第51話 「探偵コンビの事件解決物語」

ある晴れた午後、久遠乃愛と雪村彩音は大学のサークル倉庫の前に立っていた。二人はいつものように、少し気怠そうな空気に包まれた大学生活を送っていたが、この日は特別な依頼が舞い込んできた。

「乃愛ちゃん、早くね! おいしいスイーツが待ってるんだから!」

元気いっぱいの彩音は、いつも通りの明るい声で乃愛を急かした。彼女の天然な一面が、こうした緊張感のある場面でもほっとさせる。乃愛は昨晩の推理小説の続きを考えていたが、その考えを切り替え、依頼の内容に意識を向けた。

「落ち着いて、彩音さん。まずは状況を把握しましょう」

乃愛の冷静な口調に、彩音は少し恥じらいながらも頷いた。依頼の内容は、サークルのメンバーが借金を巡って恐喝されているというものだ。詳細を聞いていると、心の奥底から冷たい気持ちが広がっていくのを感じた。

サークル倉庫に入ると、薄暗い空間が二人を迎えた。多くの書籍や音響設備、そして滅多に使用されない道具がちらばっている。乃愛の鋭い視線が、空間に潜む
「何か」
を捕らえようとしていた。

「ここで恐喝が行われたのよね?」
と乃愛が言うと、彩音は頷く。
「そうなの。借金をしている学生が、オープンキャンパスで案内係をしている子に脅されてるって。どうしよう……」

乃愛は思考を巡らせ、事件の全体像を組み立て始めた。まず必要な情報を集めるため、彩音に指示を出した。
「まずは状況を詳しく聞いてみて。関係者から手がかりを探ってみましょう。その後、私がその情報を分析します」

「はーい、任せて!」
彩音は元気に返事をし、早速サークルのメンバーに声をかけに行った。その様子を静かに見守りながら、乃愛は自分の中に浮かび上がる思考の欠片を繋げる作業に入った。事件の核心に迫るための準備が、少しずつ整っていく。

数十分後、彩音が戻ってくると、キラキラした目で乃愛に向かって報告を始めた。
「乃愛ちゃん、詳しい話をいくつか聞けたよ!彼女は、オープンキャンパスでプレゼントを買うためにお金が欲しかったみたい。でも、借金をしているってことは、事情に何か飲み込まれているのね」

「プレゼントを買うために、お金を恐喝するなんて、どうにも理解できませんわ」
と乃愛は嚙みしめるように言った。
「何か他の理由があるのかもしれませんね。このままじゃ解決には至りません」

手がかりが少しずつ集まり始め、乃愛の頭の中では仮説が出来上がってきた。借金をしている学生が苦しむ中で、恐喝という行為に出さざるを得なかった背景を探る必要があったのだ。

すると思いがけない手がかりが、サークルの掲示板に貼られた廃棄されたメールの中から見つかった。彩音が興味深げに見つけてくれたそのメールには、借金をしている学生がサークルメンバーに向けた
「お願い」
の内容が書かれていた。

「乃愛ちゃん、これ見て!今月末までにお金を返さないと大変なことになるって書いてある!」

「つまり、借金の返済期限に追われているのですね」
と乃愛は納得した。
「それなら、恐喝の背景には相手の学生の脅迫に関する情報が隠れているかもしれません」

次は、乃愛の頭の中に浮かんだ仮説を確認するため、同じサークルの学生たちに事情を聞いてみることにした。彼らはさまざまな反応を示した。恐喝する側と思われる学生の姿を知っている者がいれば、まったく知らない者もいた。その中に、あるヒントが潜んでいるはずだ。

その中でも、迅速に答えてくれた男性の言葉が印象的だった。
「あの子、オープンキャンパスのときにすごく積極的だったよ。案内をしている姿が印象深くて。それだけじゃなく、何かお金が必要だったのかな。借金とかあるみたいだけど……」

「オープンキャンパスを利用して、借金を返済するための手段を探っていた可能性が高いですわね」
乃愛はつぶやいた。
「彼女を直接見に行く必要があるでしょう」

彩音の目が輝く。
「行こう、乃愛ちゃん!彼女のところに直接行ってみて、可能性を潰していこう!」

今度は二人の調査団がその学生の元に向かった。緊張の一瞬が訪れると思った瞬間、乃愛の思考が鋭く働く。
「ここは直接的なアプローチで行きましょう。彼女と対話し、真実を引き出す必要があるわ」

その学生が案内係をしているイベントの直前、乃愛たちが彼女に接触した。彼女はふわっとした服装と明るい笑顔で、その場を演出していた。ただ、目元には不安の影を宿している。しっかりと確認しなくてはならない。

「あの、少しお話がしたいのですが。あなたには、私たちが依頼を受けた事件に関する重要な情報がありそうなんです」
と乃愛は冷静に言った。相手の表情に一瞬の驚きが走り、彩音はこのチャンスを見逃さず声をかけた。
「大丈夫よ!わたしたちはあなたの味方だから!本当に悪いことをしたかったわけじゃないんだよね?」

学生の表情が揺らぎ、ちょっとした沈黙が流れた。
「実は……お金がどうしても必要だったんです。オープンキャンパスで少しでも買いたいものがあったんですけど、周りの人も借金をイベントに使う人が多くて、そのお金だけじゃ足りなくって。怖いお兄さんに脅かされたんです」

乃愛は心底驚いたが、同時にその言葉が真実であることを理解した。恐喝という行為は、気が緩みがちなコミュニティの圧力によるものだったのだ。
「そうですわ、あなたも仕方ない状況だったのでしょう。ですが、友人たちを傷つけたくはありませんよね?」

少しためらいが見え、彼女は少しずつ心を開き始めた。
「そうなんです。事情を話せれば、もう少し違った結果になっていたかもしれません」

その瞬間、乃愛の頭に数々の手がかりが繋がる。プレゼントを買うために借金をして恐喝に発展した。その背景には、彼女を追い詰めた同世代の圧力が存在していたのだ。

「わたしたちが解決策を見つけますから、もうあなたも脅えなくて良い。まずはその人に対処する方法を考えましょう」
乃愛は優しい笑みを浮かべながら言った。

結局、彼女たちは事を収める方法を見つけた。恐喝の背後にいる学生は、情報を持ってかつ信頼できる仲間との連携を素早く実現させた。乃愛自身、心理的アプローチに刺激を受け、強固な絆で結ばれたサークルの大切さを改めて感じた。

数日後、事件は無事に解決した。恐喝された当事者とサークルの仲間たちが集まり、乃愛と彩音に感謝の言葉を贈った。乃愛は本当に嬉しそうに微笑んだが、再び事件の種を見逃すわけにはいかなかった。彼女の探偵生活は続くのだ。未来には必ず新たなミステリーが待っていることを心の奥で感じながら。

「次の事件が楽しみですわね、彩音さん」
と乃愛はつぶやく。

「うん、本当にそうだね、乃愛ちゃん!」
彩音は笑顔で答えた。こうして、二人の探偵の冒険は続くことになった。彼女たちの心には絶え間ない好奇心と、真実を求める探究心がいつまでも生き続ける。