麗司は静寂の中で深呼吸をし、心拍数を落ち着ける努力をした。周囲を見回し、先ほどのゾンビがいなくなった隙をついて出入り口に向かう。彼の心は不安でいっぱいだったが、生き残るためには動き続けなければならなかった。
「まずは何を持ち出すか考えよう」
と彼は思った。リュックには水を確保したばかりだが、他の物資も必要だ。周囲を見渡すと、給水施設には古びたパイプや、使用されなくなった道具が散乱していた。何か有用なものはないだろうか。次の行動を考えながら、慎重に進む。
音を立てないよう、彼は静かに動き回る。約一週間分の水は確保したが、食料も必要だ。都市の機能が崩壊する中で、食料の確保はますます難しくなっている。記憶の中にある常識とは逆に、今の彼には選択肢が極めて限られていた。
「今のうちに適した食料を探さないと、本当に生き延びられない」
と思い、再び注意深く動き始めた。給水タンクの近くには、廃棄された空き缶や、使い古された細工品が混在している。麗司はそれらに目を光らせつつも、可能性を考えて行動した。状況を冷静に分析し、必要なものを得るための策を練らなければならない。
少しずつ進むうちに、彼の目に留まったのは給水施設の一角だった。そこには何かが引っかかっている不明な物体があった。じっと見つめ、救援物資の残骸の中にあった食料が入っているかもしれないと思った。
「まさか、これが役立つとは少しの希望に過ぎないが、試す価値はあるだろう」
と彼は自分を奮い立たせる。
彼はゆっくりとその物体に近づいた。心臓が高鳴り、何か鮮明な存在を感じ取ることで恐怖が増していった。足元の物音に注意を払い、周囲にゾンビの気配がないか慎重に確かめる。固い決意を胸に、ゆっくりとその不明な物体の正体を確認する。
近づいてみると、それは脆いビニール袋だった。麗司はその袋を手に取り、破れていないか確認する。
「中に何が入っているか確かめよう」
と彼は心の中で決意を新たにし、袋を開ける。すると、乾燥した米やパスタ、さらには調味料の小袋が数つ入っていた。彼は小さく歓喜の声を上げ、
「これはありがたい」
とつぶやいた。
食料をリュックに詰め込み、彼は再び周囲を見渡す。外に出ると、日差しが彼を照らし、少しほっとする同時に、閉塞感が一層強くなる。この世から人々が消え、街は荒れ果てている。彼には物資を手にした充足感と共に、深い孤独感が漂っていた。
時刻はまだ早いが、早く戻りたかった。そのため彼は急いで給水施設の出口を目指した。しかし不安は拭いきれず、度々後ろを振り返りつつ、彼は脱出を試みる。運が悪ければ、誰かが近づいてくる可能性がある。心配が積もる中、麗司は一瞬で嘆息し、小さく呟いた。
「ここまで来たのに、安堵する隙間はないんだな」
少しずつ進んでいくと、心の中にある感情が膨れ上がっていく。孤独感、絶望感、そして少しの希望もあったが、運命に抗う決意が彼の心の奥深くに存在していた。
「もう二度と、こんな状況は嫌だ」
と自分に誓いを立てながら、彼は物資を持って急げた。
出口に近づくと、再びかすかな音が聞こえた。敏感になっていた彼の耳には、それが人間や動物のものではないことが明らかだ。麗司は恐怖を感じ、一瞬動きを止める。これまでの安全な行動が崩れ、次なる危険な状況に陥る不安が彼を襲った。
「どうする?逃げなきゃ」
と心の中で必死に思考を巡らせる。
「直ちにここを離れるか、それとも立ち向かうか」
。冷静さが彼を保ち続けたものの、次の行動を決定するには煩わしい葛藤が待っていた。
彼は素早く出口に向かい、施設の外でゾンビの姿を探す。
「ゾンビが近くにいるかどうかは、今の自分には分からない」
と思いながらも、進む道を急がざるを得なかった。
外の世界は完全な無人の荒野と化しており、彼の心には再び深い孤独感が襲ってきた。
「どうしてこうも変わってしまったのか」
。その思いが彼の胸を締め付ける。
出口にたどり着くと、麗司は周囲を再度確認した。外には誰もおらず、静けさだけが漂っていた。彼はリュックをしっかりと背負い、何か音や動きがないか耳を澄ませながら注意深く進んだ。
「通りを渡った先は危険が潜む可能性が高い」
と思い、足を止めた。行動を先送りする勇気が失われてはならない。彼は正常な思考を持ち続けるために心の中で自己を鼓舞した。
「まだ生きている。今日もここで生き延びることができる」
周囲の静けさが彼の冷静さを保つ一助となった。少しずつ進み、公共の道路に出ると、周囲に何もなくても意外と心が穏やかになったと感じた。希望の微かな光が彼の心に灯り、道を進む決意を感じる。
「次は、物資の確保と避難経路を考えなければ」
彼は頭を巡らせながら、一歩一歩慎重に進む。どんな障害が待ち受けていようとも、彼は全ての準備を整え、疲れきることなく前進することが肝心だと感じていた。
公園の向こうには、かつて彼が通っていた学校がある。その場所はゾンビや野生動物の影響を受けず、物資がある可能性もある。
「もしかしたら、誰かがまだ生きているかもしれない」
と微かな希望を抱えつつ、彼は行動を開始した。
進む途中、彼はかつての思い出が鮮明に浮かび上がる。楽しい学びの日々、友達との時間、何気ない瞬間が彼の心を温かくした。しかし、もうその生活は存在しない。麗司は、失ったものへの悲しみを心に刻み込みながらも、この状況を打開しなければならないという思いを強めた。
やがて、学校が見えた。彼は周囲の状況を冷静に観察し、適切なアプローチを計画した。
「入口から入るのは危険すぎる。裏口から進むべきだ」
と思い、背後に隠れるように移動した。
彼は裏口に到達する。運命の一瞬だ。どうか、何もいないことを願いながらドアをゆっくり開ける。いつ閉じたかも分からない、古びたドアを僅かに開くと、かすかな風が吹き込む。ただ、静けさしか訪れない。
「これが普通だったなら、入りたい場所だったのに」
と麗司は自嘲しつつも、一歩踏み出した。彼の世界は完全に崩壊し、彼自身が生き残るための方法を探し続けていた。
やがて、彼は校舎の中に足を踏み入れ、暗い廊下の静けさに圧倒される。あちこちに資料が散乱し、かつての教育環境が無惨に打ち壊されている。この廃墟の中で、彼が生き延びるために必要な物資を見つけ出すことができるだろうか。
麗司は物資を探すために、一歩ずつ廊下を進む。
「絶対に生き延びてやる」
と、彼は自身に誓いを立てる。目の前には、過去の思い出の品々が散乱しているが、その中で彼が生命を確保するために探し求めるものを見つけなければならない。恐れと希望が交錯しながら、彼は冷静さを維持しつつ、前に進んでいくのだった。