曇らせたが、すぐにアイデアを思いつく。
「もしかして、幽霊部員が背後にいるのではなく、他の部員の誰かが内部でやっているのかもしれませんわ。つまり、依頼主が強い圧力をかけている可能性があるのです」

「だから、その暗号を解読して、誰が本当に犯人なのかを探らなきゃ」
と彩音が力強く言った。

ここにある情報が全てつながると信じ、乃愛は暗号に意識を集中させた。考えを次第に深めながら、ノートに手をかざし、記号を一つひとつ取り出してはそれに関連付けようとした。すると、突然、彼女の目が驚いたように見開かれた。

「分かりましたわ!この暗号、実はサークルの名前を総称したグループ名になっていました。そして…。確かに誰かがサークル活動に留まっているのですわ」

「どのサークル?どう続けるの?」
彩音が興奮して尋ねる。

乃愛は微笑みながら、
「この暗号は実際に、二つの異なるサークルに関連していることが示されているのです。彼らはお互いの名前を利用して、友好関係を偽っているようですわ」

お互いに引き寄せられるように、ふたりはそのサークルがどれほどに複雑な関係性を持っているのかを解明しようと耳を澄ました。何人かのメンバーが響く聴取に対し、関連性のある情報交換を繰り広げる。

日が暮れ、他のサークルのメンバーたちが徐々に去り始めた時、乃愛は決定的な見解を持ち続けていた。
「今、必要なのはさらなる証拠ですわ。私は図書館で彼らの過去のデータを調べてみます。必要な文献を探して一緒に来てください、彩音さん」

当夜、図書館は静寂とともに、知識が埋め込まれた神秘的な場所だった。乃愛は一つ一つのページを捲りながら、念入りにスケジュールを見極める。それはまるで一つ一つの手がかりが集まり、全貌が現れ出るようでもあった。

「乃愛ちゃん、これ、見て。このサークルは一年前に一度解散したみたい。なんで急に復活したの?」
彩音が興味深そうに言った。

「解散されたサークルの構成メンバーが、また新たな形で集まっている可能性が高いですわ。そして、何かしらの理由で再び活動を開始したともいえそうです。彼らの目論見が何であるかを見極める必要がありますわね」

数時間後、図書館内はじわじわと明るくなり始めた。二人は数多くの情報を集め、やがて幽霊部員の正体が浮き彫りになった。彼は過去の陰を引きずり、サークルでの劣等感に苛まれていた元メンバーだったのだ。

「彼は、このサークルが新たに何かを始めることを恐れていたのでしょう。その心境から、他のメンバーを陥れるためになりすましたのですわ」
と乃愛は、宇宙を見上げるような雰囲気で言った。

内容を詳細に検証し続けた結果、彼の正体はほぼ確実であった。乃愛は最後に決定的な証拠を掴むため、彩音に頼んで彼の交友関係が広がる場所に潜入してもらうことにした。

「その部員のところで何かが隠されているはずですわ。巧妙に隠された暗号を探し続けましょう」
乃愛は落ち着いた口調で指示した。

一週間後、彩音からの連絡が告げられた。
「乃愛ちゃん、見つけた!その幽霊部員が不正利用しているアカウントのパスワードよ。これで彼を直接追及することができます!」

乃愛はその瞬間、心の中で閃いた。
「急ぎましょう、彩音さん。彼を追い詰め、真相を明らかにする必要がありますわ」
ふたりの足は急速に伐下途に向かっていた。

ついにその夜、幽霊部員は一人の部屋でひっそりと待っていた。乃愛と彩音は静かに足音を忍ばせ、その姿に近づいていく。
「そのアカウントを使ったはずよ、正直に白状しなさい!」
と乃愛が言った。

彼は驚愕の表情を浮かべ、口を開いた。
「や、やめてくれ!あのときは指示されたから仕方なくやったんだ!俺だって他の部員たちの目が怖かったんだよ…!」

彼の言葉を聞いた乃愛は一瞬冷静さを失ったかのような表情を見せた。
「指示したのは誰ですの?どんな理由でなりすませと命じられたのですか?」

「そうなんだ、代表が…全ては彼の指示だった。俺はただ、恐れていただけだ。何か問題が起こったときのために、強制されてしまったんだ」
彼は、自己弁護のように言った。

乃愛は彼の弁解を傾聴しながら、警察に通報することを決意した。彼の動機と背後を明確にし、他の部員を守る責任があるのだ。
「私たちは必ず真実を明らかにしますわ。あなたの余計な行動が、他の人々を苦しめることになるのだから」

別れ際、乃愛はしっかりとした声で言い放った。
「事件は解決されましたが、あなたの行動が他者やサークル全体に広く及んだことを忘れないでいただきたいですわ」

空に星が輝いている状況を背に、乃愛と彩音は歩き出した。自分たちの調査から得られた成功が、その宿命を明らかにしたことは感慨深い。彼女たちの間には友情がさらに深まっていた。

「ねぇ、乃愛ちゃん。事件が終わったら、一緒にご飯に行こうよ」
と彩音が無邪気に言った。

「もちろんですわ。行きましょう、彩音さん」
と乃愛は微笑みながら応えた。

その日は、二人の心に新たな知識と感動をもたらし、優雅な感覚で満ちた夜だった。