第43話 「生き延びるためのサバイバル」

麗司は、スーパーマーケットの店内に足を踏み入れた直後、周囲の静けさに少し安堵を感じた。異常な状況にあるこの世界の中で、まるで別の時間が流れているかのような感覚だ。しかし、その安堵は長く続かなかった。彼の心は次の行動へと急かされていた。彼にとって、この瞬間が生存の鍵を握るのだ。手に入れた食料が無駄になってはいけない。早く帰らなければならない。

麗司は手にした袋の重みに意識を戻し、急いで店内を見回す。冷蔵庫から取り出した食料を安定させるためにも、すぐに帰路につく必要があった。だが彼は、やはり何かを見落としているような気がしてならなかった。このスーパーマーケットは、活気ある都市生活の一部だったはずなのに、今や無人の廃墟と化し、不気味な静寂だけが彼を包み込んでいる。

「選びながらも、何が必要なのか、今後の生活を見越して考えなければ」
と麗司は自分に言い聞かせる。焦らず、落ち着いて。彼は自分の心にその言葉を繰り返し、自らを鼓舞した。まずは、今後数日間を生き延びるために必要な食料を準備しなければならない。冷蔵庫の前に立ち、彼の目は素早く動く。缶詰、即席麺、調味料、ドライフード…これらが彼の望みに応え、限られた時間内での選択を手助けしてくれるはずだ。

時間が経つにつれて、彼の心臓は再び速くなる。何か音がしたのだ。彼の心がざわつく。間違いない、ゾンビの気配だ。反応するのは音だけだと彼は思っていたが、彼の思考の中で危険が迫っている感覚が生まれていた。ゾンビは明らかに近づいてきている。彼は一刻も早くこの場所から離れなければならない。食料を手に入れたとしても、無事に外へ出なければ意味がない。

麗司は応急処置的に手を伸ばし、近くにある缶詰をいくつか掴んだ。缶詰は賞味期限切れのリスクもあるが、非常時の食料として重要だろう。彼はバッグの中に缶詰を放り込みながら、まだ食料が十分に取れると期待していた。足元に転がる空き箱や、棚に散らばっている商品とは対照的に、無言の市場は更なる不安を煽る。

麗司は、缶の重みを感じながら急いで最寄りの棚へ移動する。味噌や醤油、インスタント食品の数品を選らぶ。少しでも彼の可能性を広げるために、彼はクリエイティブに選択肢を搾り出した。
「日本独特の食材を使ったアレンジも考えよう」
と自分に言い聞かせ、ストックを取るのを決める。

袋が十分に重くなったことで、彼は満足感を得たが、その一方で恐怖感も高まる。外の動きがどうなっているのか、心配だ。待ち続けるのはもはや不可能と判断し、彼は今すぐにでも脱出準備に取り掛かる決意を固めた。

彼の心の中には急かされる焦りが渦巻いていた。決断を下した瞬間、レジの方へ急ぎ、そのまま出口に向かって進んだ。この静寂な世界で、恐怖の要素が近づいているのだ。まるで足音が聞こえてくるようだった。すぐそばで誰かがゾンビになってしまっているかのような気がしてならない。

その瞬間、彼は後ろから音がするのに気づく。
「これ以上待てない」
と思った瞬間、麗司は目を急に向けた。近くの商品棚がぶつかり合い、何かが倒れている音だ。彼は素早く行動しないと、危険に直面するのが目に見えていた。

「外に出なきゃ」
と思い、麗司は慎重に出口へ向かう。逃げ道は確保できているが、彼の心もまた、空虚な廃墟にある何かの影を求め始めている。彼は冷静さを保ちつつ、バックパックを強く握りしめ、徐々に出入り口へ近づいていく。

「今こそ出るんだ…!」
心の中で叫びながら、麗司は身体を前に移動させた。出入口の扉を開けると、外の世界は彼にとって見慣れたものではなかった。建物の周囲は、バランスを失った風景が広がっていた。かつての街並みはもはや一片も残されていない。彼は不安感を覚えながら、周りを確認し、無意識に足元を見つめる。

深呼吸をし、思いを一つにまとめる。
「私は生き延びる、必ず」

外は依然として静かで、風が薄く吹いている。麗司は荷物を抱え直し、音に気を配りつつ慎重に周囲を確認した。あの不気味な静けさの中で、周囲に何が潜んでいるのか全く読めない状態なのだ。彼はとにかく速やかに動く必要があった。

それにしても、どうすればいいのか。この状況では、家へ戻ることが何より大事だ。行き道と同じ道を戻るのが安全だと思い、麗司は慎重に前進した。この先で何が待ち受けているのかすら分からない上に、彼自身がなんの予告もないままゾンビに遭遇する危険性が高い。不安が彼の心に重くのしかかる。

麗司はやがて、途中で見かけた建物の影に隠れて待った。彼にとって隠れられる場所は、その時点ではありがたい避難所だった。数分間待ちながら、周囲に敵が近づいてきていないか確認する。心臓の鼓動が高まり、乗り越えたい衝動がこみ上げてくる。

「何も起こらない、安静に…」
と唱えるように、彼は冷静さを維持する努力を続けた。周囲の動きは完全に消え去り、彼の感覚を研ぎ澄ますのだけが今は唯一の選択肢だった。待機中、様々な状況を分析し、自らに思考を巡らせた。

「食料は一日半分程度しかないだろうし、次はもっと長く生きるための工夫が必要だ」
と反省する。冷静な判断は、この困難な状況での必然的な成長に通じる。彼は一つの大きな教訓を獲得した。この異常な現実を生き延びるために自分の知識と危機管理能力を最大限に活用しなければならないのだと。

周囲が完全に静まり返ったのを見計らい、麗司は再び強い決意を持って身を起こした。今は進むしかない。この街の真ん中で、彼の感覚を信じて行動する必要があった。

心の中には常に緊張感が渦巻いていた。彼は家に帰り着くこと無く、手に入れた食料が無駄にならない事を思い描いていた。この先には、さらなる困難が待っていることを知りつつも、サバイバルを続けていく必要がある。生存本能が彼を突き動かし、感情を無にして前を向いている自分を感じる。

最終的に、彼は選んだ。食料を確保し、次の行動を決定する。
「行こう、少しでも戻って状況を整えよう」
彼は出口へ向かい、隠れていた場所から飛び出した。静まり返った空間の中で、再び麗司は生き延びるために一歩を踏み出す。

生き延びるための格闘が続く中で、彼の内面での葛藤が彼自身を鍛えている。これから彼が向かう先には何が待ち受けているのか、彼にとっての限界がどうなるのか、全てが彼の判断にかかっていた。

「必ず生き延びる」
その一言が、数日後の自分を支える力となることを信じて、麗司はこの新しい世界での冒険を続ける決意を固めた。再び挑むためのサバイバルが、彼を待っているのだ。まさに、どんな困難が彼を迎えようとも、希望を持って進み続けることに変わりはないのだ。