久遠乃愛は、海辺の街の大学に通う20歳の女子大生探偵だった。彼女は長い黒髪を揺らしながら、周囲の風景をじっと見つめていた。そんな乃愛の目の前には、幼馴染の雪村彩音が笑顔で立っている。彩音は茶髪のボブカットで、明るく、社交的な性格を持つ。二人はこの日、ある事件の依頼を受けたのだ。
「乃愛ちゃん、今日のバーベキュー会場、すごく楽しみだね!」
と彩音が元気に言った。
「ええ、楽しみですわ。ただ、楽しんでいる場合ではないかもしれませんけれど」
乃愛は眉をひそめ、真剣な表情になる。このバーベキュー会場では、最近人気商品が不正コピーされる事件が発生しており、当局は解決の手がかりを求めていた。依頼者は、海辺のバーベキュー会場の関係者だった。彼は、商品の不正コピー問題が自分たちのイベントに影を落としていると強調した。
会場に到着すると、ビーチの風が心地よく二人を迎えた。色とりどりのテントやバーベキュー台が並び、楽しそうな声が響く。しかし、その雰囲気の裏には緊迫した空気も潜んでいた。乃愛はゆっくりと周囲を観察し、何か感じ取ろうとした。そんな彼女の目に、ある女性が留まった。彼女は図書館でよく見かける研究熱心な様子で、バーベキューの参加者に頻繁に質問をしていた。
「彩音さん、あの女性が気になりますわ。何か知っているかもしれませんね」
乃愛は小声で彩音に言った。
「うん、私も彼女のこと、ちょっと気になってた。どうする?」
彩音も少し不安の色を浮かべた。
乃愛は決壊をするように深呼吸をし、思考を整理した。短い時間の中で、彼女は冷静に状況を把握する必要がある。すると、彼女の脳裏にふと映像が浮かんだ。先日、大学の図書館で見かけた彼女。その時に何かスケッチを描いていたことを思い出した。それが何かの手がかりになるかもしれない。
「まずはあの女性に話しかけてみましょう。彩音さんが先に接触したほうが自然かもしれませんわ」
乃愛は彩音に提案した。
「わかった。私が行ってみるね!」
彩音は大きく頷き、意気揚々とその女性に向かっていった。
少し緊張した面持ちの彩音は、女性に近づくと元気な声をかけた。
「こんにちは!このバーベキューに来たの?何を聞いてるの?」
「こんにちは。私はここでこの商品について調査しているんです。どうやら何かおかしなことが起きているようで、詳しい話を聞けたらと思って」
女性はにこやかに答えた。
その瞬間、乃愛は彼女の目が一瞬だけ潜んでいた不安を捉えた。何かを隠そうとしているようだ。乃愛は心の底で感じる直感を信じ、彩音が女性との会話を続けるのを見守った。
「私はこの商品、普段から使ってるの!だから気になっちゃって」
と彩音は興味津々で言った。
「そうなんですか。実は最近、製品の真贋を見分けるためのスケッチをしているんです」
女性は自分の仕事に誇りを持っているようだった。
「ええ、ぜひ見せてくれますか?」
彩音は彼女の興味を引くように言った。
それに対して女性は一瞬ためらったが、すぐにスケッチブックを取り出し、数枚のスケッチを見せた。
「これがそのスケッチたちです。特にこの部分が重要で」
乃愛はそのスケッチを見ながら、心の中で緊張が高まっていくのを感じた。実際にそのスケッチは、彼女の印象や先日見た図書館での状況と合致していたのだった。あの女性は、本当に正しい道を歩んでいるのだろうか。
「これは一体…どこで手に入れたの?」
乃愛が割り込むように尋ねると、女性は一瞬戸惑った様子を見せた。
「えっと…これはあくまで私の研究の一環なんです。特に、どこかから持ち出した訳ではありません」
と彼女は目を逸らしながら言った。
乃愛はその言葉を聞いて、彼女が何を隠そうとしているのかを読み取ろうとした。まさにその瞬間、女性の手からスケッチが風に舞った。それを彩音は素早くつかまえた。
「これは…その…私が描いたものじゃないんです。誰かが描いたものです!」
女性は焦りを隠せない様子で叫んだ。
「わかりましたわ、事情がわからなければ手がかりは得られません。ですが、逃げられると思わないでください。私たちは探偵ですから」
と乃愛は冷静に言った。
その時、女性の目が一瞬、怯んだ。その瞬間、彼女の心の動揺を読み取った乃愛は、彼女に詰め寄った。
「あなたがこのスケッチを描いたのですね。違いますか?」
女性は一瞬ためらったが、やがて意を決したように深呼吸をし、目を合わせた。
「すみません、実は本当の理由は…学費を工面するために、必要に迫られてやってしまったんです」
乃愛はすかさず言葉を続けた。
「そして、あなたの不正コピーの行為が問題を引き起こしていたということですね」
「そうです。でも、わたしは道を間違えたと思っています。どうにかして元に戻したいんです…」
女性は涙をこらえ、切実に訴えた。
乃愛は一瞬、女性の弱さに共感したが、しっかりとした口調で言い直した。
「あなたの相手は法律です。それを理解して、今すぐにでも警察に申告してください。今までのことが無駄にならないようにするためにも」
「わかりました…!」
女性はしっかりと頷き、涙を流し始めた。
その後、乃愛と彩音は女性と共に警察に向かい、彼女の行動がどれほど問題であったかを逐一説明した。乃愛は冷静に状況を整理し、少しの安堵の感情も抱きながら、警察が適切な対処をすることを見守った。
事件は解決したが、乃愛の心の中には新たな疑問が広がった。しかし、彼女の関心はその日にバーベキューが行われるわけでもあり、周囲の光景に気を取られた。
「乃愛ちゃん、バーベキューが始まるよ!みんなお腹空いてるみたい!」
彩音が笑顔で呼びかけた。
「ええ、楽しみですわ。事件が解決した今、思いきり楽しみましょう」
乃愛は柔らかな笑みを浮かべ、天気が良い海の風景を楽しむことにした。
その日、彼女たちは楽しい時を過ごした。そして、心のどこかに新たな謎が生まれたことに気づきながら、お互いの友情を確かめ合ったのだった。