第41話 「サバイバルの鍵」

麗司は、一瞬の静寂の後、ドアを開け外に出る。彼の心拍は速く、不安が胸を締め付けるが、彼はそれを押し込める。目の前には、破壊された都市の光景が広がっていた。かつて彼が歩いていた場所は、今や不気味な静けさの中にあった。倒れた車、割れたガラス、荒れ果てた道。どこを見ても人影はなく、ただ無数のゾンビが徘徊している光景が彼を包み込む。

「まずは、水源だ」
彼は心の中で呟く。周囲を見渡し、短時間でどうにか水を見つける必要がある。自身の体力を考えれば、無駄な動きはせず、目の前の状況を冷静に把握することが今の彼に必要だった。

麗司は、スーパーマーケットから出て直ぐの右手に見えたドリンクショップを思い出した。彼は、あの場所が水の確保に最適だと感じたが、同時に恐れも克服しなければならなかった。潜むゾンビの存在が彼の行動を鈍らせるが、確実に生き延びるためには避けては通れない選択だった。

慎重に足を進める。次第に近づくにつれて、視界の隅にゾンビの姿がちらりと映る。彼は、ゾンビの動きに合わせて、物陰に隠れながら慎重に移動した。音を立てないように心がけ、冷静さを保ちながら彼は自分の動きをコントロールする。

ゾンビの特徴を彼はしっかりと覚えていた。動きは遅く、音に反応して近づいてくる。だからこそ、彼は気をつけて足音を忍ばせ、障害物の後ろに身を隠した。目の前には、カートで無造作に放置された空の飲料水があるコンビニの入口が見える。あそこは狙い目だ。しかし、目の前のゾンビがその入口に近づいているので、今は行動を控えるしかなかった。

「まずはここで待機だ。音を立てずに、やつらが離れるのを待て」
と自分に言い聞かせる。麗司は目を細めて周囲を見極めた。動く気配が消えたタイミングで、ドアの陰から顔を出す。周囲に注意しながら、ゾンビの動きを観察する。何とか踏み込む機会を狙い、直感を頼りに様子を見守る。

時間が経つにつれ、徐々に緊張が高まっていく。ゾンビがその場から動かず、麗司はジリジリと焦る気持ちを抑えた。足元には、彼の不安要素が次々に募っていく。近くに何が潜んでいるのか、次に付け入る瞬間はいつなのか、彼の心は千々に乱れていった。

「少しでも動けば、音を立てるかもしれない。この場でじっとしていることが、安全な選択なのだ」
と何度も自己暗示をかける。そんなとき、ふと周囲の物音が聞こえた。何かが近づいている。彼は息を呑む。頭をよぎる不安と恐怖感が、さらに募る。

動きは、ゾンビのものだった。麗司の目の前で、奇妙な音を立てている。逃げたくなる気持ちを抑え込み、うごめくゾンビを観察した。音に反応したのか、カートの影に隠れている彼を嗅ぎ取ろうと、そちらへ向かおうとしている。彼は息を潜め、身を小さくし、何もできない状況にいる自分に焦燥感を抱いていた。

しばらくして、やっとゾンビが彼の視界から消えた。麗司は、静かに耳を済ませる。周囲に何も音がしないことを確認した後、決意を固める。
「今がチャンスだ」
麗司は、思い切って動き出す。

近くのコンビニへ急ぎ足で向かい、周囲の威圧感を意識しながら慎重に入口を目指す。ドアが開く音さえも響くことに恐れを抱きつつ、彼は息を潜めて入ろうとする。恐怖を感じた瞬間、ドアの隙間から不気味な影が差し込んだ。麗司の心は締め付けられるような感覚に襲われた。

「動くんじゃない」
心の内で声を出すが、現実はそう甘くはない。彼は脳内で『こうするしかない』と繰り返し、ドアを開けて中に滑り込む。すぐに周囲を見渡す。ひんやりした空気に身震いしながら、コンビニは静まり返っており、外の異常さと対照的であった。

商品棚の前には、何も落ちていない。まるで誰もいなかったかのように感じた。麗司は心臓の鼓動を抑えつつ、急いで飲料水を探し始める。冷蔵庫の前に立ち、ドアを開ける。冷たさが彼の肌に触れ、僅かな安心感が広がった。

すぐに視界に飛び込んできたのは、ペットボトルの飲料水だった。彼の心は弾む。
「これだ、これが必要なものだ」
と思いながら、手を伸ばす。普段なら目にすることはなかった、今では生きるための貴重な資源。数本のペットボトルを手に取り、さらに探す。心の底から嬉しさがこみ上げてきた。

しかし、その後すぐに、自分自身を引き戻す。
「危険だ。やつらがここに来るかもしれない」
と思い直す。すぐにはドアを閉め、感覚が鋭くなった。急いでコンビニの奥へ向かう。焦る心が無駄に音を立てないように、静かに慎重に進み続ける。

奥に進むと仕事のためのストックルームが現れた。普段は目が向けられない場所だが、今は全てが命の糧になり得るものの宝庫かもしれない。麗司は棚の上に目を細め、何が隠れているのか確かめるべく手を伸ばす。目の前には、貴重な食品のストックや缶詰が所狭しと並んでいた。これらも彼の生存に欠かせないアイテムとなる。彼は軽い興奮を覚える一方で、心の中では最悪の事態を想定しなければならなかった。

ただ、彼が物を掴んでいるその瞬間、コンビニの外から物音が聞こえた。彼の心臓が急速に高鳴る。
「まさか、ゾンビか?」
思わず振り返り、焦りのあまり物を落とす音が響いた。一瞬、周囲が静まり返る。麗司は思考を一瞬停止し、真っ白になった頭で耳を澄ます。

音が止み、心の中では不安が渦巻く。
「ああ、どうしよう。逃げるか?」
彼は思った。しかし、逃げることはできない。彼は何も手に入れずに出るわけにはいかないのだ。
「水と食料を手に入れなければ」
その気持ちが彼に勇気を与えた。

休憩してはいられない。彼はすぐに物を集め始めた。手に入る限りの缶詰やインスタント食品を、目の前にあるストックルームから一気に詰め込む。それが全ての希望になるのだと思うと、彼はどれだけ落ち着こうとしても冷や汗が背中をつたった。

「次はどうする?さっきの音が再び聞こえるかもしれないから、焦らず、冷静に進め」
彼は自分自身に言い聞かせた。彼は再び音を聞くのを避けるために、急いでストックルームを後にした。目指すは、先ほど見た飲料水を入手した場所。その場を離れる選択は最優先だと決めた。

心臓が高鳴る中、麗司は頭が真っ白になりながらも静けさを保ち、ドアにたどり着く。そして、素早く外に出て物音の発生しがちな場所に足を運んだ。周囲に人影が見えないことを確認し、再び目の前のコンビニから逃げ出すように進行し続ける。

「ゾンビはまだそこにいるはずだ。近づくと危険だから、あざむいて通過するのがベストだ」
彼は心の中で慎重さを改めて再確認する。進む先には、コンビニのあの壁を越えるための細心の注意が必要になってくる。

麗司は無言で壁に触れ、早めに走り抜ける必要があったかのように感じながら、目の前の進行道を全うする。何か背後に感じる気配があればすぐに屈みこむが、まったく意識した新鮮な空気は彼の背中を送り出していた。

安全な場所になど無縁に思えるが、彼は自分を駆り立てる。生き延びるためには逃げざるを得ない。今日も新たな希望が彼の手にあると、麗司はその思考を保ちつつ動き続けた。彼の命をかけて選んだ道は今日のサバイバルの鍵とする、そう思って。

幸いにも、彼は無傷で目的の飲み物数本を確保し、無事にその場を離れることができた。生存の戦いは続いていく。彼がその地で進行する限り、彼の物語が希望へ繋がることを祈って。