第47話 「青春の片隅で」

高校2年生になったばかりの黒川梨乃は、密かに同じクラスの村上和真に恋心を抱いていた。普段の彼は、のんびりとしていて、優しい笑顔を絶やさない。その笑顔を見ているだけで心臓が高鳴る。私の心を掴んで離さない彼は、私にとって特別で、まるで太陽のような存在だ。

しかし、私の想いはただのおしゃれな恋愛とは程遠い。どちらかといえば、少々重たいものである。内心では
「和真くん」
と呼びながら、彼の行動に目を光らせている自分がいる。アプローチをする手段も、残念ながら、少しばかり過激になりがちだ。和真くんを見つめる目は、誰にも止められない。

その日、体育の授業ではペアを組むというイベントがあった。私は、心の中で瞬時に考えた。これが、私が和真くんにもっと近づくチャンスなのだ。嬉しさと緊張感が入り混じり、気持ちが高ぶる。和真くんとペアになれたら、私の想いを少しでも伝えることができるかもしれない。

授業が始まると、体育館に集まったクラスメートたちがわいわいと楽し気に声を上げていた。私は心の中で、
「今日は絶対に和真くんとペアになるんだから」
と決意する。周囲のクラスメートたちがペアを組んでいく中、彼を見つけるために目を凝らす。彼はいつも通り、ふんわりとした髪を揺らしながら、横にいる友達と楽しそうに話していた。

「村上くん」
と呼ばれた彼の声に耳を奪われる。彼が呼びかけに応じて、笑顔で立ち上がると、ドキリと心臓が鳴った。私は彼がこちらに近づいてくるのを見ながら、口元が自然とほころぶ。まるで自分の心が彼に向かって飛び出すような感覚だ。

「ああ、黒川」
と和真くんが手を振った。彼の声は、私の気持ちを一層高ぶらせる。どれだけこの瞬間を待ちわびたことだろう。私は前に出て、思わず大きな声を出していた。

「和真くん、私とペアを組んでも良いですわ?」

その瞬間、周りのクラスメイトたちは視線を向けてきた。友達の一人が笑って、
「梨乃、ストレートすぎ!」
と拍手を贈る。内心では恥ずかしさに顔が真っ赤になりそうだったが、和真くんは本当に無邪気に笑って、
「いいよ」
と答えてくれた。

その瞬間、私は全世界が私たち二人のためだけに存在しているような幸福感に包まれた。二人の距離は急に近くなり、心臓がドキドキして止まらない。貸し切りの世界にいるような高揚感の中で、私は和真くんと一緒に体育の授業に参加し始めた。

しかし、クラスメートたちをちらっと見てみると、彼らの視線が少し皮肉めいた感じがする。もしかして私の好きな気持ちがバレてしまったのか?そんな不安が甦るが、和真くんは全く気にしていない様子で、私に嬉しそうに向かい合っている。不覚にも、安心感がその不安を押し流す。

「梨乃、これやる?」
と彼が指導する姿が私の視界に入る。その瞬間、私の中で何かが弾けた。
「違うのよ、和真くん。そ、そんな風に触れられたら、私、もう…」

だが普通の私であるならそれを言う理由がない。和真くんは何もわからず、私の反応を冗談だと受け流す。
「梨乃って、おもしろいこと言うね」
と笑う。天然な彼は、私の心情にまったく気づかない。

ペアになってからの授業はたくさんのアクティビティが続く。そのたびに私の心は揺れる。体育教師に指示されたことをこなすうち、私はじっと和真くんを見つめていた。彼が運動する姿、汗をかいで息を切らす様子までもが愛おしく感じてしまう。

洋服のまま活動しているのに、何故かその姿は凛々しい。周囲には友達が遊んでいたり、競争していたりする姿があったが、私の心の中には彼以外全然見えなかった。彼の動き一つ一つに視線を集中させ、心の中で彼の動きに千の思いを寄せる。

「梨乃、次はこのボール使うよ!」
その声が私を突き動かす。和真くんがボールを持って近づいてきた。しかし、彼が見せた笑顔の裏には何が潜むのか…そんな妄想が頭を駆け巡る。

ボールを投げる距離が短く、小柄な私には手が届かない。思わず悔しくて、彼に手を伸ばした瞬間、手が当たった。心臓が飛び跳ね、
「和真くん、手が…私の手に…!」
と内心で叫んでいた。和真くんは目を丸くし、私を見つめ返す。
「あ、ごめん、梨乃」

いや、謝らないで、私はむしろこっちが嬉しいのだから。だが、彼の間抜けな返答に少しがっかりする。まさか彼は私の気持ちに全然気づいていないのだろうか。自分の独占欲が少しずつ顔を出してきて、心が焦りだす。

授業が進むにつれ、私の気持ちがついていけないほど、和真くんの無邪気さは輝いている。それに惑わされ、怒りを覚えそうになった自分に驚く。こんなに好きなのに、彼は全然私に気持ちを返さないの?私に向けられた視線は、何も彼への愛を認めていないのかも知れないと思った。

ちょっとした休憩時間に、私たちは飲み物を取りに行くことにした。その時、和真くんが
「梨乃、もしかして水分をしっかり取ってる?」
と私の顔をじっと見る。その瞬間、私の心臓はドキリとした。
「もちろんですわ!私の水分補給は絶対よ!」
と少し強めに返す。

彼は
「よかった、梨乃は健康第一だもんね」
と笑顔を返す。なんて無頓着な、私は敏感に捉えているのに、彼にはその重さが伝わらない。ああ、もっと彼にちゃんとしたことを伝えたい、そんな思いが心の中でうごめく。

体育の授業が終わった後も、その日は不完全燃焼な気持ちのままだった。もっと彼に近づきたい、もっと自分を知ってもらいたいという熱が冷めやらなかった。それでも、どうやってその想いを伝えるかがまったく分からず、私は一人悩んでいた。

その日の放課後、教室の片隅で一人、彼に手作りのお弁当を用意している私は、一瞬見上げたロッカーの鏡に映る自分を見て困惑する。髪は整っているし、お弁当も見た目にはなかなかいい。彼の歓喜の反応を想像しながらも、心の奥にはドキドキとした不安が渦巻いていた。このお弁当を食べてくれるかどうか、私のことをどう思っているのか、それがいつも頭に浮かぶのだ。

翌日の学校、体育の授業を控えていることで、私はますます緊張していた。そんな中、彼と目が合った瞬間に
「梨乃、今日はこれやるよ!」
と叫んだ。

もう心臓が飛び出すかと思うくらい心が乱れた。その瞬間こそが、私が彼の目に焼き付いているのか、彼の気持ちを掴むチャンスだと信じたい。だが果たして、彼は私の想いを理解してくれるのだろうか。

私たちの距離がグッと近づく、この微妙な距離感がもどかしくてたまらない。
「どうか、伝わってほしい!」
心の中で叫び続ける。私は、彼に想いを伝えようと決意した。

授業が進む中、練習を繰り返していく中で、今度こそ私の心を彼に届けたくて、私は思いを込めたお弁当を作ることにした。和真くんが喜びそうな食材を揃え、彼の好きなものを詰め込んだ。透明な箱にサンドイッチや卵焼き、そして彼の好きなイチゴを詰め込む。おしゃれに飾り付けをしながら、彼の反応を思い描き、大きな期待がふくらむ。

だけど、授業が始まる直前、ドキドキしながら、今までのお弁当のメモを片手にした。気づけば時間が迫っていたのだ。周りのクラスメイトがバタバタと動き回り、私も急いで荷物を持って体育館に向かう。

この瞬間、和真くんが喜んでくれる顔が思い描かれる。彼に向けた思いがどんどん膨れ上がっていく。自分だけの秘密も持ちながら、彼との距離が縮まっていると感じる中、私はどうしても彼に向かって走り出したい衝動にかられる。

体育館には、クラスメイトがたくさんいて、和真くんも友達と楽しそうに過ごしていた。ふとした瞬間に彼の視線がこちらに合った。私は心臓がドキドキしているのに、彼は真顔で
「梨乃、どうしたの?」
と声をかける。

その問いかけに、私は思わず目を丸くする。どうしたのではなく、私はあなたに想いを伝えたくてこの体育の場でも臆せず飛び込んでいるんです!夢中で彼に手作りしたお弁当を持ち出す。
「和真くん、これ、私からの気持ちですわ!」
と勢いよく発言した。

クラスメイトたちが驚き、期待の目を向ける。その瞬間、和真くんは目を丸くして、私をじっと見つめた。彼はドキッとしながらも、
「おお、ありがとう、梨乃!」
その言葉が私の心にまっすぐに刺さった。

周囲からは
「やっぱり梨乃は和真くんにアプローチしてるんだ」
といった声が囁かれる。内心で嬉しさと恥ずかしさが交錯している。しかし、和真くんはその反応に全く気づいておらず、あくまで純粋に私のお弁当を楽しそうに味わい始める。

自分の気持ちは意外と伝わらないものだな、でも和真くんが喜んでくれるだけで十分だと思い直す。それでも、心に秘めた想いは消えていない。焦がれるようなこの恥じらいは、私が想いを打ち明ける日を待ち望んでいる証なのだから。

授業が終わり、私たちが一緒に帰路につくと、和真くんの横顔にはあどけなさが残っていた。
「今日の体育、楽しかったね、梨乃」
その笑顔に私は自分だけの夢を見た。
「はい、もちろんですわ!次も一緒にやりましょうね」

和真くんは
「うん、約束ね」
と笑いかける。私の心は期待でいっぱいになる。その瞬間に、自分の気持ちと向き合う時が来ているかもしれないと感じ始めた。

このままで絶対にいられない。私の心の声がそう叫んでいた。和真くんにどうしても、私の本心を伝えたい。彼に向かって走り続けて、私の一途な思いを伝えたい。

教室を出るその瞬間、私の心が高鳴っていることに気づく。運命の瞬間が近づいているという確信。彼がいる空間に、自分がいることだけでも嬉しいのだ。これからの時間が、甘くて、希望にあふれた時間になるような気がした。

私は彼との距離を少しずつ縮め、少しでも彼に自分の気持ちを届けられるように、心に想いを織り交ぜた言葉を用意しながら、これからも彼と心の交流を続けていこうと誓った。和真くんとの日常は、ただの友情のふりをしながらも、私の胸も高揺れ続ける。

この体育の授業を通じて、私の心はしっかりと彼に向かうことを決意した。自然に笑顔を交わす中でも、彼の隣で共に過ごすことの大切さを感じつつ、これからも自分の想いを大事にしていこうと思った。最後には、彼の心に、私の想いが届くように、
「和真くん…好きですわ!」
と宣言するタイミングが、きっと待っているはずだ。

思い続けることの大切さ、深い愛情の表現、それを感じる日常が、私の心に温かな光を灯してくれるのだから。私の運命は、彼との未来に向かって進んでいると、信じてやまないのだった。