第57話 「孤独な闘いの中での生存本能」

麗司はゾンビが去るのを静かに待ちながら、恐怖で硬直したままの体を少しずつ緩めていった。生存本能が彼に命じる通り、彼はこの瞬間を逃さず慎重に行動しなければならなかった。ゾンビが背を向けているのを確認すると、彼はそっと背後の冷蔵庫から身をひるがえし、静かに後退を始めた。

彼の心臓は依然として高鳴っているが、最も重要なのは冷静さを失わないことだった。目の前には出口が見える。思い切り外に出ることができれば、より安全な場所へ移動することができるかもしれない。彼はリュックに詰め込みたくなるほど物資を確保していたが、今はそれを気にする余裕はなかった。所持品が重くなるのを我慢し、まずはここから脱出することが生き延びる唯一の道だと自分に言い聞かせた。

一歩、また一歩。麗司は静けさを求め、音を立てないように、足の動きを極限まで抑えながら進んだ。ゾンビは未だに冷蔵庫の前で佇んでおり、彼の存在に気づく様子はなかった。もし何か音を立ててしまったら、この一瞬の成功も無駄になってしまう。彼の心は生存のために強くなり、冷静に脱出を目指す。

出口が近づくにつれ、彼の不安が募る。
「ここを抜けることができれば、次はどうするのだろう」
と彼は考えた。都心が崩壊した現在、どこに安全な場所があるのか、物資を確保できる場所があるのかもわからなかった。麗司の頭の中には数日分の水とインスタント食品があるが、これでは長く生き延びられない。彼の想像の中には、あらゆる選択肢の選定が迫っていた。

「取りあえず、このスーパーを離れて、別の場所を探すのが優先だ」
と彼は心の中で自分に言い聞かせた。ようやく出口が見え、麗司は息を潜めながら一歩ずつ、目の前の扉へと近づく。恐怖から意識を逸らし、心を落ち着けるために内なる声に従う。

そして、まるで瞬間を消し去るかのように、彼は扉を押し開けて外に出た。後ろを振り返る必要はなかった。自分が生き延びるために必要なのは前進だけだと信じて。だが、そこには新たな現実が待ち受けていた。

外に出ると、周囲はかつての繁華街とはまったく異なる光景が広がっていた。街は無人で、孤独な静寂が広がっている。時折聞こえる微かな風の音が彼の心を締め付けた。目の前には倒れた車や、散乱するゴミ、そしてあちらこちらにはゾンビたちが徘徊しているのが見えた。麗司は一瞬で体が硬直したが、すぐに冷静さを取り戻し、足元に注意を向けた。

「まずはどこに行くか決めなければならない」
彼は心の中で若干声が震えたが、明確な目的を持たねばならなかった。近場に物資がある場所を思い描くと、何とかして周囲を見定め、次の行動を考えていく。

麗司は近くの公園に目を向けた。普段は多くの人々が集まる場所であったが、今は見る影もない。草は伸び放題で、木々は少しずつ枯れかけている。この公園の奥には飲料水を供給している施設があるという噂を聞いたことがある。
「もしかしたら、何か使える物資があるかもしれない」
と思いつつ、彼はその方向へ向かうことにした。

周囲を見渡すも、ゾンビの気配は特に感じられなかった。
「今がチャンスかもしれない」
と思い、急ぎながらも音を立てないよう注意を払い、その後進を急がせた。

彼が公園に近づくと、地面には放置されたリュックやカバンがあった。かつての人々の生活の痕跡が散乱している。その一つを思わず覗いてみたが、必死に生活を送った人々の残したものは、空の缶や半分腐りかけた食料品ばかりだった。物品の中には役立つものは見当たらなかったが、失望感を抱えている余裕はなかった。生き続けるため、彼自身が手に入れる努力をしなければならなかった。

歩みを進める中で、麗司は一つの決意を固めた。
「絶対に生き延びる。どんな困難があろうと、私はこの焦りの中で自らを見つけなければならない」
その思いが彼の背中を押した。

公園の奥に近づくにつれて、視界に入る風景は一変していた。湿った土の香りが漂い、木々の陰で何かが動く気配を感じ取る。
「もしやゾンビがいるかもしれない」
と彼は思い、身を引き締めた。しかし、利口さをもって行動することが必要だと、心に指令を下す。

木々の間から様子を観察しながら、不意に麗司は目に飛び込んできた景色に驚愕した。あちらこちらに倒れたゾンビたちがそれぞれの場所でうごめき、間近には彼の知る日常が崩れ去った姿があった。
「本当に人間だけがこの世に残ったわけではないのか」
と思い、彼は一瞬立ち尽くす。心の奥底で恐れが湧き上がる。

だが、一瞬の呆然が過ぎると、麗司は冷静を取り戻した。自分の恐怖に押しつぶされないためには、何をするべきかを見極める必要があった。彼は grit(根性)を振り絞り、もう一度周囲を見渡した。近くにある給水施設が目に入った。
「あそこだ、あの施設に行こう」
彼は心に決めた。

歩く速度を速め、目標に向かって進み続ける。途中で靴音が軽やかに響かぬように注意を払いながら進む。近くのゾンビが気づかず、比較的安全に進むことができた。しかし、いつものように冷静に行動しているはずの麗司も、周囲への注意が欠けていることを自覚した。
「こんな状況で気を抜くなんて論外だ」
と心の中で自分を叱責する。

急いで施設へ向かう途中、麗司は目の前の道路に目が止まる。そこには倒れた車がいくつかあった。もしかしたら、車の中に何か役立つ物資が残っているかもしれない。
「このまま通り過ぎるのはもったいない。もし何か見つかれば、確実に役に立つだろう」
と彼は決め、周辺の物音に十分注意を払いながら、車の近くへ寄った。

まずは一台目の運転席に近づくと、運転席のドアは大きく開いていた。中に目を凝らしてみたが、人の気配はなかった。中には空のペットボトルが散乱しているが、何かほかに役立つ物は見つからなかった。
「どうやらこちらには何もなさそうだ」
と思い、次は運転席の奥に目をやる。シートの隙間から見えるものに興味が湧いた。

運転席の下に何かが見えるのを見つけた。彼は手を伸ばし、しっかりとした指先でそれを把握しようした。掴んで引き抜くと、それは何と一箱のスナックだった。パッケージは傷んでいるものの、封は切られていない。
「これはもしかしたら、食べられるかもしれない」
と心が踊る。スナックは小腹を満たすのにはちょうど良い。

「やった!これがあればしばらく生き延びられるかもしれない」
と彼は心の中で歓喜した。こういう小さな運が、彼にとっての生存の手助けになるのだ。リュックに新たな戦利品を加え、次の行動へと移らざるを得なかった。

それでもその先にはまだ別の車がある。麗司は心の期待を持ちながら、その方向へ歩を進める。さっきのスナックで感じた興奮が消えぬうちに、彼はそのままほかの車両にも目を向ける。まさに一歩一歩を進める中で、彼はもう一度そのための努力を行うことが重要だと再確認する。

車内を覗き込み、何か役に立つ物資が見当たらないかを探し続けた。しかし、次々と同じように空の缶や散乱するゴミの中では、目に入るものはろくなものがない。しかし、もはや残された時間に必死で集中する彼の脳裏に、何か真剣な策を放つ必要があった。周囲に注意を払いながら、瞬時に動く。

やがて、麗司はある車の後部トランクに目を留めた。そこにはロックされている様子だった。しかし、彼の心は諦める覚悟ではなかった。近づいてきた時、ザーの音に反応し、心臓が緊張する。彼は確認のために周囲を再び見回す。その隙に、
「試す価値はあるによ」
と心の中で叫ぶ。

その瞬間、彼は勇気を振り絞ってトランクの鍵を無理にこじ開けてみる。金属同士の摩擦音が立ち上がる。何とかしてこのトランクを開けることができれば、さらなる物資が手に入るかもしれない。ただし、その行動も周囲に注意を向ける必要があった。

トランクが開いた瞬間、麗司の目の前には未開封の缶詰や衣類が見えたりした。しかし、思わず顔をしかめた。目の前には食材と思いのほか、血の跡が大胆に付いていた。しかし、冷静さを失う余裕は彼にはなかった。自分の心を一瞬支えながら、にこやかにトランクの中を漁り始めた。

さらに何かあるはずだ、
「ここの中に食料が続いているかもしれない」
と思い続け、缶を取りだすと、設定を再確認した。もちろん、これが実現すれば、いかなる戦いも含んで生き延びるための土台になるだろう。

しかし思った通り血が混じった姿に彼の心が凍りつく。
「待てよ、もしかして、こうなった原因がこれに関係しているのかも」
確実に警戒する必要があった。こうして彼の心には、さらなる恐れが忍び寄る。

冷静に考え直し、何とか時間を持ちこたえつつ、缶詰をリュックに加え、足元に転がる衣類を確認した。意地でも生き延びるために必要だ。何があっても、彼は生き延びなければならないのだ。再び生存に回帰する意識を持って進まなければならなかった。どれだけの空間に危険があるのか、自らを見失わぬよう、彼は全神経を集中させる。

近くの音に敏感な彼の感覚は、次第に心の奥で生き延びるゾンビとその影を探らせていた。明らかに次の行動へと一歩一歩着実に進む。明るい未来に向けて、この日常を取り戻すために、命をかけた挑戦が始まるのだ。

そうして彼は、立ち上がり、次なる目的地へと向かう。どれだけの挑戦が彼を待ち受け、これからの生活をどう変えるのか、運命は混沌としている。だが、諦めることはできなかった。その先には希望があると信じながら、麗司は孤独な闘いを続けていくのだった。