麗司は廃校の暗い廊下を少しずつ進みながら、周囲の状況を注意深く観察していた。彼の心臓は高鳴り、冷静でいようと自分に言い聞かせるが、恐怖感は胸を圧迫する。どれだけゾンビなどの危険が潜むか分からないこの場所で、彼の身を守るために必要なのは高度な集中力だった。
廊下の両側に並ぶ教室の扉を一つ一つ確認していく。彼は音を立てないように、靴音を忍ばせるように静かに進み、ドアの前で一瞬立ち止まった。目の前には、かつての彼の教室があったはずだ。しかしそのドアの向こうには、あの日々の思い出はもはや存在しない。ただの無人の空間が待っているはずだ。彼の心を締めつける悲しみと、同時に生存本能が強く働いた。
「ここは危険かもしれない」
と思いながら、彼は一歩ずつ前に進む。廊下の窓から差し込む僅かな日光のもと、いつも賑やかだった教室の中は静寂に包まれている。今ではただの廃墟と化したその教室に、何か役立つ物資があるかもしれないと期待を抱く。ただ、誰かの存在を感じることができれば、全ての希望は失われてしまうのだ。
彼は慎重に、まずは手元を見て整理したリュックの中を確認した。
「水は十分ある。食料も生存に必要なものが手に入った。次は装備だ」
と自分に言い聞かせ、まだ得られていない物資を探す方針を決める。彼は最後まで信じぬことを選択肢に取りながら、ここで少しでも強化が必要だと考えた。
次の教室の扉を軽く叩くと、音が静かに響く。その瞬間、彼の心は跳ね上がった。周囲に何かが近づいてくる前触れであるかのように感じた。彼は一瞬で静止し、息を潜める。もしゾンビが近づいてきているとすれば、物音が大きければそれが致命的な結果を招いた。
しばしの沈黙が続く。彼の心拍数が不規則になり、静かな時間が長引くほど、不安が広がっていく。廊下の先からかすかな音が聞こえたが、それは彼自身の心の動きによるものかもしれない。静寂を破るような音に敏感になりすぎている。
「現実を受け入れるしかない」
と彼は思った。これまでの実績を考慮し、必要なら逃げる準備をする決意を固める。静かに、教室のドアを少しだけ開けてみた。目の前に広がる光景は、かつての学生たちの熱気とは程遠い。机や椅子が乱れ、教科書が散乱している。
麗司は、一瞬ためらうが、目を引くような位置にあったリュックサックを見つける。そのリュックは、誰かの物かもしれないが、彼のサバイバルに必要な物が入っているかもしれないと直感した。
「こんな状況でも、運が巡ってくることがあるかもしれない」
と思い、そのリュックに近づく。
彼は周囲を警戒しながら、遺留物を手に取ってリュックを開けてみた。目の前に現れたのは、食料の缶詰や、懐中電灯、折り畳みナイフなどだった。彼の顔に小さな笑みが浮かぶ。
「やっぱり、期待できることもあるんだ」
と心の中で自分を励ます。これらの物資は、生存のために絶対に必要だ。
彼はそれらを無造作にリュックに押し込みつつ、嬉しさが胸を満たしていく。しかし、そこは廃校だ。人々の記憶が閉じ込められた場所でもある。その重さを感じつつ、彼はさらなる挑戦に心を引き締めた。
「物資が集まったら、次の行動を考えなきゃな」
と思い、リュックをかついで探索を再開した。彼は冷静さを保ちながら、廊下の先へ進んだ。やがて、つぎの教室の前に立つ。ここまでくると、足音が響くのが怖くなり、窓の外に集中し始める。
次はどの部屋に行こうか、考えを巡らせたが、周囲の静けさが不安を払拭している様子は感じられなかった。
「探索は進めなければならない。ここに留まるのはリスクを伴うかもしれない」
と自分に言い含め、教室の中に入る決心を示す。
彼は静かに教室のドアを開け、前方の机の間をすり抜けた。そこには、旧時代の机と椅子がちらばっており、ほこりをかぶって非現実的な光景を演出している。彼は一瞬立ち止まり、
「こんなところに囚われるのか」
と思ったが、そこに時間を使う余裕はなかった。
何か役立つ物があるか、教室中を観察していく。教壇の上には古びた黒板があり、価値のないノートや辞書が山積みにされている。しかし、彼の目を引いたのは、その隅に置かれた小型の保管箱だ。金属製で頑丈そうなそれに、運命を感じ取る。
「中に何が隠されているのか、もしかしたら重要な物資があるかもしれない」
と期待が胸を膨らませる。
彼は再び周囲を見回し、同じように近づき、保管箱を確保するために盗み聞きを続けた。それが静かに口を開ける時、何が起こるかわからない。心臓が跳ね上がるような緊張感を受け止めながら、彼はその箱の周りをじっくり観察した。
「開けていいのか?それとも、何かを避けるべきなのか?」
迷う。
その時、彼の頭に警報が鳴るような考えが走った。
「いざとなれば逃げる準備をしておかなきゃ」
その考えから彼は、箱を開けることに決した。ゆっくりと箱のフタを持ち上げ、慎重に開ける。何が入っているか、変則な光と共に不安が訪れる。
「無事なものであればいいな」
と心の中で願いながら、箱を開いた。その瞬間、光が戻るかのように中に入っていたのは、医療品や救急セットだった。
「これは思わぬ成果だ」
とにやりとし、リュックに入れられる限りの医療品を移し替えながら、困難な状況でも希望の光が見えたように感じた。
今度はこの学校を突破口にしなければならない。有益な物が揃い、彼の心には少しの勇気が込み上げる。
「この場所が限界になる前に、出て行こう」
。その決意を持ち、彼はリュックを背負い、再び動き始めた。
教室を再び出て、廊下を進みながら、彼の目は周囲の状況を絶え間なく確認した。静かな廊下の奥には、かつての同級生の笑い声が聞こえてくるかのような空虚な感覚に襲われながら、彼は一歩一歩、冷静に進んでいく。生存の希望が少しずつ強まりながら、未来へ向かう覚悟を固めていた。
「次は、図書室だ」
麗司は考えを巡らせつつ、図書室への道を選んだ。まだまだ道は長く、様々な障害が待ち受けているかもしれないが、彼の心には生き延びるための道があった。