第5話 「探偵活動と友情の物語」

久遠乃愛は大学のキャンパスを歩きながら、鮮やかな青空を見上げた。彼女は文学専攻の20歳の女子大学生であり、幼い頃から推理小説に親しんできた。その影響で、趣味で探偵をしており、幾つかの事件を解決してきた実績もある。今日は、彼女の幼馴染で相棒の雪村彩音と共に、また新たな事件の依頼を受けているのだ。

学校の図書館で、貴重な本が盗まれるという事件が発生した。文化や趣味のサークルが運営している図書館で、唯一の蔵書であるその本は、サークルのメンバーにとって大切なものであった。乃愛はこれから事件現場に向かうため、彩音と合流することを心に決めた。

「乃愛ちゃん、待ってたよ!」

彩音の元気な声が響く。茶髪のボブカットが、日差しに照らされて輝いている。

「彩音さん、遅れたわけではありませんわ。あなたが早すぎるのです」

乃愛は微笑みながら彼女に応じた。

「それでも、行こうよ!早く事件のことを調べたい!」

彩音はその無邪気さで、乃愛の心を少し明るくした。

二人は急ぎ足で図書館へ向かう。大学の敷地内は賑やかで、学生たちの会話や笑い声が絶えない。しかし、図書館の前に着くと、その雰囲気が一変した。来館者たちがみな、不安そうな顔をしているのが見て取れた。

図書館の中に入ると、数人のサークルメンバーが緊張した面持ちで集まっていた。乃愛は状況を把握するため、サークルの代表者と思われる男性に近づいた。

「貴重な本が盗まれたとは、いったいどのようにして発覚したのですか?」

乃愛は冷静に尋ねた。

「本がなくなっていることに気づいたのは、昨日のラウンド中のことです。サークルのメンバーがそれを使おうと思った時、書架から消えていたんです。」

彼の声は震えていた。

「残念ですね。事件の発生時刻について何か心当たりはありませんか?」

乃愛は淡々と質問を続けた。

「昼過ぎ、ちょうど食堂で lunch time の時代に…」

男性はさらに焦りながら説明した。

乃愛はその時、ふと思いつきを感じた。学食のキッチンなら、何か手がかりが残っているかもしれない。知識を駆使して、さまざまな観点から事実を見つめなおす時が来た。

「では、キッチンに向かいましょう」

乃愛は彩音に提案した。

「うん!行こう、乃愛ちゃん。」

彩音は目を輝かせて答えた。

二人は急ぎ足で学食のキッチンへ向かった。調理器具の並ぶ忙しそうな環境の中、スタッフたちが働いている。そこには、食事の残りや皿の洗い物の山があった。しかし、乃愛の目はその中に光る手がかりを探していた。

「ねえ、あそこのテーブルに何かあるかも!」

彩音が指差す先には、誰かが使ったのであろうシャツの袖口に残された汚れがあった。

「これは…手がかりですわ。きっと、何者かがこのテーブルで作業した証拠です」

乃愛は興奮の声を上げた。

「でも、これだけじゃ犯人は分からないよね…?」

彩音もすぐに冷静さを取り戻し考え込んだ。

「確かに。だけど、この汚れが誰のものなのかを追求することで犯人を絞れるかもしれませんわ」

乃愛は周囲の人々に目を向けた。

キッチンの周辺にいる人物たちを観察していると、ふと一人の男性が目に留まった。彼はサークルの幽霊部員で、普段は姿を見せないが、今回は特別に昼食の支度を手伝っていた。

「彼に聞いてみましょう」

乃愛が彩音に耳打ちする。

二人はその男性に近づき、声をかける。

「すみません、これについて尋ねたいのですが、最近このキッチンで何か気になったことはありませんか?」

男性は一瞬驚いたようだったが、すぐに表情を和らげた。

「ええと、特には…あ、でもこの間、食材の搬入があった時、手伝ってくれた女の子がいた」

「彼女について何か記憶に残るようなことは?」

「まあ、料理が得意そうだったので、ちょっと話しかけてみたぐらいです。お名前は…確かなことは分かりませんが、帽子をかぶっていましたね。」

彼の言葉の中に、何か手がかりが隠されている気がした。

「帽子…それは興味深いですわ」

乃愛は微笑みながら頭を動かした。

「その女子学生の資料はあるでしょうか。サークルのメンバーリストを見せてもらえると助かりますわ」

男性はしばらく迷った後、引き出しからリストを取り出した。色とりどりの名前が並ぶ中、一人の女子学生の名前が目に止まった。

「これでは…彼女が蔵書サークルの幽霊部員に違いありませんわ。きっと、無意識のうちに本を持ち帰ってしまったのかもしれません」

乃愛の推理は、色んなピースが合わさり、全体像を描き始めた。

「それなら、早速彼女に聞きに行こう!」

彩音は行動力を発揮し、乃愛が思索するその瞬間を待たずに前に踏み出した。

キャンパス内を走るように移動し、確証を掴むためにその女子学生の所在を確認した。ついに到着した教室の前で、彩音は大きく息を吸い込む。

「乃愛ちゃん、準備はいい?」

「はい、行きましょう」

乃愛は静かに頷いた。

公開の場での彼女に声をかけることは、少し緊張した。だが、彩音は思い切って話しかけた。

「すみません、あなたの名前は…?」

女子学生は驚いて振り向いた。「あ、ええ、私は林美享です。あなたたちは?」

乃愛は冷静に名乗った。

「久遠乃愛です。そしてこちらは雪村彩音さんです。今日は、少しお話を聞かせていただきたいのですが。」

「あ、事件のことですよね…」

林美享は少し戸惑いながら、自らの関与を認めた。

「大丈夫ですわ。あなたが本を持って帰った可能性についてお尋ねしたいのです」

乃愛は優しい口調を欠かさず、その気持ちを慎重に聞き出した。

「実は、あの本は…分かりませんが、サークルの話を聞いていてちょっと気になってしまって。バッグに入れてしまったみたいで…無意識でした」

彼女の表情は暗く、正直に反省の色を見せることができた。

「それを聞いて安心しました。それは全くの無意識でしたね」

乃愛は微笑む。

「どうか、その本を返してください」

「はい!本当に申し訳ありません!」

林美享は胸が痛む思いで目を潤ませた。

事件は、こうして解決へと向かう。必要な情報は全て揃い、かけがえのない本がサークルに返されることとなった。乃愛と彩音は、その瞬間に感謝の気持ちを抱き合った。

「やっぱり乃愛ちゃんの推理は素晴らしいね!」

彩音が晴れやかに微笑む。

「あなたの行動力があったからこそ、解決に至りましたわね」

乃愛はその瞬間を噛み締めると、さらなる謎を解くことへの意欲が湧き上がる。

二人の友情は、事件を経てさらに深まった。これからも数多のミステリーを解決し、キャンパスの平和を守るために、彼女たちの探偵活動は続くのだ。