第5話 「生存のための戦略」

麗司は無事にスーパーからいくつかの物資を集め終えたものの、心の内には未だ恐怖が残っていた。彼はリュックの中に収めた缶詰、乾燥食品、それにキャンプ用コンロを改めて確認し、自身の状況を見つめ直す。そして、次の行動を考えなければならない。

「今から帰る際、なるべく静かに行動しなければ」

彼は周囲を警戒しながら、慎重に動き出すことを決めた。ゾンビの特性を思い出し、音に敏感であることを再確認する。これまでの知識が彼を支えているが、実際の状況は予測を超えて緊迫したものだった。周囲の状況は常に変わり、どんな危険が待ち受けているか分からない。

静かな通路を通る間、麗司はまるで小動物のように音を立てずに移動することだけを念頭に置いた。彼の心臓の鼓動は、後ろから迫ってくるかもしれない恐怖に合わせたかのように、早鐘のように響き渡っていた。彼は耳を傾け、足元に気をつけながら、ゆっくりと出口へ向かう。

「これで少しは安心できる。帰って物資を整理して、次の手を考えよう」

ようやく出口に近づいたとき、再び
「カタン」
という鋭い音がした。たちまち、麗司は身体を固くし、動くことをためらった。何かが近くにいる。彼の身近に迫る気配に身を縮め、背後の動きに目を凝らした。その時、スーパーマーケットの棚から落としてしまった商品の音だったのか、一瞬の静寂に彼の動悸が高まる。その音が周囲の危険を引き寄せないことを願った。

心の中で呼吸を整え、自分の平静を取り戻そうと繰り返した。ほんの少しだけ隙間から見える風景を眺める。陽の光が薄れていく様子に、彼の心も不安に押しつぶされるようだった。とにかく今は、生き延びるために必要な物資を手に入れることが重要だ。再び目を前に向け、気を抜かずに移動を始めた。

出口を抜け、麗司は外の荒れ果てた街並みを見渡した。どこを見ても人影は見えない。彼は自分の決断で生き延びているのだと改めて実感し、達成感のような思いがこみ上げた。

しかし、そこは冷静さを保たなければならないシーンである。生存者はもはや彼に優しくはない。そのぜい肉がない世界で、どんな危険が迫るか分からなかった。麗司は自分がこの状況に適応できるのか、疑念が心に浮かんだ。

帰り道に立ち寄った後、マンションのドアを開けながら、どうすればこの生活を続けられるかを考え始めた。冷静さを維持するため、彼はすぐにリュックを床に置いて整理を始める。物資の配置を確認することで、今後の戦略を練るための基盤を整えるのが必要であった。

まず、缶詰の数を確認する。いくつ手に入れたのか、彼は一つ一つ手に取ってはリュックから取り出し、カウンターに並べていく。カレー缶、スープ缶、さらには納豆の缶詰もあった。食材のカラーが目の前に広がり、若干安堵をもたらす。それでも彼の頭の中には不安が渦巻く。この缶詰がいつまで持つのか、どのように計画的に消費していくのか。それを全て考えなければならなかった。

麗司は瞬時に計算し、今の状況を把握する。持っている物資の量、特性、そして日常的なカロリー消費量を十分に考慮する必要があった。これからの日々で、食料をどのように維持していくのかを引き続き思考しなければならない。それが彼にとって生存の鍵なのだ。

さらなる工程として、乾燥食品も確認する。米やパスタ、スープの素など誘惑は揃っているが、彼は消費スケジュールも考えなければならない。何をどのタイミングで食べることが、次の一歩に繋がるのだろうか。彼は頭を働かせ、思考を深める。

「まず頑張って、今はこの三日間を乗り越えよう。それが明るい未来への第一歩だ」

整理を進める中、麗司は小さく何度も自分に言い聞かせる。スケジュール表を作成し、次のように考えることにした。まずは、水と食料の確保。それが重要な際になるかもしれない。食事計画を立て、自分の健康を守る必要があった。

彼はその後、電氣や水道の状態を確認することを考えた。もしこれらのシステムが復旧すれば、運命が大きく変わるかもしれない。しかし、現時点ではそれは不確かである。どう生き残るか、街の情報を収集することが生存の可能性を広げる要因になる。考えをまとめ、次の行動を選ぶことが急務だと感じた。

再び身の回りを整理しながら、彼は外の状況を眺める。夕焼けの空に沈む日差し、不気味な静寂、彼の心に迫る不安。何よりも、外の世界でまた多くのゾンビが闊歩することを想像し、恐れが増していく。乱れた日常のなか、麗司は活動の範囲を広げるために戦略を打ち出す必要があった。

彼は再び意を決し、自らの計画をノートにまとめ始めた。サバイバルのための行動計画。
「次の朝、スーパーの隣のホームセンターに行ってみよう。そこには必要な工具やその他の物資があるだろう。事前に収集しておけば、少しでもリスクを減らせる」

彼は計画を練りながらも、不安を抱えたまま雑然とした空間に身を置く。今日の努力が無駄にならないことを願うしかなかった。心を落ち着けようとする中で、彼が不安を振り払うためのストラテジーを次第に整えていた。

短すぎる日々の中で、彼は孤独感に苛まれる。全てが収束することを恐れ、彼はますます目をそらしながら、自らの不安を深めていく。世界が崩壊したこの状況の中で、彼の選択肢はますます少なくなっていた。それが申し訳なさのような感情を伴う。

「これが自分の生活の現実だ。食料を無駄にせず、体調に気をつけて生き続ける」

麗司は心の片隅で自らに語りかけ、少しずつ自分を納得させようとしていた。明日になれば新たな課題が待ち受けるが、彼は今この瞬間に心を集中させるしかなかった。

目の前に迫る生存と孤独、次の挑戦を怖れずに受け入れる準備が整ってきた。彼の内面で闇と光が交錯するように、彼は徐々に自分自身を受け入れ、明日へと向かうための道を見つけ出そうとするのだった。生き延びていくための戦略を立てること、それが今の彼にとって最も懸重要素である。

この終末世界で、彼はどうにか感染症や危険な人間に耐えなければならない。次の瞬間に何が起きるかは分からないが、自分の手の内にある結果が決める物語を信じ続けた。どんな苦境が待っていようとも、それを受け入れることで彼はまた少しでも未来に勇気を持つことができる。

彼の目は輝きを失うことなく、その困難を乗り越えられる力を抱きしめ、明日への一歩を踏み出すための準備を整えていった。