第56話 「生存本能をかけた逃避行」

麗司は暗がりの中を進みながら、心の中で次の行動を模索していた。この世界では、緊張と恐怖が常に彼の側に寄り添っている。音に敏感になるのは、もはや生存本能の一部になっていた。それでも、理性を失わずに行動し続けなければならない。彼は時折振り返り、足音や小さな物音が近づいてきているのではないかと警戒していた。

彼が進む中で、迎えたのは冷蔵庫のあるエリアだった。潰れた冷蔵庫からは腐敗した匂いが漂い、かつては新鮮だった食材たちが溶けかけているのを目にした。麗司は思わず顔をしかめたが、その中でも一つ二つは賞味期限がまだ切れていないものがあるかもしれない。彼は冷蔵庫の扉を慎重に開け、内部を覗いた。すべてが駄目になる前に、少しでも使えるものを見つけられたらと願っていた。

手前には、柔らかくなった肉のパックが目に留まった。保存状態が悪く、もう既に嗅覚を刺激する臭いを放っている。そのすぐ横にある袋には、未開封の牛乳が見えた。確かに、賞味期限は一日か二日過ぎているが、目を凝らしてみれば、意外と大丈夫である可能性もある。
「ダメ元で取っておこう」
という判断が彼の頭をよぎり、袋を手に入れようと体を屈めた。

「腐敗しているかもしれないが、取れるだけ取っておくべきだ」

心の中で自分に言い聞かせながら、彼は牛乳の袋を掴んでリュックに加えた。匂いがきつく、すぐに後悔しそうになったが、発見した物の一つが彼にとってどれほど貴重かを理解している。彼は続けて周囲を見渡し、他にも利用できそうな物を探し始めた。

その後、彼は食料品コーナーへと向かう。薄暗い棚の間をすり抜け、視界の隅に入る缶詰やパッケージたちを見渡す。彼のリュックは既にある程度の重量になっていたが、まだまだ足りない。続けざまに缶詰を手に取り、それを確認する。一番上にある缶は少し凹んでいるが、他は大丈夫そうだ。
「おそらく、数日間は食べられそうだ」
と思いつつ、彼は慎重に追加の缶詰をストックした。海鮮系のものや、スープ系のもの、何があるか分からないが、とにかく確保しておくべきだ。

蓄えは徐々に増えてきたが、彼は冷静さを失わずに行動し続けていた。その時だった。耳元に小さな音が漂ってきた。引き裂かれた感情が彼を苛む。何かが近づいている。生存本能が働く。彼はすぐに息を潜め、周囲の状況を探る。
「まずい、動くな」
と心の中で呟く。目の前の冷蔵庫に隠れながら、彼は音の正体を定めようとした。

音はじわじわと近づいてくる。冷蔵庫の後ろ側から、かすかに何かが動く音がした。彼は考える。
「不気味な生き物か、それともゾンビか」
心拍数が上がる。
「どうする…?ここは隠れるしかないか」

その瞬間、彼の心に決意が生まれた。大きな物音を立てたくはなかったが、今回は自分の身を守るために行動しなければならない。
「もし近づいてくるのがゾンビなら、やつから逃げる必要がある」
と判断した。麗司は冷蔵庫の背後に身を隠し、静かに息を潜めた。音が次第に大きくなり、何かが間近に迫ってきている。

間もなくして、こちらに向かってきた者の姿が視界に入った。薄暗い店内にあっても、その影は彼の心をさらなる恐怖に陥れた。人間かと思いきや、髪の毛はバラバラで、肌は青白く、異様な歩き方をしている。そう、目の前にいるのは明らかにゾンビだった。麗司は、その姿を見つめながら動きを止め、力を込めて静かにその場をやり過ごすことを決めた。

ゆっくりとゾンビは近寄ってくる。その動きは一般的な人のそれよりもやや遅いが、決して油断はできない。麗司は心臓が鼓動する音を聞き、冷汗が滲み出るのを感じた。
「ここで見つかってはいけない。冷静に…腕に力を入れて耐えろ」
自分自身を励ましながら、彼はその場から動くことができなかった。

ゾンビは冷蔵庫の前で立ち止まり、周囲を見回している。麗司は無我夢中で身を潜め、静かに息を殺す。その瞬間、
「音が出てはいけない」
という考えが頭の中を駆け巡る。ゾンビは何か別の音に敏感に反応しているのか、振り返り、何も見えない虚空を凝視する。そうしている間に、彼はゆっくりと動き出すチャンスを伺った。

「何とかやり過ごせるか…」
彼の心の中は態勢を整える準備でいっぱいだった。冷静に状況を見ることを忘れず、
「消えるチャンス」
をいささかでも待ち望む。ゾンビの静けさを利用し、待機している時間を耐え忍んだ。足元が冷たく、恐怖が全身を包むが、彼は耐えることを選ぶ。

無情な時間が過ぎ、おそるおそる立ち上がると、ゾンビが気配に反応し、ふと音を立てた瞬間、麗司はまるで氷のように固まった。心臓は空洞になったように鼓動を続け、早くこの場から残されたチャンスを見つけねばならなかった。しかし、そのゾンビの近くで動くことはできなかった。

「冷静になれ、ここで失敗するわけにはいかない」
心の中で繰り返し、自分を落ち着ける。

麗司はその場を離れ、冷静に足を進めることを決意した。ゾンビは周囲を見回し、次第に遠ざかっていく。彼が確実に行動を起こせるタイミングをつかむためには、静かに出口を探り見つけるしかなかった。彼の心は緊張の糸で張り詰めているが、その時の自分の心と時間を超えたいと願い、断固とした決意を持つ。

出口を目指して再び動き出す彼。しかし、心の中では心の準備が必要だと感じていた。どこで次に何をするべきか。早くこの場所を離れ、より安全な場所へ移動する必要がある。その思いを糧に、麗司は鋭い頭脳で出口を探し始める。駆け抜ける感覚の恐怖を超え、成功を収めるまで進み続けなければならない。彼は全身全霊をかけ、果敢に一歩一歩を進めるのだった。

次第に空気が薄く息苦しさが募る中、彼は慎重に周囲を見渡し冷静に行動を続ける。そして、彼の運命を共にする選択が次第に迫ってきていた。しかし、どんな結果が待ち受けているのかは、誰にもわからなかった。だが、麗司は生き延びるために捧げられた希望の光そのものだった。彼は未来に向けて着実に進むのだ。

出口の先には新たな物資への希望が潜んでいることを彼は信じていた。そして、どんな困難が待ち受けていようとも、彼は決して立ち止まることはない。前へと突き進むのだ。