一見すると平穏な大学生活を送る久遠乃愛と雪村彩音は、何やら不穏な空気を漂わせる一件に巻き込まれることとなった。
その日、乃愛は午後の講義を終え、自宅へと帰る道すがら、彩音からの電話を受けた。
「乃愛ちゃん、聞いて!最近、学食のキッチンで遺言書が改ざんされた事件があったの。私、ちょっと気になるから一緒に調べてみない?」
彩音の声にはいつも通りの明るさがあったが、その内容に乃愛は心が躍るのを感じた。推理小説の世界に強く影響を受けて育った彼女にとって、ミステリーの香りが漂う事件は魅力的であった。
「彩音さん、詳しく教えていただけますか?」
二人は指定された喫茶店で待ち合わせ、彩音から事件の詳細を聞くことにした。
「実は、アルバイト仲間の田中さんが最近、学食で嫌がらせを受けていたの。それが原因でストレスが溜まり、ついに遺言書を改ざんするに至ったらしいわ。でも、彼女はただの冗談だと言っているの。でも、そもそも彼女が言っている遺言書は、他の人にも関係があるものなの。だから、どうして彼女がこんなことをするのか、真相を探りたいの」
話を聞きながら、乃愛は眉をひそめた。アルバイトの仲間ということで、彼女の周囲にはさまざまな人間が関わっていたのだろう。どのような動機や圧力があったのか、それが問題であった。
「わたくしはその現場に向かってみたいですわ」
「うん、私もついて行く!」
乃愛の決意を受け、二人はすぐに学食へと向かうことにした。
学食のキッチンに足を踏み入れると、未知の香りが漂って来た。何かが焼かれているのか、煮込まれているのか、それとも調理器具に着いた何かの匂いなのか、はっきりしない。しかし、明らかに普通ではない匂いの中、乃愛は心を落ち着かせ、部屋全体を観察し始めた。
「ここがその現場なのね。とても雰囲気がありますわ。まずは、田中さんに話を聞きましょうか」
「そうだね、彼女にお話を聞けば何かしらの手がかりが得られるかも」
二人は、田中がいるという休憩室に向かった。そこには、疲れた表情を浮かべた田中がいた。彼女は彼女の仲間と溜まっておしゃべりをしている最中だったが、乃愛の姿を見ると少し驚いた様子を見せた。
「久遠さん!それに、雪村さんも…何か用?」
「田中さん、少しお話を聞かせていただけましょうか?」
乃愛の冷静な声に、田中は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。
「もちろん、何でも聞いてください」
部屋は緊張感に包まれ、乃愛は質問を投げかけた。
「まずは遺言書の件についてですが、どうしてそのような思いを抱えたのでしょうか? 何かプレッシャーがあったのでしょうか?」
田中は一瞬目を伏せた後、声を絞り出すように話し始めた。
「私、最近試験が近くて、同じアルバイト仲間と比較されてばかりなの。本当にストレスが溜まっていて…そんな時、友達の一人から遺言書の話が出たのがきっかけで…冗談半分に書いてしまったの。意図はなかったのに…」
乃愛はその言葉に耳を傾けながら、冷静に分析を行った。田中の様子は嘘をついているようには見えなかった。必死に彼女を守ろうとするその姿勢は、彼女の無邪気ささえ感じさせた。
「なるほど、無理に全部を背負うのは良くありませんわ。しかし、先ほどお話しされた遺言書が他の人に関係があるというのはどういう意味でしょうか?」
田中は再び目を伏せた。
「それは…他の仲間、特に自分の彼氏についてのことなの…すみません、私が言ったことでみんなを巻き込むのは申し訳ないから…」
その言葉の裏には、何か別のドラマがあるようだ。乃愛は田中の情に訴える表情を眺めつつ、その謎を解き明かすための新たな手がかりが掴めそうだと感じた。
「承知いたしましたわ。ありがとうございます。もし何か気になることがあれば、私たちに教えてください」
田中は頷き、乃愛と彩音はこの場を後にした。
学食の外に出ると、彩音がさっそく口を開く。
「乃愛ちゃん、どう思う?押し迫った感じはするけど、田中さんは本当に関係ないのかな?」
「わたくしもそう感じますわ。彼女の言葉には心からの誠があるように思えました。けれど、状況には他の仲間が関わっている様子ですから、慎重に進めなくてはなりません」
彩音は小さく頷き、二人は次の手がかりを探すべく、他のアルバイト仲間に話を聞くことにした。
果たして、その仲間たちは田中を信じた様子だった。しかし彼ら自身も、少なからずプレッシャーを感じており、田中の愚行に対しては少なからず理解を示していた。彼らの会話の中から感じ取れたのは、何か大きな影が彼らの生活を覆っていることだった。
「そうだ、話を進めるためにもう一度キッチンに戻ってみましょうか。何か手がかりが残っているかもしれませんわ」
乃愛の提案に、彩音は大きく頷いた。
「うん、行こう!」
再度キッチンに戻ると、あの未知の香りが漂っており、その匂いに注意を払いつつ、乃愛は調理器具を注意深く調査し始めた。
何かが違う。冷静な観察眼を駆使する乃愛は、普段は気に留めなかったような場所に目を向けた。そこには、普段使っていない調理器具が物静かに放置されていた。
「こちらを見てみて。何か異臭がするわ」
乃愛はその器具を指差し、彩音は苦い顔をした。
「確かに…この匂い、他のと違うよ」
乃愛は、器具を引き寄せ、その底に残った汚れを懐中電灯で確認した。
「こちらは、食材として使用されていないもののようですわ。明らかにここで使用された感じがしない」
その時、思いがけない声が背後から響いた。
「何を探しているのですか?」
振り返ると、そこには同じアルバイト仲間である小林が立っていた。特に気弱な印象を持つ彼は、不安そうな表情を浮かべている。
「小林さん、久しぶりですわ。実は、調理器具について少し調査をしているのです」
「それより、こんなところで何を…」
乃愛は小林の言葉に気を取られ、その視線を受け止める。
「何か気に障ったのでしょうか?わたくしの行動は、すべて事件に関係があると思ってのことです」
小林は一瞬顔を真っ青にした後、機敏に目を逸らす。
「いえ、何でもありません。でも、この器具は確かに、他の仲間が使ったことのないものです。あなたが調査する必要はありませんよ」
その瞬間、乃愛は何かが閃くのを感じた。小林の言動は不自然で、彼が何を隠そうとしているのか気になった。彼は何かを知っているのだと直感した。
「何か知っているのでしょうか?何か、あなたにとって恐ろしい出来事があったのですか?」
小林は唇を噛んで、しばらく沈黙した後、苦悶の声で答えた。
「俺だって何も知らない。田中はそれについて冗談を言っただけなんだ。ただ、彼女が痛手を受けるのは嫌だったから…」
彼の言葉は、意外にも何らかの背後に深い意味を持つようだった。乃愛はその表情から、彼が何らかの強い動機を抱えていることを感じ取った。
「お話に少しお付き合い願えますか?」
小林は恐れを抱くように、彼女の目を見つめた。
その後、彼の言葉は、田中が振り回された結果、彼女が冗談を言ったときの仲間たちの憤慨の声や、隠れた試験のプレッシャーについて語り出した。それは彼自身の取り組みに起こっていた恐怖を浮き彫りにし、学食の中で人間関係が複雑に絡み合っていることを示唆していた。
「その冗談、実際にその場にいた時の言葉はどうだったのですか?」
乃愛の問いかけに、小林は少し緊張した様子を見せた。
「それは…冗談としてはとても不穏なものでした。曖昧な言動があったとしても、冗談らしさは全くありませんでした。それに、僕らは田中に強い声をかけてしまったことに後悔していたので、それが悪化を招いたかもしれない」
乃愛は頷いた。事情はますます複雑化していくが、彼女の分析は思考を深めていった。
「それでは、他に不自然なことはありませんでしたか?彼女の感情に何らかの影響を与えているものは?」
小林は目を丸くした。
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「皆さんが抱えているプレッシャーは、考えずにはいられない事柄ですわ。過去の出来事や発言が、田中をよりおかしな状況に追いやるかもしれませんから。何かの手掛かりが得られれば、真相に迫れるかもしれませんわ」
小林は小さくため息をつきながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。
「考えてみれば、田中が最近おかしな行動をしていた気がします。特に、周りを気にする瞬間が増えていたと思います。多分、何かしらの圧力を感じていたのかも…」
「圧力ですか。私たちが気がつかない何かがあるのかもしれませんね」
その瞬間、乃愛は何かが腑に落ちた。田中が感じていたその圧力は、もしかしたら小林自身にも影響を及ぼしていたのかもしれない。
彼女は、小林の持つ何かが感情に影響を与え、田中の行動と連関しているのかもしれないと思った。
さらに話を進めていく中で、乃愛と彩音はそれぞれの証言を受け止め、田中の行動の真意についてより深く掘り下げなければならないと思った。
「それでは、私たちはさらに調査を続けます。模様を見ていく中で、さまざまなテストを行って、田中の行動やプレッシャーの原因を明らかにしていきましょう」
小林は頷き、果てしなく続く疑問とともに、乃愛と彩音はその場を離れた。
尚、次に彼女たちは何をすべきか、具体的に頭を巡らせながら、再度調査を進めることにした。
その後、乃愛は学食周辺に再度足を運び、さまざまな人々に直接聞きたい情報を得るために、特別な観察眼を持って進めた。
不安を募らせながら、装飾された学食とは裏腹に、次第に真実が見えて来つつあった。彼女は心を落ち着け、
「私たちは真相を解き明かすために進み続けることができる」
と自らに誓いを立てた。
やがて二人は、再びグループで集まる機会を迎える。しかし、彼らが直面していたその圧力は、今までで見えなかった気づきへと繋がり、わたしたちの目の届かぬ裏側に潜む真実に迫ることができたのだ。
その後、一端の情報を得て休息し、彼女たちは別々の調査に向かった。
日が暮れる頃、その夜のデメリットが少し薄れ、乃愛は心の矛先を向け直した。
「この学食にはここでの仕事を求めるすべてのフィールドが統合されているようなの」
再びキッチンへ戻り、重要な道筋を狙うことにした。圧迫と圧力の中で、彼女は優れた能力を発揮し続ける。
そこには、何かしらの手がかりが待っているのかもしれない。
その時、突然、田中が目の前に現れ、乃愛との目が合った。
「彼女のことを何か知りたいの?」
彼女の問いかけが、乃愛の心に強く残る。そして、彼女の記憶が呼び起こされる。
この学食でのインシデントが一体何を示唆しているのか、その背景にはどのような人々がひしめいているのか。それはまさに事件が待ち受けている証であり、乃愛の冷静な観察眼は真相に迫り続けた。
田中はその視線を感じ取り、その目には思わぬ恐怖が漂っていた。
「あなたには気がついているの…」
少しずつ、乃愛は彼女の思考が整った。
「変わりましたね、田中さん。やはり圧力はあなたに強く影響を与えているのでは?」
田中はその言葉に驚きを感じ、彼女の目線がさらにズレていく。
「私はただのアルバイトで、他の人も同じです」
「この場での圧力やプレッシャーのせいで、私たちの生活が狂うことのないようにしましょう。この状況は、全員にとって不安なのですから」
そして、彼女たちは事件の真相へと、ゆっくりと接近していった。
周囲の圧力を逆に生かした彼女たちの行動は、まもなく真実を解き明かす瞬間をもたらすことに繋がっていくのであった。そして彼女は、すべての登場人物が発しているシグナルを受け取りながら、思いがけぬ事態へ、とつながっていくのだった。
その翌日、乃愛たちは一連の事件の全貌を把握した。押し迫った緊張感は、時には軽快な調子を生み出し、その中に埋もれていた真実を掘り起こしていく。
彼女が手に届こうとしているその真実へと、すべての調査結果は繋がり、事件の全容が明らかになりつつあった。
この学食という舞台裏で起こっていた遺言書の改ざん事件がどのように解決へと導かれるのか、二人はそれぞれの道を進む。個々の力を結集しながら、遂に最終的な結論へと迫り、全体像を見いだした。
「全ての圧力やプレッシャーから生まれる捻じ曲がった感情が、彼女を追い込んでしまったのではないか」
そう考えつつ、乃愛は雪村彩音と共に、真相へと導かれるシルエットに辿り着いた。