ある晴れた午前、久遠乃愛は大学のキャンパス内で特別な気合いを感じていた。青空の下、彼女の髪は微風にそよぎ、黒髪のロングストレートがひらひらと舞い上がる。彼女は、いつものようにクールでミステリアスな雰囲気を醸し出しつつも、内心は今日の依頼にワクワクしていた。それは、彼女が尊敬する先輩から持ち込まれた特別な事件だった。
「乃愛ちゃん、聞いて聞いて!」
と、いつもの明るい声が響いた。久遠乃愛の幼馴染、雪村彩音だった。彼女は短い茶髪を揺らしながら、乃愛の元に駆け寄る。
「どんな事件なの?」
と乃愛は問いかけた。
「学内で突然、高級ブランドを身に纏うようになった同級生がいるんだって! でも、その背景に何か怪しいことがあるって噂だよ!」
と彩音は興奮気味に説明する。
「なるほど、確かにそれは興味深いですわね。一緒に調査してみましょうか」
乃愛はほほ笑みながら答える。
彼女は文学専攻でありながら、幼い頃から推理小説を読んできた。心理学や論理学に親しみながら、探偵活動を趣味として持つ彼女にとって、ミステリー事件はまさに自分の舞台だった。彩音の行動力と乃愛の頭脳を駆使すれば、この事件もすぐに解決できるかもしれない。
二人はキャンパス内で話を聞きながら、次第に学内新聞の編集長なる人物にたどり着く。この編集長は、最近高級ブランドを身に着けている同級生に関する特集を組んでいた。
「彼女の名前は香村美月。最近、彼女は有名なハイブランドを身にまとっているの」
と彩音が確認する。
「それに関して、何か気になることはあるかしら」
と乃愛は考え込む。
そして、両者は学食のキッチンへと足を運んだ。そこで、美月がどのようにしてその高級ブランドを手に入れたのかを確かめるためだ。キッチンは、食材の香りと忙しい人々であふれていた。
「ここで何か見つかるかも」
と乃愛が言った瞬間、彼女の視線が何かに引き寄せられた。床の隅に落ちている、小さな髪留めだ。
「これ、彼女の物じゃないかしら」
と乃愛は言いながら、それを手に取った。
「あ、本当だ!それに、私、彼女が髪をアップにしているのを見たことがある!」
と彩音は興奮して言った。
「この髪留めが意味することを考えてみましょう。確かに美月がしばらく前に使っていた可能性が高いですわね」
と乃愛は冷静に考えを巡らせた。
彼女たちは、さらに調査を続けながら、美月に遭遇する機会を伺った。学内のサークル活動や季節行事に顔を出し、どのように振る舞っているのかを観察したり、友人たちと会話をした際の反応を注意深く観察した。
「美月って、かなり人に注目されるタイプだよね」
と彩音は言った。
「ええ、彼女は自分をアピールするのが上手ですわ。しかし、それがもしかしたら反発を生む要因になっているかもしれません」
と乃愛は考えを巡らせた。
数日後、乃愛と彩音は香村美月に直に話を聞く機会を得ることに成功した。昼休み、彼女が友人たちと談笑しているところに二人が近づいた。
「美月さん、少しお話ししてもよろしいかしら?」
と乃愛は微笑んだ。
「え、何かしら?」
と美月は少し驚きながら振り向いた。
「最近の高級ブランドに関する特集のことで、何かお聞きしたいことがありまして」
と乃愛が続ける。
「まあ、別にいいけど…私がどうして高級ブランドを選ぶかってこと?」
と美月は笑った。
「いえ、むしろ、どうして急にそのようなものを身に着け始めたのかお聞きしたいのですわ」
と乃愛は毅然とした口調で答えた。
美月は一瞬、その言葉に驚いたように目を大きく見開いた。その後、少し照れた様子で笑いながら
「それは、注目を浴びたいからよ!だって、皆が私を見てくれるじゃない」
と語った。
乃愛はその反応を観察し、何かが引っかかる。果たして、美月が言ったことは彼女にとって重要なステータスとなっているのか。
「そうですか…あなたは皆から注目されることが好きですのね」
と乃愛は答えた。
「ええ、全然問題ない!だって、自分を飾ることは楽しいし、周りの反応を楽しむことができるわ!」
と美月は嬉しそうに言った。
乃愛はその言葉に何かを感じる。実際、彼女が求めているのは単なる注目だけではなく、自分が被害者であることを理解されることなのではないかと。
その帰り道、乃愛は彩音に考えを話した。
「美月は自分が被害者だと主張したかったのかもしれませんわね」
「でも、どういうこと?」
と彩音は疑問を抱いた。
「つまり、彼女は周囲の人々からの称賛や同情を引き出したかった。自らが特別な存在であることを周囲に実感させるため、あのような高級ブランドを持つことにしたのでしょう」
と乃愛は続けた。
「それが理由だとしたら、周囲に何を期待しているのかがもっと知りたい」
彩音は考えつつ言った。
「美月が各種の事件に関与している可能性も考慮し、私たちは彼女に対してもっと踏み込んでいく必要がありますわね」
と乃愛は冷静に見つめて言った。
数日後、乃愛と彩音は美月を再度訪ね、自分たちが調査している内容をさらけ出すこととした。
「ねぇ、美月さん。少しお話があるの。あなたが最近高級ブランドを身にまとっている理由について、もっと深く知りたいの」
と乃愛は率直に尋ねた。
「え、もちろん、注目されたいからよ」
と美月は答える。しかし、その笑顔には若干の緊張が見て取れた。
「注目されるためだけではなく、もしかしてもっと違う理由があるのではありませんか?」
と乃愛は一歩踏み込む。
その瞬間、美月の表情が変わった。彼女の様子は何かを隠そうとしているかのようだった。
「どういう意味?」
と美月はうろたえ、瞳の奥に何かを隠しているようだった。
「あなたが特集を通じて、自分が被害者であることを強調したかったのでは?」
と乃愛は冷静に言った。
「私は…そんなことはない!」
美月は急に声を荒げた。しかし、その声には動揺が隠れていた。
「ならば、あなたの周囲がどれほど影響を受けているかを考えてみてください。注目を集めることで、周囲との関係が変わることもあるでしょう」
乃愛は問いかける。
美月は言うことができず、頭を抱えたり、ため息をついたりした。
「私…私は皆に認められたかっただけなの」
と彼女は涙をこぼしそうな顔をして言った。
「そうですか。それなら、あなたを支える人たちは存在します。自ら傷つき続けることなく、本当に大事なことに目を向けてみてはいかがでしょう」
と乃愛は温かく微笑んだ。
数日後、乃愛は香村美月の周囲の人々と再度会って話し合いを行った。そこで、一つの事実が浮かび上がった。
「実際、彼女の周囲が気にかけていたのは、美月が持っているブランド品ではなく、彼女自身が持っている魅力だったのよ。美月はそれを受け入れようとしていたけれど、なかなかそれに気づけなかったようですわ」
と乃愛は後ろで見守っていた彩音に向けて言った。
「それに、美月に対して他の学生たちは別に嫌悪感を持っていたわけじゃないの。みんな、彼女の本質を理解したかっただけなんじゃないかな?」
と彩音は頷いた。
最終的に、美月は身につけていた高級ブランドを手放し、彼女自身の魅力を真正面から見ようと努力し始めた。
「私が本当に望んでいたのは、みんなが私を見てくれること。自分自身を偽らずに、他の人たちに愛されたかったの」
と、美月は涙を流しながら語った。
事件は見事に解決し、乃愛と彩音は新たな経験を胸に、再びキャンパスの友人たちとの交流を深めることができた。
その帰り道、乃愛は彩音に微笑んで言った。
「この事件を通じて、私たちもまた成長しましたわね。友情がどれほど大切かを実感しました」
「これからも、様々なミステリーを一緒に解決していこうね」
と彩音は再び笑顔を見せた。
二人は、新たな冒険にワクワクしながら、大学生活の一幕を胸に刻み、次に待ち受けるミステリーを心待ちにした。