第61話 「サバイバルの図書室探索」

麗司は、図書室へ向かおうと心に決めた。すでにサバイバルのための準備ができているはずだ。しかし、心の奥深くには恐れが潜んでいた。廃校という静寂は、彼にとって過去の思い出がつきまとってくる一方で、今の状況の深刻さを痛感させられた。

廊下の先にある図書室へ出発する前に、彼は背負ったリュックの内容を再確認した。リュックは重さを増し、食料の缶詰や医療品を無造作に詰め込んでいる。軽く腕を振り、物資が崩れないように調整しながら、彼は次なる行動を考える。
「図書室には、役立つ情報や地図があるかもしれない。現状を把握するためには重要だ」
と心の中でつぶやく。

彼は廊下を進み、教室が並ぶ中を静かに歩いていく。どの教室も無人であり、かつての学生たちの賑やかな声は聞こえない。過去の思い出がざわめく中、彼は生存のために険しい道を選び取る使命を感じた。
「ここでの孤独は生存のための必要な儀式だ」
と心を決め、無意識に胸を張った。

目的の図書室が近づくにつれ、緊張感が増していく。彼は廊下の曲がり角を右に曲がり、その先に見える大きな出入り口に注目した。そのドアは重厚で、無数の誘惑と共に彼を待ち受けている。しかし、同時に恐怖も感じていた。その先に何が待ち受けているのか、全くの不透明さが彼の心を刺激した。

彼は慎重にドアに近づき、廊下の静寂を壊さないように耳を澄ます。周囲に聞こえるのは自分の心臓の鼓動だけだ。
「大丈夫、何も起きない」
と自分を励まし、ドアの取っ手に手をかけた。軽く押し開けると、図書室の薄暗い空間が目の前に広がる。

内部は思ったよりも広く、古い本がぎっしりと詰まった棚が並んでいた。床にはほこりが溜まり、かつて学び舎であったことが信じられないほどだ。彼は一歩、さらに一歩と踏み出し、教壇の前に立つ。窓から差し込むかすかな光が本に反射し、まるで久しぶりの温もりを与えるようだった。

「まず本を探そう」
と決心し、麗司は棚に手を伸ばす。静かに本を引き抜き、中には多くが破れている。しかし、その中の一冊が彼の目をとらえた。
「日本の地理」
といったタイトルの本だ。地図が載っているかもしれないと期待し、彼はそれを慎重に取り出した。

本を開いてみると、数十年前の風景が描かれている。デジタル情報の豊富さとは異なり、アナログな情報が過去を思い起こさせる。彼はページをめくりながら、必要な地域の情報を探していく。都内のゾンビの出現によって、彼がよく知る場所がどのように変わってしまったのか、想像しただけで胸が塞がるようだった。

「これを使うことができれば、自分の行動範囲を把握しやすくなる」
と感慨にふける。彼はリュックの中にその本を丁寧に収納し、次に必要な道具を探し始める。この図書室には、他にも何か有益な情報が隠されているかもしれない。教室の暗がりに潜む何かが、彼の本能を掻き立てている。

次に目を引いたのは、古ぼけた辞書の束だった。言葉の使い方や場所の名称、彼の心の中では生存に役立つのではないかと予感させる。彼はそれらをひとまとめにし、再びリュックに入れ込んだ。
「知識が助けになることもあるはずだ」
と、彼は自分に言い聞かせる。

物資の確保には、慎重さが求められた。どんな小さな手がかりでも、これからの生存に役立つ。彼は図書室をさらなる探索を続ける。静まり返った空間の中、彼の心だけが高鳴り続け、怯えた思考が過去の思い出と交錯する。

次に足を運んだのは、図書室の奥まった場所にある机だった。そこの上には散乱する紙束が置いてあり、いわば未解決のパズルのような存在だ。それらの中に役立つ情報が含まれている可能性がある。麗司は、あらためて静かな心で紙を一枚一枚めくり始める。

「これが何かの役に立つことがあれば…」
心の中で祈りながら、彼はさらに探索を続けた。中には無価値と思われる古い模試の解答用紙や、使用されない用紙の山があった。重要な手がかりは見つからなかったが、材料が乏しい状況においても、いつ何が役立つかは全くわからない。

その中で、彼の目に留まったのは一通の手紙だった。誰かのメッセージかもしれないと恐る恐る引き抜くと、見知った名前が記されていた。
「この手紙、まさかあの時の…」
幼少期の友人の字だ。彼は一瞬、自分の心をざわめかせた。その名前が残した言葉は、懐かしさと悲しみを呼び起こした。

「こういう状況でも、生を信じるのはきっと大切だ」
と、彼は以前の友人から学んだ絆の意味を思い出し、無意識に口元が緩む。仲間を求める感情がわずかに芽生えつつあるが、しかし彼は一人でいることに慣れている。それが生存を果たすための現実も受け入れた。

一通の手紙は、彼に過去を思い出させる一方で、すでに過去の友人の存在が生きた証であることを思い知らせた。家族や友人を失った辛さが彼の心を支配する。しかし、ゾンビが徘徊する世界で、その辛い記憶にしがみついていたら生きていけないことを、彼は痛感していた。

「勇気を持たなきゃ」
と心の中で叫ぶように小声を漏らし、再び視線を前方に戻す。彼は手紙をリュックにしまい、他に重要な物資がないか見回した。こうした空間で生き抜くため、彼には忍耐が求められ、一歩一歩丁寧に行動しなければならない。

次に彼が目にしたのは、図書の端に置かれた小型の金庫だ。怪訝な目でそれを見つめ、何が詰まっているのか好奇心を掻き立てられる。しかし、それを開けるためには道具が必要だ。彼は再び探索し、どこかに使えそうな道具がないか探し始めた。意外にも、図書室の横には古い椅子が転がっており、その部材から金具を引き抜くことができそうだ。

「これが役立つかもしれない」
と思い立ち、彼は椅子の一部を引き抜く。その瞬間、音を立てないようにするとはいえ、避けられない物音が響く。彼は一瞬周りを確認し、心臓が高鳴った。周囲に危険が迫っていないかを確認し、それから金庫へと附属した手を伸ばした。

金庫のロックがかかっていると予想していたが、意外にも鍵がかかっていなかった。
「これが開くとは思わなかった」
と期待感が膨らむ。彼は静かに金庫の開閉部分にこの金具をねじ込んでみる。静かな時間が流れる中、金庫が僅かに開く感覚に少し驚く。

「どこに何があるかわからない。だが、期待に胸を膨らませる」
と、彼はドキドキしながら金庫の中を確認する。
「大きな成果があるかもしれない」
と願いを込め、箱のフタを持ち上げた。

その瞬間、金庫の奥から瓶が多数出てきた。
「これは、薬だ!」
彼は驚きとともに心が踊り、早速リュックに詰めた。医療品に関しては、今後の生存において非常に重要な要素の一つである。彼はそれを得て、ほんの少しだけ感謝の気持ちを抱いていた。

「やっと運が巡ってきたか」
と考えつつ、彼は金庫を閉じ、背筋を伸ばした。物資の非常に重要な収穫を無駄にするわけにはいかない。彼は決心を固め、これが生き延びるための一助になることを願いながら、再びしっかりと背負ったリュックを確認した。

図書室を後にして廊下に戻ると、彼は次なる行動を考える。
「この探索は成功だが、次に何をすべきか?」
迷うことはなかった。廃校の外に出て、安全な場所につながると思われる道を選ぶつもりだ。

外で何が待ち受けているか、今一度心を引き締めた。図書室の経験を胸に、彼は新たな知識と物資を手にした。きっと、自分一人でも何とかやっていくことができると彼は信じられた。険しいサバイバルよりも、次の一歩こそが大切だったのだ。

「まだまだ生き延びるための道は長い。それでも、前へ進むことが全てさ」
彼は自分に言い聞かせ、強固な意志を持って次の探索に臨むことを示したのだった。